プロジェクトでトラブルに遭遇したときに、傍から見ていると意外なくらいに周りが見えなくなることが多い。つまり、目の前に起こっている問題しか、問題と映らず、解決策もひたすらその問題を解決することに集中する。第三者的にそのような状況はよくないというのは簡単だが、当事者でなくてはわからない部分があるのも事実だ。
このような状況に陥ることを避けようとすれば、普段から、問題発見と問題解決の思考回路を作り上げておく必要がある。その際のポイントは3つある。ひとつは考える深さをコントロールする回路を作ることである。二つ目は、考える幅を広げることである。これらは、主に論理的思考の領域である。
三つ目は複眼的に問題や解決策を評価することである。複眼的な思考の代表的なものはシステム思考である。
システム思考については、下記のコラムをご参照ください。
PMの道具箱 第77回 システム思考のツール:因果ループ図
ただし、システム思考は本質的にモデリングの手法であり、かなりの経験をつまないと適切に使うことは難しい。そこで、もう少し、簡単に複眼思考を行うツールとして紹介したいのが、今回のTチャートである。
Tチャートはそんなに複雑なものではない。T型の線を引き、最上段に二つの標題を書くスペースを取り、アイデアを二つの欄に分けて整理する。たとえば、顧客から、仕様追加の要求があったとしよう。すると、
仕様追加しない 仕様追加する
───────┬──────┬───────
│顧客の満足 │
│スケジュール│
│品質 │
│コスト │
│リスク │
というようなフレームを作る。縦の項目は、この状況で議論すべきポイントである。そして、このフレームにどんどん、アイディアを入れていく。
この議論すべきポイントをどれだけ作れるかが、経験でもあるし、知識でもあり、バランス感のある意思決定ができるポイントの一つと考えている。
もう一つは、コンセプチュアルスキルであるが、それについては、次回にする。
すると、
─────────┬──────┬───────────────
仕様追加しない │ │仕様追加する
─────────┼──────┼───────────────
満足しない │顧客の満足 │当面、満足する
│ │ただし、再度変心する可能性あり
─────────┼──────┼───────────────
予定通りに完了 │スケジュール│現在の納期では不可能
遅延の可能性もある│ │顧客は遅れても良いと言っている
│ │担当者Aは次のプロジェクトがある
─────────┼──────┼───────────────
問題なし │品質 │機能品質は向上する
機能品質は基準内 │ │潜在バグが増加する可能性あり
─────────┼──────┼───────────────
問題なし │コスト │コストは計画よりオーバー
│ │増額は期待できない
─────────┼──────┼───────────────
開発中止の可能性 │リスク │スケジュール、コストに関する
│ │リスク増大
─────────┴──────┴───────────────
といったような表を作ることができる。これを見ながら、バランス感のある意思決定をしようというのがTチャートである。
また、自分の意見を整理しておき、抜けている論点を話し合いの場などで、提案することにも使える便利なツールである。
◆参考文献
フラン・リース「ファリテーター型リーダーの時代」、プレジデント社(2002)
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鈴木道代、PMP、PMS
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス、PMstyleプランナー
神戸大学工学部卒業後、アパレル企業の情報システム部に所属し、データベース管理者、システムエンジニア、リーダーとして社内システムの開発・マネジメントに携わる。
その後、独立し、小規模のシステム開発プロジェクトを受託し、プロジェクトマネジメントや開発マネジメントを担当する。
2004年、PMPを取得し、株式会社プロジェクトマネジメントオフィスにて、プロジェクトマネジメントのコンサルティング、研修講師、セミナー講師を担当する。2010年、PMS取得。
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