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第124話:「アウフヘーベン」(統合思考)(2017/06/26)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆「アウフヘーベン」とは

今回のPMサプリは「統合思考」の話をしたい。

統合思考自体はコンセプチュアル思考の5軸の統合として、「コンセプチュアルスタイル考」で議論している。

【コンセプチュアルスタイル考】第21話:多様な意見を統合した新しいアイデアを生み出す

【コンセプチュアルスタイル考】第26話:5軸を統合した問題解決を行う

ここでは、もう少し一般的な議論をしてみたい。そう思ったのは、小池百合子東京都知事が、豊洲の市場問題で「アウフヘーベン」という概念を打ち出したことによる。
「アウフヘーベン」とは

あるものを、そのものとしては否定しながら、更に高い段階で生かすこと。矛盾するものを更に高い段階で統一し解決すること。止揚。揚棄。

のことだ。つまり、豊洲か築地かの二者択一ではなく、両方の選択肢を踏まえ、昇華した案を出すという意味だ。小池知事は「アウフヘーベン」として、「築地は守る・豊洲を活かす」という戦略を打ち出した。その目的は

・豊洲移転後にかかる費用の赤字に対応するため
・「築地ブランド」を生かして土地を有効活用するため

だとしている。

具体的なプランはまだ出ていないので批判も多いが、その中で「いいとこどり」をしているだけなので、実現できないだろうという批判がある。この記事を書こうと思った直接の理由はこの点にある。


◆「アウフヘーベン」はコンセプチュアルスキルの「統合思考」

実は「アウフヘーベン」という概念はコンセプチュアルスキルにもある。コンセプチュアルスキルの言葉でいえば、「統合思考」である。まず、「アウフヘーベン」のイメージを明確にするために統合思考の例をご紹介しよう。

最初の例はフォーシーズンズというホテルである。日本にもある卓越したサービスでグローバルなホテルとして展開しているホテルだ。グローバルホテルのほとんどは施設の充実した大型ホテルであるが、これに対してフォーシーズンズは暖かいもてなしを売りの一つにしている。

これは創業者のイサドア・シャープ氏の発想による。イサドア・シャープ氏は施設の充実したホテルが主流の中で、アットホームな小型のホテルと、施設の充実した大型ホテルのいずれも捨てがたいと考えた。そして、モーテルのあたたかいもてなしと、大型ホテルの利便性の両方を合わせもつようなホテルを求めて作られたのがフォーシーズンズである。

フォーシーズンズに行き着くまでの思考過程はロジャー・マーティン氏の「インテグレーティブ・シンキング」という書籍を参考にしてほしいが、アットホームな小型のホテルと、施設の充実した大型ホテルという相反する2つの考え方を同時に保持し、対比させ、二者択一を避けて、両者の良さを取り入れつつ、両者の考えを上回る新しい解決に導くという過程を見事に実現している。

もう一つ紹介しよう。

1990年代、業績の悪化したP&Gで、これまで通りイノベーションを主張する派とコスト低減を主張する派の対立が起こっていた。

当時、CEOに抜擢されたアラン・ラフリー氏はそれまでのP&Gでは考えられない方策を取った。重要性の低いイノベーションを外注したのだ。これによって、コスト低減に徹底的に取り組む一方でイノベーションを強化していった。

つまり、アラン・ラフリー氏はコスト低減とイノベーションという二者択一を避け、両者の良さを取り入れつつ、両者の考えを上回る解決策を実行したのだ。


◆「いいとこどり」と統合

これらの例からわかるように「いいとこどり」と統合(アウフヘーベン)は異なる。

「いいとこどり」は、アイデアの組み合わせであり、新しい価値を生まない。むしろ、トータルの価値では減少してしまうことが多い。これに対して、統合は新しいアイデアの創出であり、新しい価値を生む。

小池知事の「築地は守る・豊洲を活かす」という戦略は実現の方法によっては統合に成りうる。「アウフヘーベン」と銘を打っているので期待したいところだ。


◆統合とイノベーション

さて、統合についてもう一つ注意しておきたいことがある。それはイノベーションとの関係だ。イノベーションは「既存のアイデア」の組み合わせであるとよく言われる。
すると、「いいとこどり」もイノベーションだと考えられる。実際に、セミナーで統合思考の話をすると、「いいとこどり」でイノベーションが起こせるのかという質問が出ることがある。

これは100%ないとは言い切れないが、ほぼ可能性はない。技術やアイデアを組み合わせるというのは統合するということだからだ。言い換えると、組み合わせた結果、新しい価値を持つ新しいアイデアが生まれ、それがイノベーションになる。

つまり、統合はイノベーションだといってもよい。この点を意識しておきたい。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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