第23話:意思決定を速く、適切に行う(2016.04.11)
◆直観的に仮説を選ぶ
意思決定を速く、かつ適切に行うのにもコンセプチュアル思考が有効です。
コンセプチュアル思考によって、直観的に判断し、その上で論理的な説明をすることができるからです。いわゆる仮説思考です。
仮説思考をする場合にポイントになるのは、仮説の選び方です。ここで直観を使います。直観的に考えてどういう結論なのだろうと考えるわけです。もちろん、ここでも本質は欠かせません。直観とは経験に基づき、ひらめいたことで、基本的にはそれを説明できるロジックが存在しているものです。
◆仮説思考の例
たとえば、SIベンダーS社ではプロジェクトマネジメントの導入により、1億円以下の案件(大規模プロジェクト)では大幅に収益が改善したが、1億円を超えると赤字プロジェクトが目立っているとします。そこに3億円のプロジェクト案件を受注してきて、どのように進めて行くかを考える必要が出てきました。
このとき、過去のプロジェクトを見渡し、直観的に考えて
「計画ができていない」
ことに問題があるのだろうと考えました。そこで、過去の計画を調べてみると
「計画はあるが、実行できていない」
ことが分かりました。であれば、仮説を修正する必要があるようです。そこで、新たな仮説として、
「計画実行スキルが低い」
ところに問題があると考えてみます。そうするとそれを引き起こす原因はメンバーのスキルが低いのではないかと考えることができます。それで、調査してみたところメンバーのスキルは低いというほどではありません。むしろ、計画時の見立てからすると高いようにも思えます。ただ、そう考えたのには理由があり、それは手待ちが多いことでした。そこで詰まることろ、
「コミュニケーションが悪い」
のではないかという問題に行き当たりました。そのため、各メンバーが計画を知っているかどうかを調査してみたところ、多くのメンバーは
「メンバーは自分の作業計画は知っているが、他の作業との関係を知らない」
ことが分かったのです。これこそが問題だと分かり、コミュニケーションが緻密に行うことができるようなコミュニケーション計画を作ることにし、プロジェクトはうまく行きました。
◆仮説の範囲を絞る
この例では、プロジェクト進行の方針を考えて行く際に、仮説を立て、その仮説を論理的に考えることによって、その妥当性を検証をし、その結果を踏まえて結論を選ぶという直観と論理の行き来を繰り返すことによって妥当な結論に辿り着いています。
もしそうでなければ、プロジェクトの生産性に影響を与える要素を網羅的に洗い出し、すべてを検証して、その中から何かを選んでいく必要があります。ここで何かと書いたのは、ひょっとすると上の例のように仮説検証で選んだ答えと違う可能があるからです。これは、正しい答えがない問題では当たり前だといえることですが、ひょっとするとコミュニケーションではなく、要員管理をきちんとした方がよいという答えもあるかもしれないという意味です。つまり、考えなくてはならないことは妥当性をどのように考えるかという問題です。
◆仮説に妥当性を持たせる
妥当性を考えるにあたっては、適切さが求められます。これは論理に他なりません。つまり、論理的に説明できるかどうかです。もちろん、その前提になっているのが、どんな論理でも100%確実ではないという前提です。
たとえば、コミュニケーションを緻密に行う計画ができればコミュニケーションが良くなるのかというのは主観的な判断が残ります。この論理には、コミュニケーション計画はほかの計画と異なり実行されるという前提があり、その前提が正しいと考えることができると言えるかどうかで論理が正しいかどうかが決まってきます。
ここで妥当性を持たせるためには、この論理、あるいはこの前提について関係者を納得させる必要があるわけです。つまり、ここで主観と客観の行き来をしながら、論理や前提をどのようにすれば間主観性(※)が獲得できるかを考える必要があるわけです。
以上のようにして、コンセプチュアル思考を使って、意思決定を速く、適切に行うことが可能になります。
※編集者注:間主観性については、下記コラムを参照してください。
イノベーションのためのコンセプチュアル思考 第7回
コンセプチュアル思考とイノベーション(3)〜主観でアイデアを考え、間主観性を得る
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著者紹介
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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