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第12話:プロジェクトインテグリティ(2010/02/10)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆インテグリティとは何か

最近、プロジェクトにおいて「インテグリティ」という概念が注目されるようになってきました。この概念はたいへんに興味深い概念です。

まず、インテグリティという言葉はどういう意味かを紹介しておきましょう。オックスフォード英語辞典には

1.正直。強い道徳性をもっていること。高潔さ。
2.分断されていない全体性。(例)領土の保全と国家の主権を確保する
3.構造が損なわれず、統合された、健全な状態。(例)小説の統一性
4.電子データの内部の一貫性、損なわれていないこと

の4つくらいの意味が記されています。1.は主に人間性についてインテグリティという言葉が使われるときの意味です。また、4.は情報処理の世界では普通に使われている使い方です。マネジメントでは、主に、2.や3.の意味が重要になってきます。

インテグリティという言葉の根底にあるのは

全体が分断されずに統合されており、完全で、うまく機能している

というニュアンスです。キーワードは、統合、完全、ですね。


◆プロジェクトで求められるインテグリティの例(1)

では、どうしてプロジェクトでインテグリティという概念が注目されるのでしょうか?インテグリティという言葉のイメージが分からなければ、統合、ウィンウィンという言葉で考えてみるとよいかもしれません。

まず、真っ先に出てくるのは、成果の統合です。プロジェクトは普通、多くの人が関わって成果を生み出していきます。そこで真っ先に問題になるのは、各人の生み出した成果をどのように統合していくかという課題に直面します。もっともモノよりのところでは、モジュール(デリバラブル)を組み立てて、一つの大きな成果にしていくことです。ここには、強力なインテグリティが求められます。


◆プロジェクトで求められるインテグリティの例(2)

次に、複数のマネジメントの視点が統合されていることも重要です。プロジェクトのマネジメントはスケジュールだけを管理していればよいとか、コストだけを管理していればよいとかといった、一元的なものではありません。

少なくとも、スコープ(品質)、時間、コストの3つについては統合的に管理される必要があります。スケジュール通りにプロジェクトは終了したけど、コストは当初の見積もりの倍かかったというのでは成功したとは言えません。

逆に、コストやスケジュールは予定通りだったが、スコープを膨らませているというケースもあります。さすがに、予算があまったので「エンジンのバリをとる」ような駄目工事をやりましょうというケースはなくなってきていますが、プロジェクトの予算が余っているので研修をやりたいというケースは少なくありません。動機は違いますが、予算を使い切りたいのは役所ばかりではないようです。

プロジェクトは目的・目標を達成する活動です。スコープ、時間、コストのインテグリティの問題は、結局、プロジェクトの目的や目標にインテグリティがあることがスコープ、時間、コストのインテグリティへとつながっていくわけです。


◆プロジェクトで求められるインテグリティの例(3)

マネジメントの統合はベースラインに限ったものではありません。リスクマネジメントとベースラインの統合、コミュニケーションマネジメントとベースラインやリスクとの統合など、複雑な統合が求められます。たとえば、リスクとベースラインの統合であれば、ベースラインの厳しさとバランスのとれたリスクマネジメントを行うことが統合になります。また、そこにコミュニケーションの品質が絡んでくることはいうまでもありません。これらは、すべてインテグリティの問題になります。

このように考えてみると、失敗プロジェクトを分析してもなかなか見えにくいのがこのインテグリティの問題ですし、失敗プロジェクトではインテグリティを欠いているというのは一目瞭然です。

加えていえば、ドキュメントのインテグリティという問題もあります。個別にはきちんとしたマネジメントドキュメントが作られているのに、全体が統合されていない。したがって、ほとんどドキュメントとして機能しないというケースもよく見かけられます。


◆プロジェクトで求められるインテグリティの例(4)

次に、もう少し広い意味でのプロジェクトについて考えてみると、組織とプロジェクトの統合を上げることができます。組織とプロジェクトが統合されていない限り、プロジェクトが成果を上げることはできないでしょう。

これにはいくつか意味があります。

まず、最初は、経営活動としてのインテグリティの問題です。プロジェクトとは、企業の経営戦略の実行活動です。つまり、プロジェクトの成果は戦略の実現に明確な形で役立っている必要があります。これは、単に財務的(売上げ、損益)な面から役立っていればよいというだけではなく、BSC的にいえば、顧客の視点(企業からみるお客様、お客様からみえる企業)、業務プロセスの視点(製品のクオリティや業務内容に関する視点)、成長と学習の視点(企業のもつナレッジ(アイディア、ノウハウ)や従業員の意識・能力の視点)の3つを加味して考える必要があります。

この視点そのものにインテグリティがある必要がありますが、この視点の中で、経営とプロジェクトが統合されている必要があるのです。


◆プロジェクトで求められるインテグリティの例(5)

二つ目は、組織マネジメントのインテグリティに関わる問題です。リソースマネジメントのインテグリティを実現するには、リソース配置の全体最適化が必要です。プロジェクトであるので、結果を出さなくてはなりません。ある意味で、手段は選ばなくてもよいわけです。5年くらい前に、コンサルティングをしているプロジェクトから、組織としての調整なしに、キーマンを引き抜かれてたいへん苦労したことがあります。これはインテグリティがあるとは言えません。プロジェクトの業績だけに偏っていますし、全体性がないのです。このようなことは、組織のすべてのプロジェクトで起こっているとすれば、その組織のプロジェクトの成果は押して図るべしです。

プロジェクトで手段を選ばなくてもよいというのは、慣例や従来の業務の進め方にこだわらなくてもよいということであり、インテグリティを欠いてもよいということではありませんので、注意しておきましょう。


◆プロジェクトで求められるインテグリティの例(6)

同じ問題が、プロジェクトの業績と個人の育成の間にもあります。

プロジェクトのミッションは基本的には、プロフェッショナルを集めて、成果を出すことです。しかし、現実には、プロフェッショナルばかりの組織はないので、人材育成とプロジェクト業績のコンフリクトに遭遇することになります。そのような状況では、プロジェクトで成果さえ出せば、人材の育成は二の次とはなりません。人材の育成とプロジェクトの業績が統合される必要があるわけです。

もう少し別の視点から考えると、プロジェクトはなんとか目標(ノルマ)を達成したが、そこに参加した人たちは、よれよれというプロジェクトがあります。これはインテグリティがあるとは言えない。そのように考えると

・プロジェクトの業績
・個人の満足度

も統合されるべきでしょう。


◆インテグリティとは内発的なガバナンスに対するものである

これらはほんの一例に過ぎません。プロジェクトにはインテグリティの求められる局面や、構造がたくさんあります。この議論はこれからも続けて行きたいと思っていますが、一旦、整理しておきたいことがある。それは、プロジェクトにおいて、人の「人間性」に対応するものはあるのか、ないのか?あるとすれば何か?という問題です。

プロジェクトで人間性に該当するのは、ガバナンスです。非常に乱暴にいえば、プロジェクトガバナンスとはプロジェクトのインテグリティであるといってもよいでしょう。もう少し、正確にいえば、ガバナンスに対して、内的な調整をしていくのがインテグリティだと言えます。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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