「ひとつ上のプロマネ。」は自分自身の仕事の成果を明確に定義していなくてはならない。決めるべきものは、仕事ではなく、仕事の成果である。
重要なことはプロジェクト管理が仕事だと思い込まないことである。ラベル付けされた仕事にこだわると、しばしば、本末転倒が起こり、本来の成果に対してマイナスに働くことがある。プロジェクト管理という仕事であることにこだわれば、目線がチームにむき、外に対して関心を持たず、外部からチームを守ることに腐心するようになる。これに対して、自分の成果をたとえば「ステークホルダの協力を得て、ステークホルダが納得する成果を生み出すチームを作ること」だと定義したとしよう。すると、ステークホルダに対する洞察を深め、ステークホルダを満足させるポイントを把握した上で、それぞれのメンバーに具体的な指示をしながらプロジェクトを進めていける。これが結果としてチームを結束させ、ステークホルダからメンバーを守ることにもなる。
この際、重要なことは、成果に結びつかない仕事を切り捨てることである。プロジェクト管理を目的化してしまうと、やらなくてはならないことと、やらなくてよいことの区別がつかなくなる。組織が求める管理だと考えられることはすべてやらなくてはならないと思うようになる。管理とはそういうものであり、その境界は組織が決めるものだからだ。
ところが成果を明確に定義し、それを目的とすれば境界は明確になる。成果を生み出すロジックができる管理は行うべき仕事であり、そのロジックができないものは切り捨てるべき仕事である。この区別が明確になる。
さらに重要な点は、成果を明確にすることにより、仕事の生産性に対する評価が明確になることである。管理に注目している限り、その評価は簡単なようで難しい。プロジェクトで目標とする成果が得られない管理上の理由というのはいくらでもあるからだ。ところが、成果が明確に定義されていれば、その成果を上げることができない原因となった仕事には問題があり、どのようにすれば、定義した成果をあげることができるかを徹底的に考えることができる。
ここでもキーワードは生産性の継続的な改善、すなわち、学習であり、能力の向上である。定義した成果を達成できない理由はたくさんある。しかし、多くの理由は自身の能力によるものである。そのように考えた場合、どのような能力の向上があれば成果をあげることができるのかという観点から、自分の能力の向上が必要なのかを明確にすることができ、そのための能力向上に取り組むことができる。この点が重要だ。
また、学習という観点から非常に重要なことは、成果に直結しない仕事を止めるという判断の的確さ自体の学習である。この学習ができて初めて「ひとつ上のプロマネ。」であるといえる。
【若干の解説】
プロジェクトマネジャーとしての仕事は容易に想像がつく。
では、プロジェクトマネジメントの成果とはなんだろうか?プロジェクトの成功だという人がいるが、これは違うと思う。PMBOKで考えてみてもマネジメント成果物という定義があるように、マネジメントの成果とプロジェクトの成果は別物だ。
実はプロジェクトの成功がプロジェクトマネジメントの成果だという呪縛によって、これが考えられなくなっている。できるだけ効率のよい計画を作る、メンバーの動機づけをする、リスクを早期に見つけるなど、すべてプロジェクトマネジメントの成果である。
しかし、仮にこれらを目標管理の目標とすれば、上司からの冷たい視線が注がれることは目に見えている。どうすればよいのだろうか?これらがプロジェクトの成果に結びついていくロジックを自分の言葉できちんと言い切ることだ。
ここが脱落している。ただしそれをその前に信じることである。
たとえば、著者の考えを一つだけ紹介しておく。コミュニケーションによってスケジュールの短縮が可能になるという信念を持っている。自身がプロジェクトマネジャーをやるときには徹底的にやる。すると、本当にそうなる。信じればこそだ。
コミュニケーションでなくてもよい。何かに拘ってみるというのが一つの方法ではないかと思う。
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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