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第4回 マルチプロジェクトのための組織(2002.11.21)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆プロジェクト組織の基本
 従来のプロジェクトのイメージは、全社の総力を挙げて、ある事業を実施するといったイメージだった。その場合、プロジェクトを実施するための組織も、全社横断的な組織形態を取っていた。つまり、関係する全部門からプロジェクトに参加し、事業部長や役員がプロジェクトマネージャーを務めるというパターンである。
 しかし、エンタープライズプロジェクトにおいては、基本的に業務はプロジェクトとして行われるため、必ずしもそのようなプロジェクト編成は必要であるとは限らないし、また、合理的だともいえない。
 エンタープライズプロジェクトマネジメントの遂行組織としては、基本的には「機能型組織」、「プロジェクト型組織」、「マトリクス型組織」の3つがある。

◆機能型組織
 機能型組織は、必要な機能別部門に組織を分解し、プロジェクトワークをメンバーを定めず、部門長の責任(コーディネート)のもとにプロジェクトを推進していく組織形態である。たとえば、設計、開発、品質管理とあれば、それぞれの部門長がプロジェクトをコーディネートし、適当な担当者にやらせることにすべてのプロジェクトを実施していくやり方である。当然、プロジェクトとしての独立性は弱い。

◆プロジェクト型組織
 プロジェクト型組織は、いわゆる従来イメージのプロジェクト実施組織である。明確なラインを持たず、企業や事業部の長の直轄する形でプロジェクトを形成し、プロジェクトマネージャーがプロジェクトを統制をする。プロジェクトのマネジメントに関しては、プロジェクトマネージャーが強い権限を持ち、人的資源の選択などの権限を持っている。しかし、その権限はラインのマネージャーように定常的なものではなく、プロジェクトの中だけのものである。成員からみれば、ひとつのプロジェクトが終われば、次のプロジェクトに所属することになる。

◆マトリクス型組織
 これらの方法はいずれも一長一短がある。簡単に言えば、機能型組織は、技術力も含めた人材育成が容易であり、プロセスも改善しやすいといった長所があるが、逆に目的指向になりにくい、遂行スピードが乏しい、責任者が明確でないなどの短所がある。これらの長所と短所は、ひっくり返すとほぼ、そのまま、プロジェクト型組織の短所と長所になる。このほか、機能型組織では、部門間の調整(コミュニケーション)が難しい、柔軟性にかけるといった短所がある。
 そこで、両者の長所をとり、短所を解消しようとするのが、この2つをミックスしたマトリクス型組織である。マトリクス型組織は、機能組織を残しながら、プロジェクト組織としても運用していこうとする考え方である。その際に、ラインとプロジェクトの強さ加減によって、コーディネーション型、オーバーレイ型、リソースプール型などいくつかの形態がある。

◆コーディネーション型マトリクス型組織
 コーディネーション型は基本的には機能型組織を踏襲するものである。異なる点は、プロジェクトのコーディネートを部門長ではなく、第3者が行う点である。つまり、プロジェクトコーディネータという役割をおき、プロジェクトコーディネータが、プロジェクトの間の調整のみを行う。この形態の場合、部門間のコミュニケーションは改善され、また、柔軟性も増すが、プロジェクトコーディネータはあくまでも調整役であり、プロジェクトの責任者ではない。このため、プロジェクトの責任の所在が不明確であるという機能組織の短所は解消されていない。また、目的指向でないという点もあまり変わらないし、実施スピードも遅いので、機能組織の本質的な問題は変わらないといえる。

◆オーバーレイ型マトリクス組織
 オーバーレイ型は、部門長とプロジェクトマネージャーが同等の権限を持ち、協力しあいながらプロジェクトを進めていくスタイルである。その際、プロジェクトマネージャーの役割は、プロジェクトの納期、収益を実現するためのマネジメント、および、顧客対応が中心であり、部門長は合意したプロジェクトマネージャーの計画に対して実行上の責任をもち、自分の管理するリソースを使った計画を作り実施する。オーバーレイにすると、機能型組織、およびプロジェクト組織のほとんどの問題は解消される。しかし、プロジェクトと部門の対立という新たな問題が生まれる可能性がある。

◆リソースプール型マトリクス組織
 リソースプール型では、プロジェクトマネージャーからの要求に対して、部門長はプロジェクトのある期間、自分の管理する人員を専任(あるいは非専任)で貸すという形態を取るものである。この方式では、リソースの配分の非効率さというプロジェクト組織の短所を持つことになるほか、人材育成がしやすいという機能型組織の短所を打ち消す場合がある。
 このようにマトリクス組織といえども、万能ではなく、エンタープライズプロジェクトマネジメントの導入に当たっては、マトリクス組織を前提にして、ラインとプロジェクトの権限の適切なバランスを見つけることが課題のひとつだといえる。

◆コンフリクトとPMO
 さて、ここでコンフリクトということに注目してみよう。マトリクス組織のうち、オーバーレイやリソースプールでは、ひとつのライン(たとえば、設計)に注目すると、複数のプロジェクトにコミットしていることになる。ところが、他の部門がどのようなコミットをしているかはわからない。このため、自部門のリソースの活用の判断を、全体として最適になるように行うことができない。また、プロジェクトマネージャーは自分のプロジェクトのことはわかっても、他のプロジェクトのことはわからない。これらの問題を解消しようとすれば、たすきがけの調整をしていかなくてはならない。この調整を行うのがプロジェクトマネジメントオフィス(PMO)である。PMOは組織の全ラインとプロジェクトの状況を把握し、組織で行っているプロジェクトをすべてスムーズに運営できるようにマネジメントを行う組織であるが、エンタープライズプロジェクトマネジメントにおいてはそれ以外にもさまざまな役割を持つ。

 次回はPMOの役割について考えてみたい。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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