◆プロジェクトポートフォリオ
MS Project 2002にプロジェクトポートフォリオマネジメントの機能が追加され、プロジェクトポートフォリオが身近になってきた(プロジェクトポートフォリオマネジメントもやはり、PPMと表記される。この原稿の中でも、混乱が生じない限り、PPMと表記する)。
ポートフォリオマネジメントをご存知の方であれば、プロジェクトポートフォリオ自体はそんなに驚くような手法ではない。プロジェクトにおいてもはやり、リスクとリターンを軸に取るというのは変わらない。リスクとして何をとり、リターンとして何をとるかはプロジェクトの場合はいろいろと考えられる。プロジェクトにおける3大リスクは、技術、スケジュール、コストである。何をとるかはおそらく、企業の業種や企業の戦略、また、プロジェクトの分野によって変わってくるだろう。例えば、製造業メーカが製品開発のマルチプロジェクトマネジメントを行うのであれば、リスクとして真っ先に考えるべきは技術であろう。しかし、ソフトウエアの受託開発をしている企業でが、受託業務のマルチプロジェクトマネジメントを行うのであれば、技術も重要なリスク要素には違いないが、コスト(見積もり)リスクをリスク要素に考えてマルチプロジェクトマネジメントに取り組んだ方がよい場合が多い。何をリスク要因にとればよいかは、逆に言えば成功要因は何かということでもある。したがって、多くのソフトウエア開発の場合はコストということになるように思う。
◆SDGのプロジェクトポートフォリオ
どのようなプロジェクトポートフォリオを作って、複数のプロジェクトをマネジメントしていくかは経営ノウハウであり、また、プロジェクトマネジメントコンサルティング企業にとっては営業上のノウハウである。事業戦略におけるBCG版PPMのように「ポートフォリオとはこれだ」というのが存在するような状況ではないが、その中でもよく出てくるプロジェクトポートフォリオにSDG(Strategic Design Group)が考案したポートフォリオがある。このポートフォリオは、図に示すように、縦軸にリスクとして技術成功確率を取る。そして、横軸にリターンとしてNPV(現在正味価値:Net Present Value)を取るものである。SDG版PPMもBCG版のプロダクトポートフォリオと同じようにウィットにとんだボックスの名前がつけられている。
(1)ハイリスク・ハイリターン:Oyster
(2)ローリスク・ハイリターン:Pearl
(3)ローリスク・ローリターン:Bread&Butter
(4)ハイリスク・ローリターン:White Elephant
となる。それぞれのボックスのプロジェクトに対する戦略は以下の通りである。
(1)Pearl
リスクが小さく、付加価値の大きなプロジェクトであり、投資の最優先ボックスになる
(2)Oyster
かなり難しい技術開発を伴うようなプロジェクト。この領域のプロジェクトを行うことは企業の成長のためには不可欠であり、このプロジェクトで確立された技術により将来的に大きな利益が期待できる
(3)Bread&Butter
企業が食っていくためには不可欠なプロジェクト。多くの従業員をこのボックスのプロジェクトで養うことになる。
(4)White Elephant
白象はタイでは神聖視され、飼うのに費用がかかった。王が失脚させたいと思う臣下にわざと白象を贈ったことからWhite Elephantはやっかいなものという意味で使われる単語である。基本的にはこのボックスのプロジェクトは撤退する。
◆SIerを例にとって
では、それぞれの領域のプロジェクトがどういうものかをソフトウエア開発プロジェクトを例にとって説明してみよう。
まず、Pearlのボックスのプロジェクトであるが、例えば、DBMSベンダーが、自社のDBMSを使って大規模なシステムを開発するような場合、このケースになることが多い。DBのチューニングなどのノウハウが必要になるので他社にはできないが、自社にとってはさほど大きなリスクはない。
Oysterのボックスであるが、例えば、インターネット上のマルチメディアリアルタイム通信システム開発などはこのボックスのプロジェクトが多い。もともと付加価値の高い受注金額の設定がされるのでスムーズに行けば、大きな利益が得られるが、技術的困難に遭遇し、利益がでないばかりか、赤字になることも少なくない。
Bread&Butterのボックスには、SIerが行っているほとんどのプロジェクトが入ると考えてよい。しかし、これは必ずしも経営の実態を表していない。実際にはこれらのプロジェクトにおいては技術リスクは小さくても、コストリスクが大きいことが多いことが多いからだ。SIerの経営が不安定さはそのようなプロジェクトに起因していると思われる。
White Elephantのプロジェクトは、セキュリティを重視したシステム開発に良く見られる。セキュリティそのものは大きな付加価値がつけれず、したがって、セキュリティに対する要求を高くしても、受注金額そのものはそんなに上がらない。しかし、技術的には新しい技術も多く困難を伴う。このボックスのプロジェクトは撤退すべきであると述べたが、セキュリティなどの場合、他に転用できるので戦略的に取り組むことが多い。余談であるが、公共システムはこのパターンが多かったように思う。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
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