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第158話:プロジェクトの成果と成果物(2019/10/25)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆PMBOK(R)における成果と成果物とベネフィット

今回のPMスタイル考は、プロジェクトの成果と成果物はなにかという議論をしてみたい。プロジェクトマネジメントの本質に関わる議論である。

まず、PMBOK(R)から見ていこう。PMBOK(R)では成果物は「Deliverable」の訳であり、ガイドの第6版では用語集では

「プロセス、フェーズ、またはプロジェクトを完遂するために生成することが求められる固有で検証可能はプロダクト、所産、またはサービス遂行能力」

と定義されている。

一方、成果は「outcomes」の訳であるが、用語集に示される明確な定義はない。また、ガイド中でもその意味は曖昧な部分があるが、意味合いを推察してみよう。

まず、成果の例としては

・ギザのピラミッド
・ポリオワクチン
・オリンピック
・子供向けの本の出版
・民間ジェット機の開発
・人類の月面着陸

といったものが例示されている。ここで注意すべきことは、ギザのピラミッドやポリオワクチンはモノであるが、オリンピックや出版、開発、月面着陸などはものではなくコトであることだ。これらを併せて所産と称している。

PMBOK(R)ガイドの中でプロジェクト成果に関連する記述を洗いだしてみると、本記事の最後に掲載している<参考:プロジェクト成果に関する記述>のようなものがある。これを見ていると気づくことは、成果という言葉は非常に広義に使われており、プロジェクトの成果だけではなく、プロジェクト中での各フェーズや各プロセスのアウトプットも成果だと表現しているようだ。

もう一つ、PMBOK(R)において成果と成果物の議論に関わってくるのが、第6版より導入された「プロジェクトマネジメント・ビジネス文書」である。これは

●ビジネス・ケース
「選択された構成要素が十分に定義されていない経済的価値について実現可能性を文書化したもの」

●プロジェクト・ベネフィット・マネジメント計画書
「プロジェクトあるいはプログラムから得られるベネフィットを創出し、最大化し、維持するためのプロセスを定義した記述書」

から構成される(「」はPMBOK(R)の用語集の定義)。ここで問題になるのがベネフィットという概念であるが、これついては用語集にはないが、ガイドの中では

「スポンサー組織のほか、プロジェクト受益対象者に価値を提供する行動、行為、プロダクト、サービス、所産の成果」

と説明されている。そして、ベネフィットは有形、無形、両方があり、有形なベネフィットの例としては

・金融資産
・株式の持ち分
・実益

などがあり、また無形のベネフィットには

・のれん
・ブランド認知度
・公益性

などがあるとしている。このようなベネフィットについては、ベネフィット・マネジメント計画書で

・目標とするベネフィット
・組織の事業戦略との整合性
・ベネフィット実現の時間枠
・ベネフィット・オーナー
・ベネフィットを示すための指標
・前提条件
・ベネフィット実現のリスク

を明確にすることによって計画することになっている。


◆成果と成果物の関係

一般的な意味でプロジェクトを実施することによって得たい成果は戦略的な事業成果、あるいはビジネスの成果であり、PMBOK(R)の記述ではいえばベネフィットが近い。そこで、プロジェクト成果とプロジェクト成果物を以下のように考えることにする。

(1)プロジェクト成果物は通常プロジェクト成果に含まれるが、プロジェクト成果の全体とは限らない。
(2)プロジェクト成果はプロジェクト成果物に基づいて、組織の環境の中で、組織の知識により生み出され、さらに改善される。
(3)特定のプロジェクトの成果は、そのプロジェクトを含むプログラムに帰着することもある。

例えば、情報システムやプラントのように一品物開発のプロジェクトであれば、プロジェクトの成果物がそのままプロジェクトの成果になる。あるいは、成果物を納品して、目標とする顧客の満足を得ることがプロジェクト成果となる。

量産する商品の開発であれば、成果物はその商品の詳細な設計や生産方法、生産準備などがプロジェクトの成果になることが多い。この場合、プロジェクト成果は事業戦略、あるいは事業計画で目標としていたシェアや収益、ブランド認知度などになる。

しかし、多くのプロジェクトでは成果物は明確になっているが、成果は曖昧な場合が多い。企業によっては成果を実現する活動はプロジェクトとしては明確に定義されていないケースも少なくない。

PMBOK(R)においても、プロジェクトは成果物を生成することによって、目指すべき作業結果、獲得すべき戦略的位置、達成すべき目標、取得すべき所産、生み出すべきプロダクトまたは遂行すべきサービスを達成したものと見なすことになっている。言い換えると、計画されたベネフィットが実現されたことになるとしているが、現実にはそのようにプロジェクトを立ち上げることは難しい。

なぜだろうか。少し話が脱線するがこの問題の背景を考えてみたい。


◆なぜ、成果と成果物の議論が必要なのか

一言でいえばプロジェクト実行組織の上位の組織が行っているプロジェクトであり、日本企業ではプロジェクトとしてマネジメントしていないケースが多く、またマネジメントとしては、事業(プログラム)マネジメントだと認識されていることが多いからだと考えられる(ただし、行っているのは予算管理だけで、プログラムとしてマネジメントできている企業は多くない)。

その背景には日本企業のプロジェクトマネジメントへの取り組みの姿勢がある。PMBOK(R)やPMIのプログラムマネジメントあるいは、P2M(R)などがある程度普及してきたが、あくまでも現場の話であり、経営レベルで導入している企業は多くない。結局、現場と経営管理の間のギャップは埋まっていない。これはいろいろな意味で現場が強いことに一因があると考えられる。

今は微妙な状況だが、かつて日本企業は現場が強かった。現場は現場で、新しい商品の開発や生産性の向上の工夫をしてきた。キャッチアップの時代においては、これでイノベーションが生まれ、経営的な貢献ができ、ますます現場が強くなってきた感がある。現実に、現場が経営を動かしているような企業が多かった。

しかし、キャッチアップが終わって独自の路線を歩まなくてはならない時代になると、この構図が崩れた。今でも認めない現場マネジャーがいるが、残念ながらこれは当たり前のことである。キャッチアップと独自展開をする違いは、失敗するかしないかである。

キャッチアップでは技術人材育成の投資は必要になるが、失敗するプロジェクトは少ない。苦労はしても、最後にはなんとかものになる。しかし、独自路線になると、千三つとは言わないまでも失敗するのが当たり前の世界だ。つまり、人材育成以外にも事業投資が必要になってくる。これができないのだ。

すると現場だけではどうしようもなく、経営管理が不可欠になる。日本ではプロジェクトマネジメントはこのようなことにうすうすと気づきだしたころから導入が始まってきたが、残念ながらその範囲が現場に限定されている。

極論すれば、現場だけであれば、プロジェクトマネジメントを導入しても改革だといえるような進歩はない。もちろん、ミスによる失敗はなくなるので、改善はできるだろう。しかし、独創的で失敗するかもしれないようなプロジェクトを成功させることはできないだろう。

そこに加えて、経営管理がプロジェクトマネジメントを行わないままできているので、経営レベルでも失敗はタブーとされたままだ。それをマネジメントせずに数字だけを追いかける。結果として現場は失敗するようなプロジェクトはやらず、だんだん新鮮な価値を顧客に提供することができなくなってきた。これが日本企業が衰退している一因である。

この点に気がついて、経営レベルでプロジェクトマネジメントやプログラムマネジメントの導入を試みている企業が出てきて、成果を上げている。大企業で目立つ成果を上げている事業を見ると、このパターンが多いことが分かる。

このような議論の本質になるのが、成果と成果物の違いであり、関係づけである。


◆プロジェクトはWHAT中心でよいのか

プロジェクトは5W2Hから始めるというのはよく知られているが、この7つの要素の関係づけで中心になるのはWHAT、つまり、成果物である。モノの時代のプロジェクトであればそれでいいが、コトに代表される形のないものが所産に入ると本当にWHATを中心に考えればよいかという議論がある。

例えば、PMBOK(R)のプロジェクト成果の例に出てきた「オリンピック」というのが出てきたが、これは単に素晴らしい会場を準備して、観客を集め、選手を集め、安全に競技を行い、素晴らしい記録を出すことだけではない。そこには、

「行なわれるスポーツを通して青少年を教育することにより、平和でよりよい世界をつくることに貢献すること」

という目的がある。つまり、WHYの実現が問題なる。

素晴らしい会場を準備する、観客を集める、安全に競技を行うといった副目的、あるいはその評価基準になる会場のスペック、集客数、安全性といった目標は、この大きな目的から生まれているものだ。そして、このレベルの目的を実現するために、経営レベルの目標として、全世界の多くの人に見てもらうことがある。

東京オリンピックでマラソンや競歩の実施場所でもめている。マラソンを東京でやるから東京オリンピックだという意見もある。そういった議論の中でメディアの都合を優先した夏の開催を問題視する意見が出ている。

しかし、目的を実現することがプロジェクトの目的であれば、夏に開催するのもスポーツイベントが少ない時期に開催し、見てもらう人を増やすために極めて妥当なのだ。


◆プロジェクトのパーパスを考える

こういう組織/事業からプロジェクト、プロジェクトメンバーまで整合したした目的の取り扱い方をパーパスと呼ぶ。パーパスには

・目指すべき作業結果
・獲得すべき戦略的位置
・達成すべき目標
・取得すべき所産
・生み出すべきプロダクト
・遂行すべきサービス

などがすべて含まれる。そして、パーパスという考え方をすると、

プロジェクトの目標 → 成果物
プロジェクトのパーパスの実現 → 成果

という構造になる。つまり、パーパスでプロジェクトを動かすことによって、成果物に拘らず、成果を得ることができる。


◆VUCA時代のプロジェクトマネジメントには成果が重要

最後に、いま、多くのプロジェクトスポンサーやプロジェクトマネジャーが困っているVUCAなプロジェクトにおける考察をしておこう。

VUCAなプロジェクトでは、プロジェクトで得たい成果は明確だが、何をすればそのような成果を得られるか、どのような成果物を生み出せばその成果が生まれるかを明確にできない可能性が高い。すると、求める成果が得られないときにどこを修正していけば求める成果が得られるのかが分からない可能性がある。つまり、成果のマネジメントができないということだ。

これに対して、PMBOK(R)の第6版からはベネフィットまでを計画の対象にし、リスクマネジメントの対象にしている。つまり、VUCAへの対処をリスクで行おうとしている。

ベネフィットのマネジメントは成果物だけではなく、成果のマネジメントも含まれるので、これは成果物と成果を常に関連付けて、成果物から成果を生み出す方法、あるいは求める成果を実現する成果物を考えていくことを意味している。

成果物から成果を生み出すには、WHYがポイントになる。なぜ、その成果物を得ようとするのか、なぜそのプロジェクトを実行するのかである。言い換えると、戦略的な位置整合性であり、ビジネス上の目標、プロジェクトの成果物を結びつけるパーパスを決めていけばよい。

このように、VUCA時代のプロジェクトで求める成果を上げるには、パーパスを決定し、実現していく。そのためにはプロジェクトチームだけではなく、組織もプロジェクト成果物に基づいて、成果を生み出し、改善していかなくてはならない。

これは今後、VUCAなプロジェクトのマネジメントの基本的な考え方になってくると思われる。


◆記事のご案内

パーパスでプロジェクトをマネジメントするための方法を解説する記事

パーパス・ドリブンのプロジェクトマネジメント

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<参考:プロジェクト成果に関する記述>

●プロジェクトは成果物を生成することによって目的を達成したものとみなされる。目指すべき作業結果、獲得すべき戦略的位置、達成すべき目標、取得すべき所産、生み出すべきプロダクトまたは遂行すべきサービスが目的をして定義される。

●プロジェクト成果の例として、次がある
・ギザのピラミッド
・オリンピック
・万里の長城
・タージ・マハル
・子供向けの本の出版
・パナマ運河
・民間ジェット機の開発
・ポリオワクチン
・人類の月面着陸

●アウトプットは成果物であることもあれば、何らかの成果であるものもある。成果はプロセスの最終的な結果である。

●ひとつのプロセスの結果や成果が別のプロセスのインプットになることがある

●プロジェクト・ベネフィットとは、スポンサー組織のほか、プロジェクト受益対象者に価値を提供する行動、行為、プロダクト、サービス、所産の成果と定義される

●プロジェクトの成功を判断するには、組織の戦略やビジネスにおける成果の実現につながる基準を追加されることもある

●これらの要因(組織体の環境要因)は成果に対してプラスの影響またはマイナスの影響を与えることがある

●組織の管理職は、組織にとって最高の成果を達成するために適切な措置を取る上で、構成要素とシステム間の最適なトレードオフを探す

●ビジネスケースは、プロジェクトに期待される成果が要求される投資を正当化するかどうかを決めるために、ビジネス上の観点から必要な情報を記述したものである。

●成果物は通常、プロジェクトの成果であり、プロジェクトマネジメント計画書の構成要素に含むことができる

●このプロセス(プロジェクト知識のマネジメント)の主な利点は、プロジェクトの成果を生み出したり改善したりするために組織の既存知識が活用されることにある。

●コミュニケーションはプロジェクトの成功とプログラムの成果に必要なチーム内の関係性を発展させる

●ネットワーキングはプロジェクトの作業や成果へのステークホルダーの支持を高め、パフォーマンスを向上させる

●プロジェクトの全体リスクはプロジェクト成果におけるプラスとマイナスの両方の変動の影響にステークホルダーがさらされることを表わす。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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