第7回 意味のあるビジョンを創る(2019.01.09)
◆はじめに
本連載は、第1回は
総論、第2回から、分野として生産性、イノベーションマネジメント、ダイバーシティーマネジメント、プロジェクトマネジメントの4つについて順に話題を選んで書いています。7回目の今回はイノベーションマネジメントの話題になります。
イノベーション・マネジメントの1回目では、コンセプチュアル・マネジメントにおけるイノベーションは常にビジョンから始めようという話をした。今回はこの話をもう少し追求してみたいと思います。
◆センスメイキングとは
2018年に読んだ本の中でもっとも素晴らしかった本に、クリスチャン・マスビアウの「センスメイキング」を選びました。この本です。
クリスチャン・マスビアウ(斎藤栄一郎訳)「
センスメイキング」、プレジデント社(2018)
この本でマスビアウは、
センスメイキングとはアルゴリズム思考の対極にある概念であり、自身の文化の土台になっている先入観や前提を捨て去り、対象世界の文化を調べ、全方位的に理解し、意味付けをすること、一言でいえば「本当に重要なものを見極めること」である
と説明しています。つまり、マスビアウは問題解決には問題を解決すること自体が「役に立つ」活動と、漠然とした課題に対して活動の「意味付け」をすることによって課題解決を図る方法があると考えています。前者はソリューションと呼ばれ、後者がセンスメイキングです。
センスメイキングにおいて「意味づけをする」ということはその人の人生にとっての意味を見つけるということです。
◆自動車における「役に立つ」と「意味がある」
さて、話をビジョンに戻しますが、イノベーションで生み出したい状況を考えたときに、ソリューションというのがだんだん効果がなくなってきています。
例えば、自動車を考えてみてください。自動車が役に立つとは、例えば操縦性がよい、積載量が大きい、燃費がよいといったことです。日本の自動車が長年目指してきたところです。そして、自動運転もこの延長線上に捉えています。
これに対して、意味があるというのは、例えば、その車に乗ることに喜びを感じるといったことです。日本でも稀にランボルギーニを見かけることがありますが、どこを走るんだという感想を持つ人も少なくありません。役に立つという観点からは、燃費も悪いし、積載量も小さいわけですから、日本車の方が優れています。
しかし、意味があるかどうかという観点からは明らかにランボルギーニの方が上です。ランボルギーニに乗る人は自分の人生にとって意味があるから乗っているのです。
◆イノベーションにおけるビジョンの在り方
イノベーションを目指すために想定するビジョンは、新しいソリューションによる問題解決を想定したビジョンでもいいのですが、イノベーションの効果はあまり期待できません。先に述べたように、効果のあるソリューションが存在する問題がほとんどなくなってきているからです。
新しい意味づけをする活動を方向付けるビジョンの方が効果的なイノベーションが期待できますし、イノベーション自体も生まれやすいと思われます。
そうはいっても、ビジネスの場でいきなり、「役に立つかどうかはどうでもいい、乗り手が走る喜びを感じる車を作る」といってみても、おそらくビジネスにならないという一言で終わるでしょう。実際に、センスメイキングの課題の一つはビジネスにどのように仕立てていくかです。
そこで注目されるのが自動車でいえば、BMWやベンツ、Audiといったドイツ車です。これらは役に立つと同時に意味も持たせています。ここが日本車との根本的な違いですが、その結果は圧倒的な価格差になっています。役に立つという観点からみれば同じようなレベルの自動車が2〜3倍の価格つけされています。
◆「役に立つ」と「意味がある」の統合にはコンセプチュアル思考
このような「役に立つ」ことと「意味付けする」ことを統合したようなビジョンを策定するとビジネスに展開できるイノベーションが生まれてくる可能性が高まります。
このようなビジョンを策定して、イノベーションにチャレンジすることは、コンセプチュアル思考の軸と整合していることが分かります。つまり、主観や直観の世界でビジョンを考え、それを論理的、客観的に具体化していくことで新しい製品を生み出し、そしてそれがその人にとって意味のある製品であることが期待できます。
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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