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具体的なプロジェクトを通じて、どのようにコンセプトを作り、どのようにコンセプチュアルなプロジェクトマネジメントに利用していくかを解説する

第19回 プロジェクトの本質をとらえたプロジェクト課題(1)(2018.07.04)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


☆これまでの記事
第16回 コンセプチュアル思考によりチームを動かす

第17回 チームを動かすために必要なもの

第18回 プロジェクトの本質をチームで共有する

(第18回から続く)
◆はじめに

本号から後半に入り、具体的なプロジェクトを通じて、どのようにコンセプトを作り、どのようにコンセプチュアルなプロジェクトマネジメントに利用していくかを解説していきます。

まず、第19回はプロジェクト課題の決定と解決コンセプトづくり、そして、第20回から、コンセプトに基づいてプロジェクトの目的や目標をどのように設定していくかを解説します。

最初に以下のストーリーを読んでください。前半は本プロジェクトを実施する背景、後半は実際にプロジェクト憲章を作るまでのストーリーです。

【ストーリー】
京都で帆布製バックを製造販売しているA社はシンプルなデザインで、観光客を中心に人気があり、観光客相手の安定した商売をしています。

今年で創業から15年になりますが、ビジネスは順調に成長し、年商は3億前後の売上を上げるまでに成長しました。商品単価は4千円程度で、毎年7〜8万個のバックを売っています。今のところ、京都に2店舗の直営店と、市内のデパートや土産物店10店に卸しています。

商品数は50種類程度で、そのうち定番が10種類、色違いまで入れると200点程度です。あとは、その時々の限定品です。定番商品については雑誌などに露出しており、FAX受注による通信販売をしています。決済は銀行振込とクレジットカードです。

従業員は50名強で、デザイナーが5名、営業が5名、製造が30名、その他スタッフが10名。利益率は40%。この数字はここ5年間変わっていません。

A社の80%の売上は観光客や京都に来訪した人によるものです。観光客に評判を得ていますが、京都の観光客数を考えると、A社のバックを購入している観光客は2万人に1人にすぎません。そのように考えると、まだまだ、開拓の余地があると言えます。

ある日、社長が

「20周年に向けて企業として次のステージに進みたい。それは帆布ファッション企業だ。売上も5億を目指すべく、わが社もインターネットに直販サイトを作り、京都に来たときに買ってくれる人以外にも広く商品を使って貰うようになりたい。そして売上個数を倍にしたい」

と言い出しました。そのための当面の予算は2千万円は出せるとのことです。

営業マネジャーの前田は兼ねてより商品のバラエティを増やし、価格の設定を高めにしたいと考えていました。そこで、この社長の宣言をチャンスだと捉え、もう少し社長の要望を尋ねたところ、以下のようなことを言っていました。

「まず、具体的なサイトのイメージは、そのサイトに行って、バッグのイメージを入力すれば、推奨するバックがいくつか示され、それぞれに画像や説明文だけでなく、使っている様子とか、いろいろなイメージが分かるようにしたい。また、京都に来ないお客は、パソコンやスマホからバッグを見れて、そのまま購入できる。京都に観光に来ているお客様はスマホで見て、店に来て、現物を見たいと思うようにしたい」

営業マネジャーの前田は早速動き出しました。まず、異業種交流会の活動でよく知っているウェブデザインを手がけるS社の社長に相談したところ、商品を見てもらうだけのカタログ的なサイトならその予算でできるが、自前で仕組みを持って通販をするとなると少なく見積もっても5千万はかかるということでした。

業者におんぶにだっこの業務用のシステムはあるものの、社内にはITの専門家はいません。ただし、デザイナーは、パソコンを使ってデザインしているメンバーもいます。そのような中で、前田マネジャーは社長の意向とS社の社長の意見を取りまとめて、営業部の藤田にリーダーとしてプロジェクトの立上げを依頼しました。期間は2016年10月から2017年3月、予算は最大2千万円。

また、自身は時間が取れないことから藤田と相談の上、S社にアドバイスを依頼したところ、S社の徳田氏が担当してくれることになりました。

10月早々に社長、前田マネジャー、藤田、S社徳田の4名が参加し、プロジェクトの立上げミーティングを行いました。A社の事業のビジョンは事前の経営会議で「観光客以外の人にも使って貰うような仕組みを持つ帆布ファッション企業になる」ことに決められていました。ミーティングの目的はこれに基づいてプロジェクト課題、解決のコンセプトと目的や目標を決め、プロジェクト憲章を作ることです。

これを前提に、プロジェクト課題、課題解決コンセプトなどを藤田が事前に検討、提案し、その提案に他の3名が意見を述べたり、注文を付けるという形で行われました。藤田の提案は以下のようなものでした。

まず、プロジェクトの課題は「誰もがインターネット上で商品を見ることができ、また、購入することもできるシステムの構築」だとしました。その上で、課題解決のコンセプトを「ネットショップ構築ツールを活用して、ユーザーの望む閲覧機能、および販売機能を持つシステムを構築する」ことだとしました。

社長や前田マネジャーは具体的にはどういうツールを使うのかなど、一通り疑問を尋ねて納得したようでしたが、徳田が「予算内で治まるのですか」と尋ねました。

これに対して藤田は、「そこは提供する機能で調整するしかないと思っています。」と回答。徳田は、「システム化することは、どうしてもやらないといけないことではありませんね、であればプロジェクトの課題をシステム化にしない方がよいのでは」と答えました。「では、一般の人にも商品を使って貰うような仕組みを提供するでは如何でしょう」と藤田。

徳田「いいですね、ではその課題解決のコンセプトはどうします」
藤田「ネットユーザー全員に口コミによる販売促進を行う仕組みを提供するで、どうでしょう。」
徳田「具体的にはたとえばどういうことですか」
藤田[たとえば、facebookに情報を提供し、気に入った人に紹介してもらうようなことを考えています」
徳田「口コミでやりたいことは、単に情報を伝えることでがなく、良さを伝えることではないでしょうか?」
藤田「では、われわれの商品を使っていただいている方から、使っていらっしゃらない方に商品の良さを伝える仕組みを提供するという方がいいですね。」

といったやりとりがされ、プロジェクト課題、課題解決コンセプトが決まりました。

これに基づいて、プロジェクトの目的、および、目標を決めました。これについても藤田から提案がありました。

藤田「プロジェクトの目的はコンセプトから考えて、『使っている人が使っていない人に商品の魅力を伝える仕組みづくり』がいいのではと考えていますが、如何でしょうか」

これに対して、徳田は「もう少し具体的な方がいいように思う。特に、商品の魅力を伝える仕組みに、販売が入っているというのは想像しにくいと思います」と意見を述べた。それを受けて、

藤田「そうですね。では、『商品の良さを伝え、購入をうながし、そして使い、その良さを別の人に勧めるという好循環を起こす』という目的は如何でしょう」

と応えた。この提案に対して、社長、前田、徳田の3名とも合意しました。それを受けて、藤田は今度はプロジェクトの目標として

「その上で、目標は、

1.帆布製品の口コミSNSの実現
2.帆布製品のモール販売の仕組みづくり

の2つでどうでしょう。前回、話題にしました、ネットショップ構築ツールを使っても自前のサイトを構築するのは予算的に厳しいですし、運用も体制的に難しいものがありそうですので、楽天やYahoo!などのネットモールに出店して、SNSと連動しては、と考えています。」

と提案しました。

(続く)


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   6.トラブルの本質を見極め、対応する
   7.経験を活かしてプロジェクトを成功させる
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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