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ビジョンはイノベーティブ・リーダーの生命線、周囲のものを惹きつけ、鼓舞するようなビジョンでなくてはならない。ウォークマンは技術者が技術をすることに深い喜びを感じた商品であり、これがビジョンの持つチカラである

第2話 ビジョンのチカラ(2012.06.25)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆はじめに

前回はイノベーティブ・リーダーの6つの活動

(1)ビジョンを掲げ、プロジェクトを立ち上げる
(2)価値創造のシナリオを作る
(3)社内外の人々を巻き込む
(4)チームを動かし、問題を解決する
(5)イシューの管理
(6)無理難題への対処

の概要について述べた。今回から、それぞれについて、つらつらと、考えていきたいと思う。とりあえず、ビジョンから。


◆「東京通信工業株式会社設立趣意書」に書かれたビジョン 真面目ナル技術者ノ技能ヲ、最高度ニ発揮セシムベキ自由豁達ニシテ愉快ナル理想工場ノ建設

この文章をご存じだろうか?

これは、1946年に、ソニーの創業者のひとり、井深 大氏(いぶか まさる:ファウンダー・最高相談役)が起草した「東京通信工業株式会社設立趣意書」にある一文であり、井深 大氏の考えるソニーのビジョンだ。ソニーのホームページに掲載されている。

設立趣意書

設立趣意書には以下のように記されている(ホームページより抜粋)

=====
これは、技術者たちが技術することに深い喜びを感じ、その社会的使命を自覚して思いきり働ける安定した職場をこしらえるのが第一の目的であった。
(中略)
これらの人たちが真に人格的に結合し、堅き協同精神をもって、思う存分、技術・能力を発揮できるような状態に置くことができたら、たとえその人員はわずかで、その施設は乏しくとも、その運営はいかに楽しきものであり、その成果はいかに大であるかを考え、この理想を実現できる構想を種々心の中に描いてきた。
=====

このビジョンのもとに、ソニーはまさに技術者が技術をすることに深い喜びを感じるような商品を続々と世の中に出し、世界的な企業に成長していく。まさに、ジョブズが率いるアップルのような存在だったわけだ

◆ビジョンのチカラ ソニーという会社はビジョンの持つチカラを顕著に示している会社の一つである。あまり語られないが、アップルの最大の成功要因は利益を追求したことだと思われる。利益を追求するとビジョナリーな経営がしやすい(結果として売り上げも膨大なものになっている)。

アップルの商品は、カテゴリーではPCと周辺機器、モバイル、ソフトウェア、コンテンツです。見事にシナジーが働く事業構成になっている。ビジョンというよりは、デザインの会社だと言えよう。

これに対して、ソニーは売り上げを追求した。AV、家電、コンテンツ、PC、ビデオ、メディア、ゲーム、モバイル、コンテンツなど、非常に広い分野の商品を手掛けている。それもプロフェッショナル仕様のものから、コンシューマまで、非常に幅広く手掛けているところに特徴がある。

成功したものも失敗したものもあるが、一貫しているのは、技術的に非常に興味深いものだということだ。コンシューマ商品だけを見ていても、ソニーの商品でどこでも作れるなという新商品は見当たらない。さまざまなところに工夫がある。ウォークマンはいうまでもないがが、たとえば、いま、何かと話題になっているテレビでも、ブラウン管の時代の映像作りにはファンをうならせるものがあある。

技術者が技術をすることに深い喜びを感じた商品であり、これがビジョンの持つチカラだといえる。

◆プロジェティスタにとってのビジョン プロジェティスタは、ビジョンで人を動かす。いわば、ビジョンはイノベーティブ・リーダーの生命線だと言っても過言ではない。

イノベーティブ・リーダーの語るビジョンは、周囲のものを惹きつけ、鼓舞するようなビジョンでなくてはならない。

一つ、例を挙げてみよう。

紹介するのは、ヤマハの光るギター「EZ-EG」の開発物語です。この商品の開発は、大きな話題になったので、ご存知の方も多いと思います。インターネットでアイディアを公募し、それを実現する形で開発された商品はモニタ販売で50台を24時間で完売。さらに、追加のモニタ販売は100台を準備したところ、1300人の応募がありました。その後、正式に商品化され、1番品を2年間で2万台売り、大成功を収めた商品です。

さて、この商品を開発したのは、旭保彦さん(開発当時42歳)だ。旭さんは「EZ-EG」の開発経緯について以下のように述べている。

昔、学生のころ、カッコつけたい、モテたいの一心でギターを始めたものの、Fコードが押さえられずに挫折したお父さん世代。また、始めてみたいけど練習するのが大変・・・でも、もう一度カッコよく弾きたい。その思いの一点集中で作りました。要は自分がターゲットだったのです」(野中郁次郎、勝見明「イノベーションの本質〜個のコミットメントを高める」より)

このビジョンもメッセージ性の強いビジョンで、この後の様々な苦難を乗り越える源泉になっている。井深氏のようなビジョンもあれば、こういう個人的な想いにも基づくビジョンもある。

次回はどうすれば、そのようなビジョンが作れるかについて考えてみよう。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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