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第122話:進捗について考える(2017/03/15)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆「マネジャーの最も大切な仕事」

最近、読んで非常に面白かった本がある。この本だ。

テレサ・アマビール、スティーブン・クレイマー(中竹竜二監修、樋口武志訳)
マネジャーの最も大切な仕事――95%の人が見過ごす「小さな進捗」の力」、英治出版(2017)

この本で、テレサ・アマビールは人間に改めて注目し、人間であることを示す要素として、モチベーション、感情、認識と考え、この3つの要素の相互作用を「インナーワークライフ」と呼んでいる。そして、インナーワークライフを向上させることが、組織と個人の創造性、生産性を高めるためにもっとも効果的だと考えた

つまり、

「進捗は難しい挑戦をためらいなく受け入れ、より持続的に取り組んでいくよう人を動機づけする」

と考えたのだ。そして、インナーワークライフを向上させる方法を大規模な調査(3業界、7企業、238人対象)により分析している。

「チームや部下にとってやりがいのある仕事が、毎日少しで進捗するよう支援すること」

だった。これが書籍のタイトルにもなっている「マネジャーの最も大切な仕事」だというのだ。


◆進捗とは何か

この議論をあなたはどう思われるだろうか?

きっと多くの人は進捗に対するイメージが少し違ったのではないかと思う。プロジェクトや業務において進捗は管理の対象になっていることが多い。つまり、事前に計画を立て、その計画通りに進んでいることを管理者や組織が確認するために進捗を使っている。

プロジェクトや業務の状況を組織で共有できるという意味でそれは有効である。もちろん、進捗が遅れていれば計画通りに進むように何か手を打つこともできるだろう。

この議論は微妙な議論で、計画をどのように位置づけるかにもよる。つまり、プロジェクトにおいて計画は絶対的なものであり、計画以下はもちろん、計画以上のことをすべきではないというPMBOK(R)的な考え方であれば、進捗は管理に使われるだけで十分である。

しかし、進捗にはもっと大きなパワーがある。


◆進捗のパワー

今、多くプロジェクトはそうではなくなってきている。進め方(アプローチ)はもちろん、スケジュールやコストといった要素まで最初に決めることが難しくなっている(もちろん、そうはいいながら誰も確信をもっていない数字を決めるのだが)。

このようなプロジェクトにおいては、進捗はもっと大きなパワーを持つ。それは、メンバーやプロジェクトマネジャーのモチベーションになることである。進捗することによって、メンバーは動機づけされ、より生産性が上がる。

それだけではなく、創造性も高まり、難しい課題へのチャレンジを行うようになる。創造性の問題はマネジメントの考え方により妨げられていることが多いが、生産性が向上するという現象は現実によく見かける。

つまり、マネジャー(プロジェクトスポンサー)にとって進捗は管理する対象ではなく、推進させるための手段なのだ。つまり、進捗が少しでも進むように支援することこそ、マネジャーの仕事だといえる。あるいは、組織としての仕事だと考えてもよい。


◆日本的マネジメント

実は、このような進捗の捉え方は、日本ではプロジェクトマネジメントを導入する以前は行われていた企業が少なくない。進捗を管理するためにではなく、プロジェクトや業務を推進させるために活用するのがいわゆる日本的なマネジメント(管理)だった。

それでうまく回っていたし、特に高度成長期に日本企業が起こしたさまざまなイノベーションはそのようなマネジメントに支えられていたと言ってもよい。そこにプロジェクトマネジメントが普及してきて、進捗は管理に使うのが普通になってきた。

しかし、テレサ・アマビールの調査から分かるように、それは本質的な話ではなかった。進捗はプロジェクトの推進に使える。もちろん、管理しているのはプロジェクトを推進するためだという人も多いし、そもそも、プロジェクトの推進とは計画通りにプロジェクトを進めることだという意見もあろう。


◆進捗とはさみは使いよう

それはプロジェクトマネジメントの世界の話である。プロジェクトマネジメントで考えるプロジェクトはあくまでもオペレーションだからだ。しかし、マネジメントとして考えるなら、 プロジェクトは何も決まっていないことが多い。計画以上の生産性、創造性を以て行ってほしい。このようなプロジェクトでは、進捗を生産性や創造性を高める手段として位置づけるのが適切だ。

実際問題として、進捗が生産性を高め、創造的な成果を生み出すというのは経験上、よく分かる。進捗をするということはなにがしかの小さな成果を生み出すということだ。プロジェクトが行き詰るのはその小さな成果すら得られないという場合である。小さな成果に気をよくして、さらに大きい成果を得ようとするのが人である。

そう考えると、進捗の本質的な意味合いは、やはり、管理の対象ではなく、推進力だろう。進捗とはさみは使いようではないが、改めて進捗の使い方について考えてみてはどうだろうか。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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