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第31回 トラブル発生
(第31回から続く)
プロジェクトが計画通りに進まないことは少なくありません。リスクマネジメントの強化などによって問題を見つけ出し、早めに対処することが重要なポイントですが、意外と見落としがちなのは、定量的な評価ができる問題については適切に対応できるのに対して、そうでない問題は、問題であるかどうかについて判断することが難しいことです。
たとえば、リスクマネジメントの一環で、問題の兆候を見つけて対応すると決めても、兆候を定量的に設定するのは難しく、定性的になるため、なかなか機能しません。
定量的な問題発見はベースライン計画に対する差異です。典型的なのはスコープに対するスケジュールの遅れやコストのオーバーです。これに対して、定性的な発見はどうすればよいのでしょうか?
この問題を解決するためには、問題というものは何かを明確にしておく必要があります。まず押さえておきたいのは
「問題とは、目標と現状のギャップであり、主体者が解決すべきと考える事柄である」
ことです。目標と現状のギャップというのはいいと思いますが、問題は主体者があるということです。言い換えれば、問題であるかどうかは主観的な問題なのです。極論すれば誰も問題だと思っていることがなければ、問題ではないということです。
定量的な指標により問題を把握するということは客観的に問題を把握するということで、誰もが問題だと思うわけですが、すでにこの段階では手遅れであることが多く、兆候として主観的に問題を発見する必要があります。
ストーリー1において、要求が多すぎて収束しないというのは、要件定義のスケジュールが終わった段階でできていないことは定量的な問題として把握しているのですが、本来は芦田が状況を把握し、何らかの問題を感じることができたはずです。その意味で、この問題はもっと早い時期に(主観的に)認識すべきだったと言えます。
まず、この点をよく認識しておいてください。その上で、もう一点のポイントは、どういう問題として捉えるかです。
ストーリー1で芦田は、自由度が高すぎることを問題だとしています。主観で問題を探すことの難しさはこの点なのですが、この認識は正しいのでしょうか?言い換えると、それがコンセプトや目的の実現に対して本質的な問題なのかということです。
本質的な問題を探す方法には、第5回で説明しました本質を探す3つの方法を適用できます。
すなわち、
(1)なぜ?(概念化して捉える)
(2)それから?(構造的に捉える
(3)ほんとうに?(直観的に捉える)
の3つです。(1)は抽象的/具象的を軸にして、ラダリングやなぜなぜ分析、5WHYなどで真の問題を探す方法です。(2)は大局的/分析的を軸にして、WHATを関連付けして、構造を見る方法です。(3)は直観的/論理的を軸にして、直観で感じた問題を仮説検証していく方法です。詳しくは下記コラムをご覧ください。
第5回 本質を見極める3つの方法
ここでは最も使う可能性が高く、ストーリー1でも使っている(1)について説明しておきます。
問題である「要件が増える」をスタートとしてWHYを繰り返していきます。なぜ、要件数が増えているのかと考えると、さまざまなステークホルダーがさまざまな要求をしているからです。なぜ、さまざまな要求をしているかというと新しい仕組みに期待をしているからです。なぜ、期待をしているかと考えてみると、ステークホルダーによって異なりますが、現状に何か問題を感じているからです。さらにその理由を考えてみると、現行の仕組みに何らかの問題を感じているからです。
一方で、このようなさまざまな問題を考えて、それを解決するためのコンセプトとして「我々の商品の利用者が、利用したことがない人に商品の良さを伝える仕組みを提供する」ことにしているわけですので、要求をコンセプトの中に統合できないことに本質的な問題があると言えます。
この3つが本質を追及する代表的な方法ですが、いずれも連鎖が基本になっています。ところがWHYにしてもいろいろな可能性が考えられ、適切な連鎖をさせていくのは意外と難しいようです。そこで連鎖を必要とせず、網羅的にアプローチできるもう一つの方法として、前提に注目するという方法を紹介しておきます。この方法が比較的安定的にできるのでお薦めです。
問題事象から問題を見極める際には前提が入ります。下表を見てください。起こっている問題事象は「各方面から要求が出てきて、要件が収束しない」です。これをどのような問題として考えるかを前提を変えて3つ考えています。
┌────────┬─────────┬─────────┐
│問題現象 │前提 │問題 │
├────────┼─────────┼─────────┤
│ │要求はすべて │要求のとりまとめが│
│ │取り入れる │悪い │
│ ├─────────┼─────────┤
│各方面から要求が│要求は制約の │要求の自由度が │
│出てきて │範囲で取り入れる │大きすぎる │
│要件が収束しない├─────────┼─────────┤
│ │要求はコンセプトへ│要求がコンセプトと│
│ │整合する範囲 │整合しない │
│ │で取り入れる │ │
└────────┴─────────┴─────────┘
まず一つ目は前提として「要求はすべて取り入れる」という前提で考える場合です。すると、たとえば問題として「要求の取りまとめが悪い」という問題になると考えられます。
同様に、「要求は制約の範囲で取り入れる」、「要求はコンセプトへ整合する範囲で問り入れる」と前提を考えてみます。すると、もっとも妥当な前提は「要求はコンセプトへ整合する範囲で取り入れる」だと考えられます。すると本質的な問題は要求がコンセプトと整合しないことだと考えれます。そこで、ストーリー1では、もう一度、コンセプトに戻って考えているわけです。
このようにしてコンセプト実現に対して本質的な問題を見つけ、コンセプチュアルな問題解決を進め、トラブルを解消していけばよいわけです。
[ストーリー2]
その後、目標としている「帆布製品のモール販売の仕組みづくり」のシステム構築に代わる実現方法を考えてみることになった。
「やっぱり、ぱっと思いつくのはショッピングモールへの出店ですね」
と営業担当の芦田が切り出した。
「ほかにどのような方法があるんだろう」とリーダーの藤田。
「今の流れで、要件を限定してしまう手もありますね。全体の流れを変えないという点ではもっともよい方法かもしれません」
と芦田が返す。さらに
「ショッピング機能のあるSNSがあれば、それで両方の目標を実現するというのアリかもしれません。」
と続けた。
「結局、コスト、できればライフサイクルコストの問題でしょうか?」
対して、
「コンセプトや目的、本質要求を考えるとどの方法が一番いいんだろう」
と藤田。
みんなが黙り込んだ。しばらくするとコンサルタントの徳田が言った。
「コンセプトを考えるとどの方法がいいのかといわれてもなかなか判断が難しいでしょう。コンセプトとの整合性を確認する指標にはどのようなものを考えるといいのでしょうか。たとえば、SNSとの相性とか、口コミによる好循環とかを考えてみるとどうでしょうか」
「SNSとの相性だと実績のあるショッピングモールでしょうね。それから、ショッピングモールの中には口コミの機能を持っているものも多くて、SNSの代わりになる部分もあるでしょうし」
と芦田。
「私もそう思います」
と管理部門の高野部長。
[ストーリー2 終わり]
(続く)
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好川哲人、MBA、技術士
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