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アジャイルプロジェクトマネジメントには、原則や価値があるが、それ以前に「前提」がある

第2回 アジャイルの前提(2011/07/01)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆アジャイルの前提

アジャイルプロジェクトマネジメントには、原則や価値があるが、それ以前に「前提」がある。この前提は、アジャイルプロジェクトマネジメントの手法に関わらず、つまり、ジムハイスミスのAPMであって、SCRUMであっても同じように成り立つ。その多くは、精神的なものであり、アジャイルマインドと呼ぶことにしよう。

アジャイルマインドがもっとも象徴的なのは、リスクに対する態度(スタンス)である。プロジェクトマネジメントにとってリスクは敵である。そして、組織を上げて、徹底的にリスクと戦うのはプロジェクトマネジメントだといっても過言ではない。

アジャイルでは、リスクに対してどのような態度をとるのか?「戦わない」という態度である。もし、手元に今取り組んでいるプロジェクトのリスクリストがあれば、取り出して眺めてみてほしい。プロジェクトのタイプにもよるが、ITのようなプロダクション(生産)型のプロジェクトだと、リスクの7〜8割は上位組織、顧客、社内関係部門、プロジェクトメンバー、ベンダーなどのステークホルダとの利害関係がリスクの源泉になっているのではないかと思う。


◆透明性を確保し、リスクと戦わない

なぜ、リスクが起こるのかというと、壁があり、壁によってリスク関係の対立が発生するからだ。この壁の正体は、取引契約であったり、立場の違いだったりするので、そう単純な話ではないが、壁がなくなればリスクの多くは消えることになる。

では壁を取り除くにはどうすればよいか。透明性の確保である。誤解のないようにしてほしいが、これはすべてをオープンにするという意味ではない。取引である以上、Win−Winの関係であっても、完全にオープンになることはない。むしろ、すべてのステークホルダが納得する場を作るというイメージに違い。

たとえば、ITベンダーが顧客からのプロジェクトを行う場合に、リスクをどこまで共有するかが問題になる。この問題に対して、圧倒的に多いのは、出せるものと出せないものがあるという態度である。福島原発事故の初期対応で、政府や東電が情報隠ぺいをしたのはけしからんという人でも隠すべきだという。


◆オープンマインド

オープンであるときに、リスクは一切、隠すべきではない。ここでも誤解がないように言っておくがリスクを隠さないというのは、隠すべきことがあってはならないという意味である。最低限でも、オープンにすることによって露見した問題が確実に改善されなくてはならない。オープンマインドというのはそういうことだ。

このような態度をとれば、基本的にリスクはすべて共有できるし、そもそも、ほとんどはリスクにならない。たとえば、ITプロジェクトで顧客が仕様追加を要求する。なぜ、この問題が多くのプロジェクトで深刻なリスクになっているかというと、顧客側の要求が不透明だからだ。その要求を行う理由についてそれなりの情報は開示されることが多いが、
全体像をきちんと説明されることはまずないので、トレードオフが見えない。つまり、要求にこたえるという結論ありきで、せいぜい、予算面で抵抗するくらいしかベンダーはなすすべがない。これは不透明性ゆえである。

透明性を確保できれば、この問題は消える。ただし、上のリスクの例でもわかるように、お互いの透明性の確保のために必要になるコストは大きい。おまけに、日本組織や、日本人が嫌う類のコストである。


◆ポジティブマインドを持つ

さて、アジャイルにはオープンマインドを並んで、もう一つ重要な前提がある。それは、ポジティブ思考である。上に述べた顧客の問題もそうだし、もっと顕著なのはチームの問題であるが、「信頼している」ことを前提にしている。

ところが、顧客にしろ、チームにしろ、実績があれば信頼できる。しかし、実績がない状況で信頼できないとアジャイルにはならない。別の言い方をすれば、走りながら信頼関係を作っていかないとアジャイルはできない。これが難しい。このためには、メンバーが何とかしてくれるだろう、顧客も同じ方向を向いて協力してくれるだろうといった、ポジティブな思考をする必要がある。これができないと、とてもではないが、アジャイルのような方法論は受け入れられないだろう。

信頼関係が実績ベースでしかできない根底にあるのは、失敗への恐怖である。詰まるところ、アジャイルにプロジェクトを進めていこうとすれば、失敗を覚悟で成功を勝ち取るという発想が必要だ。いわゆる「リスク」を取るという感覚ではない。リスクがあることを承知で、リスクを解消していくという発想だ。

たとえば、メンバーのスキルが十分ではないと感じている。このときに、できることをやらせて、育てることは難しい。できることをやらせていたのでは育たない。メンバーがプロジェクトの過程で育っていくことを前提に任せていく。プロジェクトだから、失敗もできない。ここで天秤にかけると、今回は任せられないという答えになる。

そうではなくて、今のスキルでは不十分だが、求めているスキルを持つように育つだろうと信じることが重要である。もちろん、そのためのサポートも必要だ。

つまり、ポジティブマインドを持って、最初の一歩を踏み出すことが重要なのだ。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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