第8回 本質に着目したダイバーシティー・マネジメントで違いを活かす(2019.02.06)
◆ダイバーシティの4段階
ダイバーシティーマネジメントの第2話になります。今回は、ダイバーシティーマネジメントが何を目指しているかを明確にし、コンセプチュアル・マネジメントのアプローチにどのような意味があるのかを考えてみたいと思います。
ダイバーシティーマネジメントが生み出す組織の進化を分かりやすく説明したものに、早稲田大学大学院の谷口真美教授による「ダイバーシティの4段階」があります。これは以下のような4ステップです(参考文献[1])。
(1)抵抗段階:違いそのものを認めず、多様性の存在を拒否する。当然、何のアクションも起こさない。
(2)同化段階:表面的には多様化を受け入れるが、本心では認めていない。そのために、違いを同化し、無視しようとする。
(3)分離段階:違いに価値を見出す。マイノリティ・チームで、従来にない視点を発信してもらい、活用しようとする。
(4)統合段階:違いを活かす。異なる視点・発想を大切にし、マジョリティとマイノリティの区別なく、日常的に自然に多様性を成果に結び付けようとする。
また、同化と分離の間に、違いや多様性の存在は認めるが、それにどんな価値があるのかは分かっていないという多様性尊重段階があることも指摘されています。
◆ダイバーシティーマネジメントの目的
さすがにこの10年くらいのダイバーシティーへの関心の高まりにより、多くの企業は抵抗段階は終え、同化段階にある企業がもっとも多いように見られます。言い換えると、分離段階に移行しなくてはならないことを頭では分かっているのですが現実の行動としては同化段階にあるといってもよいですし、多様性尊重段階にある企業もあるでしょう。
違いを認識することはダイバーシティーマネジメントの入り口(前提)に過ぎず、目的は違いを活かすことです。そのためには、今後、分離段階、統合段階に進んでいくことが必要です。
統合段階に到達し違いを活かすには、マネジメントとして違いに価値を見出すことが不可欠ですが、移行はなかなかうまく行っていないのが現状だと思われます。
◆なぜ、移行ができないのか
分離段階への移行がうまく行かない、あるいは組織のダイバーシティーが向上しない原因はさまざまですが、大きな原因の一つに具体的なレベルだけで多様性を持たせようとしていることが挙げられます。
一つ事例を紹介しましょう。
あるプロジェクトで顧客との関係がぎくしゃくして、作業が遅れていました。このとき、プロジェクトチームのメンバーたちはそれぞれが遭遇した顧客行動を取り上げて、こういう問題行動をされる中で自分としては適切な対応をしていると主張していました。
例えば、メンバーAは顧客が要求を決めてくれないので何度もリマインドしたり、支援する提案をしたりしたといっていますし、メンバーBは何度も要求変更を依頼されたが快く対応したと言っています。実際に顧客は今のところプロジェクトの対応に満足していますが、プロジェクトとしてはスケジュールが遅れるという問題が出てきています。
各メンバーは遭遇した状況も違いますし、また感じ方もさまざまです。以前であれば、それでは統一認識がないのは良くないということで、同じように認識しようなどといって立場が上のプロジェクトマネジャーの見方を重視していました。これが抵抗段階ですが、少なくとも同化段階に移行して、それぞれのメンバーの意見を聞くようになっています。
しかし、それぞれが指摘する顧客の問題点はばらばらです。また、担当営業は顧客からプロジェクト側の対応を聞き出し、それぞれの場面での顧客の行動を妥当だと考えており、なかなか、解決に至りません。
このように、各人が勝手な思いを巡らせているだけで、分離段階に進めません。
◆具体的なレベルではなく、一旦抽象化し本質を考える
冷静に考えてみればすぐにわかりますように、こういう具体的なレベルで問題を特定するとすれば、あれもこれも問題だということになってしまい、それでは顧客の行動を変えるような対応をするのは不可能で、結局、顧客の行動に泣かされることになります。
このような状況においては、まず、それぞれのメンバーが遭遇した問題をなぜそういう問題が起こっているのかという視点から分析してみる必要があります。つまり、コンセプチュアル思考で問題の本質を見極め、対応していきます。
上の例であれば、問題の本質は顧客側の意思決定体制にあると考えました。そして、その視点で実際に発生した問題を整理してみました。するとほぼすべての顧客行動の説明がつきました。そこで、メンバー同士、担当営業は、お互いに主張していることを理解し、そういうことも起こり得ると納得しました。さらに、他にも起こる可能性のある具体的な問題事象を議論することもできました。
このように一旦抽象化して本質を考え、それを具体化するとどのようなことが起こり得るのかを考えていくと関係者同士の理解が深まり、多様性が高まります。さらに、問題解決においても、それぞれの問題に対応するのではなく、本質的な問題を解消する具体的な解決案を考えることができます。
こういうことが可能になってくると、多様性があり、さまざまな意見や感じ方があることが強みになると考えることができます。つまり、コンセプチュアルなダイバーシティーマネジメントによって分離段階や統合段階に進んでいくことができるのです。
【参考文献】
谷口 真美「
ダイバシティ・マネジメント─多様性をいかす組織」、白桃書房(2005)
(続く)
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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