卓越したプロジェクトマネジメントスキルを持っていることと、「ひとつ上のプロマネ。」であることは混乱されがちである。しかし、両者の間には歴然とした違いがある。それは、スキルの経済的効用に関して明確な価値観を持っているかどうかである。
スキルは効用、つまり、経済的価値を生み出す。これは自然発生的といってもよいかもしれない。「手に職があれば食える」という神話はこれに基づくものである。
まず、「ひとつ上のプロマネ。」であれば、常に、自分のスキルの経済的価値を意識し、そのスキルの適用に際してはスキル適合の観点からだけではなく、経済的観点から意思決定ができなくてはならない。
言い換えると、「ひとつ上のプロマネ。」はそのスキルが生み出す効用を最大にする方策を明確にできなくてはならないといえる。これを経営の仕事であると考えるのであれば「ひとつ上のプロマネ。」であるとはいえないだろう。その方策を実行していくのは経営の責任であるが、方策を策定することはプロフェッショナルの仕事である。
スキルの価値を決めるのは、スキルの適用の仕方である。仕方という中には、場面、タイミングなど多くの要素が含まれるが、「ひとつ上のプロマネ。」はその要素間の関係を考え、効用が最大になるようにバランスをとらなくてはならない。
これは、自らが持つスキルの価値を知ることから始まる。自分の持っているスキルの(市場)経済的価値を知り尽くして初めて、そのスキルを適用する方策をうまく決定することができる。
また、このような決定を的確に行うためには、自分のスキルに対する将来的な発展シナリオ、あるいは、価値の変化について熟知しておく必要がある。単に目の前の問題に自分のスキルをどのように適用していくかというだけでは「ひとつ上のプロマネ。」が求められている最適化を実現することは難しいだろう。
さらに、「ひとつ上のプロマネ。」は経済的価値の向上に努めなくてはならない。スキルの適用方法に関する卓越した見解を持つだけでは、そのスキルに対する価値は目減りいく一方である。その目減りを防ぐには、目減り分を補っていく生産性の向上、学習をしていくことが唯一の方法である。
学習は「ひとつ上のプロマネ。」としてのスキルを向上させていくばかりではなく、適用の場面に広がりを持たせ、同じスキルによりより高い付加価値を見出すことができることも求められる。そして、そのことは、「ひとつ上のプロマネ。」が持っていたスキルの経済的効用に関する価値観を強固にするものでなくてはならない。
【若干の解説】
行動規範その1に対して、
「大切そうなことが書いてありそうなのだが、書き方が難しく、わからない部分が多い」
というコメントを戴いた。確かに、そうかなと思って、解説をつけることにした。
(1)スキルの経済的効用について
この行動規範の最大のポイントは、プロジェクトマネジメントスキルの経済的な効用とは何かという点だ。これはドラッカーが言っていることだが、スキルとは経済的効用を持つ。いくら達人の技であっても、本人が持っているだけで経済的な効用を持っていなければスキルとはいえない。
スキルの経済的効用はそのスキルがどれだけの利潤をもたらすかをいう。直接的な利潤はそのスキルを使った仕事による利益だ。間接的な利潤とは結果としては利益を生み出すような成果だ。たとえば、無駄を排除し改善を行う習慣、顧客を満足させる行動習慣、生産性を高める人間関係、さまざまなノウハウなどが、これに該当する。
プロジェクトマネジメントスキルの経済的効用とは、一義的にはプロジェクトを成功させ、プロジェクトが利益を生むという直接的利潤であるが、「あのプロジェクトマネジャーのプロジェクトのメンバーはバタバタと倒れていく」というようなことでは、いくらプロジェクト目標を達成できても経済的効用があるとはいえず、スキルがあるともいえない。バランスが重要である。
(2)価値観
最終的には経済的効用をもたらすことが価値観に変わっていく必要がある。たとえば、改善をすることは経済的効用をもたらすが、それを組織から言われてするのではなく、自身の価値観で、意志をもって行なえるようにならなくてはならない。そのような価値観を持って、初めて「ひとつ上のプロマネ。」であるといえるだろう。
好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
本連載、PM養成マガジン購読にて、最新記事を読むことができます。