第9回 イノベーションの限界と新しい動き(2013.05.31)
◆イノベーションの限界
最近、イノベーションの限界説を2つ見かけた。
一つは、神戸大学経営学部の三品和弘教授のイノベーションから「リ・インベンション」という文脈。もう一つはいま、世界で注目されるビジネス・シンカーの一人、ダヴ・シードマンの「WHATからHOW」という文脈。
いずれも限界として指摘しているのは、イノベーションの成果が非常に短期間で優位性をなくしているということ。もちろん、一つのイノベーションの成功に胡坐をかいているわけではない。競合が対抗商品を出すのを横目でみながら、自らもさらにイノベーションを続けていった結果である。
たとえば、ドコモの携帯を考えてみてほしい。ドコモの携帯のイノベーションはすごかった。通話の品質はどんどんよくなり、i-modeという画期的な通信サービスプラットホームも提供した。どころが、アップルからスマートフォンが発売されてからは、あっという間に劣勢になり、ユーザの流出が止まらない。
このことがイノベーションの効率の悪さを物語っている。
◆特許がカレンシーに
20世紀最高の経営者の一人と評価され、伝説の経営者とまで言われるGEの元CEO ジャック・ウェルチ氏(1981年〜2001年在任)は在任中にすでにこのことを見抜き、年次報告書で自社のビジネスモデルや戦略をどんどん公開していった。
GEに限らず、1990年代の後半くらいから米国では特許もクロスライセンスが極端に増えている。自社で開発した技術で一歩優位に立つが、同時に自社がほしい技術を持つ競合企業に自社の特許をライセンス供与する代わりに自社にもその技術のライセンスを供与してもらう。
このような動きを象徴するのが、話題になったグーグルのモトローラ・モビリティの買収である。グーグルはモローラ・モビリティの特許を狙って買収をしたが、その目的は自社で使うことではなく、クロスライセンスのためだといわれている。
このように特許はもはや、カレンシーとなっている。その中で特許の強硬派路線を歩んだアップルでさえ、10年でイノベーションが優位性を失うという事実を目にすると、イノベーションって一体何かという疑問が出てくるのは致し方ないところだろう。
さて、そこでどうするかといったときに提案されているのが「リ・インベンション」と「HOW」である。
◆「リ・インベンション」
「リ・インベンション」は概念のレベルでブレークスルーすることである。これは、イノベーションにおけるブレークスルーが技術や製品、ビジネスモデルのレベルで起こっていることに対して、概念のレベルということだ。「リ・インベンション」の代表的な例は、iPhoneである。よく知られるようにスティーブ・ジョブズはiPhoneのプレゼンのときに、電話を「再発明した」と述べた。つまり、電話という概念を新しいものに変えたのだ。これが「リ・インベンション」である。
「リ・インベンション」すると永遠に安泰かというとそうでもない。実際に、iPhoneが生まれて7年足らずだが、後発のサムスンに強烈に追い上げられている。iPhoneには及ばないと言われながら、現実にはシェアで追い抜かれてしまった。
確かに、「リ・インベンション」すると概念を作りなおすので、そう簡単に追いつけるものではない。しかし、似て非なるもので商売になるというのも事実で、この辺が深いところである。
◆「HOW」のイノベーション
もう一つのアプローチは、ダヴ・シードマンが提唱する「HOW」である。HOWとは人間の行動である。技術、製品、ビジネスモデル、戦略などが、WHATであるのに対して、それをどのように行うかが「HOW」である。
ジャック・ウェルチはビジネスモデルや戦略を公開したときに、知ることではできても、行うことはできないと言ったという。リーダーシップ開発を始め、米国企業としては特筆ものの人材開発に力を入れている企業ならではの発想だろう。
「HOW」をイノベーションして、他の企業では実現できないようなやり方を身につければそれは非常に強力な武器になる。たとえば、いま、欧米で注目されているHOWにおもてなしというのがあるが、製品開発でも、販売でも、おもてなしというHOWを構築することによって永続性のある差別化ができるだろう。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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