第13回 本質を具体化する(2019.11.06)
◆本質に「本当に正解はないのか」
前回は本質要求の洞察について考えました。その最後に本質に正解はあっても分からないと書いたことに関して、「本当に正解はないのか」という質問を頂きました。この意味合いは
「正解はたぶんある、しかし、それは結果論であって事前には分からない」
という意味です。
本質や本質要求という言葉から、問題の本質はという問いに対して、考えれば正解にたどり着くことができると考える人も少なくないと思いますが、著者の考えとしてはそのような意味での正解は分からないというものです。
評論家的にいえば、本質は何かという問いに対して、正解だと思えることを指摘することはできます。しかし、それはあくまでも評論家的なものだと思います。今回の話題はそのあたりのところに踏み込みたいと思います。
◆何のために本質を見極めるのか
だからといって、概念的、抽象的な議論を議論をしたいわけではありません。議論したいのは何のために本質を見極めるかということです。これはそんなに複雑な話ではありません。
本質要求であれば、具体的な要求とその要求を具体化したものやサービスの仕様(要件)という形で具体化することが目的です。つまり、本質要求は抽象的なものであり、それを具体化して要件にしたいわけです。例えば、問題解決であれば、その問題を解決するために何をすべきかを考え、その具体的な策を実行していきます。
前回の例でいえば、本質要求が
「汚れを目立たないようにしたい」
というものだったとすれば、これを具体化した要求としては
・壁を白く塗る
・壁を汚れの目立ちにくい色で塗る
・定期的に掃除する
・さらに汚す
といったものが考えられます。これで本質要求の具体化のために4種類のアイデアが考えられたことになります。さらにこの要求を要件に落とします。例えば、壁を汚れの目立ちにくい色で塗り、定期的に清掃することを要求とするなら、
・防水性のオフホワイトのペンキで塗る
・1ヶ月に1回、水で洗う
という具体的な要件が出てきます。
◆本質を考える意味は、視点を多様にするため
重要なことは、このバラエティです。この例では顧客は「壁が汚れたので白く塗ってほしい」という要求(問題)を出してきたわけですが、この要求をそのまま実行したのではたぶん、顧客は満足しません。要求(問題)の本質を外しているからです。
さらに重要なことは、一度、要求を一度抽象化することによって(あるいは問題を抽象化し、抽象的なレベルで解決策を考えることによって)、多様な視点から、多様なアイデアが出てくるということです。
◆正しいかどうかは実行してみないと分からない
一連の説明から分かりますように、本質を見極めたい目的は具体的な要件や問題解決策を広い視野で多様な視点から見出したいからです。
もう一つ注意しなくてはならないのは、具体的な策は実現してみないと適切だったかどうかが分からないことです。これは例に示している顧客の要求ですと明らかですし、例えば、商品開発であれば見極めた本質が正解だったかどうかは、まず、売れることが大前提になります。
もう少し、正確にいえば、その商品開発の目的を実現することが大前提になります。その上で、さまざまな評価をして適切であれば、正解だと考えてよいでしょう。しかし、商品開発の目的が実現できていなければ、いくらデザインだとか、品質、ステークホルダーの要求などの指標をクリアしていても正解とは言えません。
そして、目的がどの程度実現されるかはやってみないと分からないのです。これが正解かどうかは結果論だという意味合いです。
◆開発では目的が重要
この意味で、開発の目的というのは極めて重要です。PMBOK(R)では、プロダクトスコープを目的だと考えることもできますが、目的にはプロジェクトチームの目的以外の目的、例えば経営目的や顧客目的などもあり、それを合わせてプロジェクトの目的だと考える必要があります。
言い換えると、プロジェクトの成果と成果物を区別すると、成果は目的で、成果物は目標の一つだと考えることができます。この点に関しては、こちらの記事を参考にしてください。
【PMスタイル考】第158話:
プロジェクトの成果と成果物
少し話がそれましたが、本質を洞察することは、より広い視野で、要求や問題解決策の具体化をすることが目的だということを認識しておく必要があります。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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