◆組織の中にプロフィットセンターはない、すべては顧客のところにある
前回述べたように多くの組織では、プロジェクトはコストセンターになっている。プロジェクトをプロフィットセンターにする方法は簡単である。組織のプロジェクトマネジメントの方法をちょっとだけ変えればよい。
その方法を説明するまえに、ひとつだけコメントしておく。プロフィットセンターという言葉を巡っては、この言葉の発明者であるドラッカーが「創造する経営者」の中で
およそ企業の内部には、プロフィットセンターはない。内部にあるのはコストセンターである。技術、販売、生産、経理のいずれも、活動があってコストを発生させることは確実である。しかし成果に貢献するかはわからない。
と述べている。プロフィットはすべて顧客のところにあるというのがドラッカーの指摘であるが、この本質を覆す意味のプロフィットセンターではない。本質的な意味でプロジェクトがプロフィットセンターになるというのはどんな会計のシステムを導入してもあり得ない。コストは必ず発生し、その成果が経営に貢献するかどうかは不確実性があるからである。
◆コストのコントロールとプロフィットのコントロール
ここで議論したいのは、ドラッカーがプロフィットセンターという言葉を使っている目的がそうであるように、マネジメントとしてコストをコントロールするのではなく、プロフィットをコントロールするという意味である。
たとえばこういう状況を考えてみよう。システム開発のプロジェクトで思ったより工数が嵩み、計画したコストでは収まらなくなってきた。ここで、プロジェクトだけで対応しようとすると、コストパフォーマンスの高い要員を追加投入するという話になる。証明されているわけではないが、経験の豊富な人の多くは、このようなケースにはコストパフォーマンスではなく、パフォーマンスの高い要員を投入することがもっともコストを抑える解決策であるとわかっている。
では、なぜ、パフォーマンスが高い人材を投入できないのか。現実に横たわるパフォーマンスの高い人材が見つからないという話を脇に置けば、コストパフォーマンスといいながらコストを重視してみているからである。つまり、1時間に100を生産でき2万円の人と、1時間に50しか生産できないが1万円の人がいたとすれば、ほぼ1万円の人を選ぶだろう。これは戦略の問題かもしれない。しかし、後者が1時間に49しか生産できなくて1万円だとしてもおそらく8割方の人は後者を選ぶ。
理由を議論すると複雑になるが、はっきりしているのはコストパフォーマンスというときにコストとパフォーマンスは一体化しておらず、コストの方は重要性が高いからだ。あまたではわかっていてもコストをコントロールするとこうなる。
ここにプロフィットを持ち込んでみよう。つまり、成果が重要でコストはついてくる結果だと考える。すると、多くの人は2万円の人材を選ぶだろう。
多くの場合、この結果は2%ではとうてい収まらないような結果をもたらす。
◆目標をコストではなく、利益で与える
これをどのように仕組みかするか。これが簡単なことだと述べたことだ。目標をコストで与えず、利益で与える。これだけである。SI企業では、利益で目標設定をしている企業は少なくない。しかし、話をしていると、コストを利益に置き換えているだけにとどまっていることが多い。ここのメンタルモデルを変えるだけだ。
プロジェクトマネジメント実務でいえば、スコープマネジメントをコストとのバランスで行うのではなく、プロフィットとのバランスで行えばよい。
◆CCPMとプロフィットのマネジメント
このようなマネジメントは意外と身近なところで行われている。クリティカルチェーンプロジェクトマネジメント(CCPM)である。CCPMにはいろいろな要素が混ざっているので見えにくくなっているが、本質は組織としてのバッファーの共有にある。これはマネジメントオペレーション上、便利であるという以上の意味がある。組織とプロジェクトがバッファーを共有することによって、管理型の守りのマネジメントから、プロアクティブな攻めのマネジメントに切り替えができる。経済的なマネジメントについては、コストからプロフィットへの視点の転換ができる。
仕組み作りとしては、予算のアロアンスを作るよりは、バッファーを共有する方が効果的だと思われる。ただし、上位組織からみれば手離れが悪い。逆にいえばコントロール手段を手放さないことになり、権限委譲されているかどうかが怪しい。これが、プロジェクトにどのような影響を与えるかを慎重に考える必要があろう。
◆ある事例
具体的な方法は次回に述べるが、最後にこれだけでは信じてもらえないので、僕がみたことのある事例を紹介しておこう。
あるソフトウエア事業をやっている会社。パッケージ商品開発のプロジェクトは20%の予算のアロアンスを認めており、受注開発のプロジェクトはアロアンスを認めていなかった。過去3年間のデータを分析したところ、商品開発はほとんど予算オーバーがなく、受注開発は60%以上のプロジェクトで10%以上の予算オーバーがみられた。もちろん、受注開発と商品開発は業務の性格が異なるので、一概にはいえないが、アロアンスを認めることによって、コストのコントロールからプロフィットのコントロールに視点が変わっていることが一つの要因としてはあるのではないかと思われる。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
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