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いくら体験をしても、自分なりに受け止めができなければ、経験にはなりません。見たり、聞いたりするだけでも、そこから何かを感じとることができれば経験になります

第22話:過去の経験を未来の活動に活かす(2016.03.28)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人

◆経験と体験

日本というのは経験を大切にします。ただ、どこの国にいってもリクルートでは「経験者」優遇と言われるので経験を大切にするのは日本だけの話ではないのですが、日本の経験優遇は少し意味が違います。まず、このあたりから説明したいと思います。

日本語では経験に似たような言葉に体験という言葉があります。

どう違うか分かりますか?

体験は自分自身の遭遇したことを意味する言葉です。これに対して、経験は、体験を自分なりに受け止めたものです。体験しなくても、実際に見たり、聞いたりするだけでも、そこから何かを感じとることができれば経験になります。

逆にいえば、いくら体験をしても、自分なりに受け止めができなければ、経験にはなりません。ここで気をつけて戴きたいのは、何度も同じような体験を繰り返していると、そこで起こっていること、やっていることがすべてという受け止めが自然にできることです。

実は欧米が経験を重視するのは、体験があることを重視するという意味ですが、日本では体験はあまり重視されず、文字通り経験が重視されます。つまり、体験を自分のものにしていることが重視されるわけです。


◆経験を重視する理由

なぜ、こういう価値観が生まれているかと考えてみると、終身雇用というのが大きく影響しているように思えます。終身雇用というのは安定しているようで、実はそうでもありません。

よく会社の寿命は30年と言われますが、どんな事業でも30年経てばなくなってもおかしくありません。つまり、終身雇用にしようとすれば、専門を変える必要があるのです。これは体験だけに頼って仕事をしていたのでは無理で、まさに体験を経験に変えておく必要があるのです。

経験にするには、

・行ったこと/起こっていることの意味を考える
・行ったこと/起こっていることの価値を考える

といった方法で受け止めていきます。いわゆるリフレクション(内省)です。これはコンセプチュアル思考を使ってできます。


◆コンセプチュアル思考によるリフレクションの例

たとえば、あなたは技術者で、機械設計のノウハウがあったとしましょう。ところがご時世柄、ソフトウエアの設計をしなくてはならなくなりました。そこで持っているノウハウを抽象化します(経験化します)。たとえば、

「部品の機能を明確にすることによってシンプルな製品ができる」

という経験知を持っていたとします。すると、ソフトウエア設計において、「(見えない)部品の定義を明確にし、機能の明確化をすることによって、シンプルな構成のソフトウエアができる」という知見を得ることができます。もちろん、ソフトウエアに関する勉強はしなくてはなりませんが、ソフトウエアに関する知識を得ればノウハウを活かすことができます。経験を活用するというのはこういうことなのです。

さらに、もう少し抽象化すると

構成要素の役割を明確にすることでシステムをシンプルにできる

という知見に変えることができます。すると、今度はマネジメントにも応用できます。たとえば、プロジェクトマネジメントをしなくてはならなくなったとすれば、この知見を

「メンバーひとりひとりの組織における役割を明確にすることによって自立的な活動をするプロジェクトになる。」

という知見に応用することができます。この場合もプロジェクトマネジメントの基本知識は習得する必要がありますが、それさえ身につければ深い見識でベテランプロジェクトマネジャーのようなマネジメントができるわけです。これも経験を応用することに他なりません。

このように過去にした体験や得た経験値をはじめてする仕事や、未来の仕事に適用することができるわけです。


◆経験は新しいことをするのにプラスになる

最近よく言われる経験が新しいことの足を引っ張っているというのは少し違うことが分かります。経験が足を引っ張るのはなぜでしょうか?

多くの場合は、新しいことや新しいやり方を否定してしまうからです。そこで起こっていることは、「体験をしているが経験をしていない」ことです。

たとえば、これまで対面販売をしていた化粧品をネット販売するとします。対面販売では実際に使ってもらって、感触、匂いなどを知ってもらった上で販売します。この体験に拘っていると、ネット販売なんかとんでもないという話になるでしょう。

ところが、対面販売の意味を「個別に説明をしてもらえること」だと考えていれば、ネット販売を否定することにはなりません。対面販売と同じ効果がある方法を探し出そうとするでしょう。

このように体験にとどまっていると、同じ体験が繰り返されればされるほど、新しいものに否定的になりますが、体験から経験に昇華されていれば新しいものに対して、ポジティブに取り組んでいくことができます。


◆経験を活かすために必要なコンセプチュアル思考

このようなリフレクションをするには、コンセプチュアルスキルが非常に大切になります。特に抽象的/具象的の軸を使って、起こっていることの意味を考えたり、逆に別の具体的なやり方を考えることが大切になりますが、同時に、直観的であることが大切です。

直観とは経験に基づいて感じることです。上の例でいえば、ネット販売でいけそうかどうかを感じとるのは、対面販売での経験に基づき、感じることです(もちろん、いけると思ったら、その論理づけが必要ですが)。

そうして、変化や新しいことに対して、これまでの経験を活かすことができるようになるわけです。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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