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第123話:直観について考える(2017/03/27)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆人工知能vs直観

今回のPMスタイル考は直観について考えてみたい。

実は、連載「コンセプチュアルスキル考」の記事でも直観に関する記事があるので、こちらも併せて読んで戴ければと思う。

【コンセプチュアルスキル考】第11話:5つの軸について考える(2)〜洞察は直観から生まれる

【コンセプチュアルスキル考】第19話:直観を活かし、論理で検証する

まず、なぜコンセプチュアルスキルの話題をPMスタイル考で取り上げようと思ったかというと、一冊の本を読んだからだ。

奈良 潤「人工知能を超える人間の強みとは」、技術評論社(2017)

著者の奈良潤さんは

「エキスパートによる判断と意思決定の本質は”直観”にある」

という言葉で知られる米国の認知心理学者で、現場主義意思決定理論の創始者であるゲイリー・クライン博士に師事した唯一の日本人である。この本は、人工知能の分野におけるゲイリー・クライン博士の活動を紹介しながら、自身の見識を述べたものだ。


◆エキスパートによる判断と意思決定の本質は”直観”にある

人工知能は今ブームの真っ盛りだが、そのきっかけを作ったのは、米国の人工知能研究であるレイモンド・カーツワイル氏が示した

「2045年には人工知能は万能となり、人間の英知を超越する「シンギュラリティ(技術的特異点)が到来する」

という予測である。この予測には賛否両論がある。そして否定派の一人がゲイリー・クライン博士であり、その理由として挙げているのが、人間の強みは直観にあるという考えである。そして、直観の性質から

(1)人工知能は人間ならではのシミュレーション能力を模倣できない
(2)人間には当然と思えるような認知作業も人工知能が再現するのは困難

の2つの理由により、人口知能の発展はもっとゆっくりと進み、2045年にシンギュラリティが訪れることはないだろうと主張している。

興味がある人は本を読んでみてほしいのだが、この記事では、ゲイリー・クライン博士の主張である「エキスパートによる判断と意思決定の本質は”直観”にある」について考えてみたく、このテーマの記事を書いた。


◆「直観」の定義

少し前置きが長くなったが、まず、言葉の定義からしておく。ゲイリー・クライン博士は直観とは

「直観とは、自分の経験に基づいて判断や意思決定をする方法である」

と定義している。そしてその方法としては

「経験に基づく認知パターンに当てはめることで状況の成り行きを判断し、とるべき行動プランを決断する」

としている。

ちなみに「ちょっかん」にはもう一つの漢字がある。「直感」であるがこれは経験以前に「感覚的に感じとること」である。この2つを厳密に区別することは難しいが、一般的にいえば我々がビジネスで使っている「ちょっかん」は直観であることが多い。つまり、経験に基づいた瞬時の判断であることが多い。

さて、PMstyleのコンセプチュアル思考では、直観をゲイリー・クライン博士の定義と同じく、すでに持っている知識やスキル、経験などの学習に基づき判断や意思決定をすることだと定義し、その上で5つの軸の一つに

直観⇔論理

という軸をおいている。基本的に直観で出した結論は経験に基づいているのだ、何らかの形で論理的に説明できることを前提にしている。


◆直観がもたらすもの

直観を使うことによって得られる効果はまずは生産性だ。たとえば、5つの実現案があって実際に試してみて、目標をクリアできる案を決めたいとする。この場合、どの案から試してみるかによって1回で終わる場合もあれば、5回やらなくてはならない場合も出てくるわけだが。これによって大きく生産性が異なってくる。このため、経験に基づく直観を働かせることによって生産性を向上させることができる。

もう一つのメリットは気づくことだ。よく「何かがおかしい」というところから問題が見つかるというケースがあるが、これも経験に基づく直観の成せる業だといえる。

PMstyleでは、一般的に直観が有効に機能するのは、以下のような場合だと考えている。

・学習済みの行動パターンを迅速に展開すればいい場合
・問題の存在を察知する必要がある場合
・合理的な分析の結果をチェックする場合
・予想がくつがえった場合
・「大きな絵(ビッグピクチャー)」を構築する場合
・綿密な分析は棚上げして、迅速にそれなりの解決に達したい場合


◆直観力を高めるには

では、直観力を高めるにはどうすればよいのだろうか?まず、基本的には直観と論理の軸を行き来すれることだと考えているが、奈良さんは本の中でもっと詳細に考えているので紹介しておこう。以下の8つである。

(1)ある一定以上の学習時間と絶対量を確保する
(2)記憶と忘却の繰り返しを面倒くさがらない
(3)「ゆっくり丁寧な訓練」と「スピード重視の訓練」を使い分ける
(4)緊張とリラックスを繰り返す
(5)ちょっとした「遊び心」を忘れない
(6)細部や論理にこだわりすぎたら全体像を眺める
(7)異なる分野に触れて刺激を求める
(8)能力を多角的に鍛える

(1)〜(5)は、直観と論理の軸を行き来するときに気をつけたいことだ。(6)については、コンセプチュアル思考では直観と論理の軸を行き来するのに加えて、大局と分析の軸に行き来を混ぜることである。

このようにして、直観力を高めることにより、人間らしい意思決定をすることができるようになるが、これはコンセプチュアル思考力を高め、コンセプチュアルスキルを強化することに通じる。

著者はシンギュラリティの議論については否定派であるが、人工知能がいろいろな分野で、さまざまな形で使われるようになることは間違いないと思う。その際、人間だけができることは直観が絡んだものごとになるだろう。そのためにも直観力をうまく活かせるように高めていくことは重要である。

直観力の鍛え方についてはこちらの本も参考にして頂ければと思う。

【参考資料】
好川 哲人「コンセプチュアル思考」、 日本経済新聞出版社(2017)


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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