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第30回 コンセプトを中心にステークホルダーをマネジメント
(第30回から続く)
◆はじめに
今回は、第19回で決めたコンセプトにより作成した第25回の計画に基づいたプロジェクト実行をしているうちにトラブル問題が発生したという前提で、コンセプチュアルな問題解決を行う方法を解説したいと思います。
まずは、以下のストーリーを読んでください。
[ストーリー1]
正月気分も抜けたある日、リーダーの藤田、ITコンサルタントの徳田、営業担当の芦田、管理部門の田中部長は進捗を確認するためにミーティングを行っていた。
「芦田さん、ベースラインスケジュールだと要件定義が終わって、基本設計がそろそろ終わる頃だけど、どう」
と藤田が訊ねた。
「要件がなかなかまとまらないようで、スケジュールが遅れています。いつになるか目途が立たない状況です」
と芦田。これを聞いて藤田は、
「田中部長は要件についてどう思われますか、どんなことでも結構です」
と田中部長に振り向けた。
「まだ、これまでの詳細な経緯ははっきり掴んでいませんが、どうも本質要求とは関係のないところの要求がたくさん出てきており、まとまりがなくなっているように感じています。社長の期待もあるし、気持ちは分かるのですが、、、」
と答える田中部長。さらに、
「このプロジェクトの2つの目標である「帆布製品の口コミSNSの実現」と「帆布製品のモール販売の仕組みづくり」の2番目の方は藤田さんの当初方針とは異なり、クラウドでシステム構築するという方向で進めているとお聞きしましたが、このあたりに原因があるようにも思いますが」
と続けた。「芦田さんはどう考えているの」と藤田。
「確かに、自由度を残すためにシステム構築ということにしましたが、どうも自由度がありすぎている感もあります。そもそものコンセプトは、『我々の商品の利用者が、利用したことがない人に商品の良さを伝える仕組みを提供する』ですし、このコンセプトから出てきた目標がモール販売の仕組みづくりですので、もう一度、進め方を考えた方がいいかもしれませんね。クラウド/パッケージの選択をした時間はムダになりますが」
藤田はしばらく考え、ホワイトボードに下図を描いた。そして、
┌───────────────────────────────────┐
│コンセプト: │
│我々の商品の利用者が、 │
│利用したことがない人に商品の良さを伝える仕組みを提供する │
└───────────────────────────────────┘
↓↑
┌──────────────────┐ ┌─────────────┐
│目的: │ │本質要求: │
│利用者が商品の良さを伝え、購入を促し│ │特徴が伝わるシーンに絞って│
│それを聞いた人が利用し、また別の人に│ │写真で紹介する │
│推奨する好循環を起こす │ │ │
└──────────────────┘ └─────────────┘
↓↑
┌───────────────────────────────────┐
│本質目標: │
│帆布製品の口コミSNSの実現 │
│帆布製品のモール販売の仕組みづくり │
└───────────────────────────────────┘
↓↑ ↓↑
┌───────────┐ ┌───────────┐
│計画1: │ │計画2: │
│SNS準備 │ │クラウドでシステム開発│
└───────────┘ └───────────┘
「芦田さんが問題があると思っているようなので、少し状況を整理しましょう。整理するとこうなっているわけです。この全体像をもう一度俯瞰して、なぜ、今の問題が起こっているのかをみんなで考えてみましょう。全体的にみて、目標の実現アプローチをシステム構築とするのは、バランスとして、どう思いますか。」
とみんなに尋ねた。
「「ユーザが別の人に推奨する好循環を起こす」という目的から考えると、確かに社長を始め、関係者の要求をすべて要件化するのは少し重すぎるように感じます」
と芦田。
「もう少し具体的にいうとどういうこと」と藤田。
「そうですね。やっているうちにだんだんそう思うようになってきたんですが、目的が好循環を起こすことなので、そのためにはもう少しシンプルな仕組みの方がよいかなと思います。たとえば、本質要求を決めたわけですから、本質要求を実現すること以外はできるだけシステムに含めない方がよさそうですね、それがたとえ、社長の要求でも(笑)」
「なるほど。田中部長はどうお考えですか」と藤田。
「同感です」と田中部長。
「ただ、社長もそうですが、関係者は今回のプロジェクトで何かいいことが起こるんじゃないかと非常に期待しています。ですので、その方向で説得するのが大変そうですね」
突然、徳田が口をはさんだ。
「もし、そういう方向に向かったときに、田中部長にステークホルダーを説得する役割をお願いするのは難しいですか」。
田中部長はしばらく考え、「できなくはないと思いますが、問題は変更後どのような仕組みにするかですね。言い換えると、その仕組みの合理性というか、説得力がなくてはちょっと、、、」
と答えた。芦田が反応した。
「要件の取捨選択を妙にすると却って混乱すると思うので、シンプルに購入の仕組みだけにして、商品紹介など以外の要素は基本としてSNSの方で対応するようにするとコンセプトにも合うように思いますけど、どうでしょう。」
と言ったところで、そうかという顔をしてつぶやいた。「だからショッピングモールに出店すればよいという発想なのか」
これを耳にした藤田は、
「ショッピングモールがいいかどうかはともかく、モール販売の仕組みはもっとシンプルでいいんじゃないかな。田中部長、どう思いますか。」
と、田中部長に振り向けた。
「私の立場では機能としてもその方がいいし、関係者の説得もコンセプトへの整合なども含めて、その方がやりやすいように思います。特に、関係者の皆さんが合意されているコンセプトやプロジェクトの目的への整合を根拠にして、コンセプトから考え必要ない機能は取り入れないという話は説得力がありそうです。」
「だけど、コンセプトや目的は解釈の幅があるので、自分が要求していることがコンセプトに合っているとか、目的実現のために必要だとかいう人は出てきそうですね」
と、藤田が返す。
「それはそうだと思いますが、そこはコンセプトの周知や合意を具体的な実現方法によって行っていく方法だと思って頑張りますよ。その役割はプロジェクトに呼ばれた理由の一つだと思ってますので」
と答えた。
[ストーリー1 終わり]
(続く)
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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