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第16回 コンセプチュアル思考によりチームを動かす
◆チームを動かすために必要なもの
まず、チームを動かすには何が必要かということから考えてみましょう。まず、真っ先に必要だと考えられるのは、方針です。方針としては
・プロジェクトとして何を得たいかという方針
・どのような成果物を生み出すかという成果物に関する方針
・成果物を生み出す作業の方針
・チームの運用の方針
など、いくつかの方針が必要です。
自立したメンバーであれば、方針を決めるだけで、チームとして動くことができるでしょう。しかし、そうではないメンバーの場合は難しいものがあります。
そこで考えたいのは、コミュニケーションです。メンバー間のコミュニケーションの質を向上し、方針だけでは動くことができないメンバーを巻き込んで動かしていくことが考えられます。
同時に考えたいのが、プラクティスと言われる行動規範です。プラクティスはアジャイル開発でよく使われますが、アジャイル開発以外でも、行動規範として使うことができます。実際に、上で述べたようなチームメンバー全員がリーダーシップを取るようにしたい場合、リーダーシップのための行動規範を決めておくことは非常に効果があります。
チームを動かすために必要な3つのもの(方針、コミュニケーション、プラクティス)を表すためにコンセプトが役に立ちます。
◆コンセプトから方針を示す
まず、方針については、コンセプトそのものだといってもいいでしょう。実際に、コンセプトを適切に作ると、コンセプトをベースにして
・プロジェクトの目的
・プロジェクトの目標
・プロジェクトの要求
が決められます。そして、コンセプトや目的、目標、要求から、プロジェクトで得たい成果、成果物に関する方針、作業方針などを決めることができます。これがうまくできることが、プロジェクトガバナンスとしてコンセプトが機能するということです。
チームの運用の方針に関しては、コンセプトの中に含まれることもありますし、また、目標として設定する場合もあります。
これは、何を中心にしてプロジェクトを動かしていくかによって、決めるとよいでしょう。一般的に言えば、目的や目標を中心にして動かす場合、成果物を中心にして動かす場合、チームを中心にして動かす場合などがありますが、チームを中心にして動かす場合には、コンセプトの中に含めると良いでしょう。
◆コンセプトを共有するコミュニケーション
次に、コミュニケーションです。コミュニケーションについては、コンセプトを共有できるよう、プロジェクトコンセプトについて話し合いをします。コンセプトというのは抽象的なものですので、そこをうまく使ったコミュニケーションをします。
本連載でずっと使ってきたプロジェクト例
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ある通販会社で経営層から「ロイヤルカスタマー戦略のテコ入れによる収益向上┃
┃」という戦略が打ち出された。 ┃
┃その実行の一環としてロイヤルカスタマーへの新たな働きかけをする、これまで┃
┃にはない仕組みの構築を課題としたプロジェクトを実施することになった。 ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
では、コンセプトを
┏━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┓
┃ 「ロイヤルカスタマー向けのロイヤルティ制度の導入」 ┃
┗━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━┛
としました。
このコンセプトをベースにして考えてプロジェクトのコミュニケーションを考えてみます。ロイヤルカスタマー向けのロイヤルティ制度は成果物としても多数あり、またその具体的な実現方法は多様です。その意味で、相当に抽象度の高い概念だと言えます。そこで、コンセプトをベースにしてプロジェクトの方針を討論し、さらに計画化するにあたって、抽象と具象の行き来をして、メンバーにコンセプトに対する理解を深め、さらに、そこからプロジェクトとしてすべきことを考えて貰うようにします。
すると具体的なアイデアについては、考えていなかったようなものをメンバーが出してくる可能性も高く、あるメンバーが言い出したことがプロジェクトとして採用されればその部分でそのメンバーがリーダーシップを取ることも可能になってきます。
◆コンセプトとプラクティス
最後はプラクティスです。まず、コンセプトやコンセプトから生まれたプロジェクトの目的、目標について常に意識するということがすべてのプロジェクトにおいて重要な行動規範になります。
さらに、各プロジェクトにおいて目的を実現するために何をすべきかを考えて、重要性が高いものを行動規範にします。特にメンバー全員がリーダーシップを発揮するようなチームを創るためには行動規範が果たす役割は大きいと考えられます。
たとえば、例のプロジェクトでコンセプトから生まれた目的が「ビジネスの仕組みへの参加によるロイヤルカスタマーのコミットメントの向上」であるとすると、この後、プロジェクトで仕組みを考えたり、実装したりする際に「常にロイヤルカスタマーが参加してくれることを意識して思考や行動をする」という行動規範を設けると効果的でしょう。さらにここにリーダーシップに関する規範を含めて、「常にロイヤルカスタマーの参加を促すような思考や行動をする」とすれば、主体的な行動も期待できます。
この例から分かりますように、行動規範を設定することは動かす直接的なルールを決めることだけではなく、チームとしての雰囲気を作っていくようなポイントにも使えます。エドガー・シャイン博士が組織文化には
1.人工物と創造されたもの
2.価値
3.基本的仮定
の3つのレベルのものがあると指摘しました。人工物には、作り出された物理的・社会的環境、言葉,装飾,行動など、価値は「どうあるべきか」という感覚で、いわゆる価値観です。そして、基本的仮定はいわゆる風土で、たとえば、顧客のことを考える、利益を考える、目的を考えるといったものです。
「1.人工物と創造されたもの」と「2.価値」はさまざまな方法で普及していくことができますが、「3.基本的仮定」に関してはコンセプトがなくてはできず、中でもプラクティスの果たす役割は大きいと考えられます。
(続く)
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