◆アブダクション(直観的仮説推論)
論理的思考法に、帰納法と演繹法があります。帰納法は、いくつかの事実から結論を導き出す思考法であり、演繹法は一般的な法則から結論を導き出す思考法です。具体から概念を考えるのか、概念から具体を考えるのかという反対の方向からの思考法です。
帰納法では、はるか昔、高校生の頃、数学的帰納法を学びました。
1ならば1、2ならば4、3ならば9 → nならばn**2(二乗)
1,2,3の結果から、一般的なnを推測する考え方です。
反対に、演繹法は、n**2(二乗)になることがわかっているから、3を代入すれば結論は9になるという考え方です。
帰納法は結論についての確証はありませんが、1つの事実から一般的な結論を推測するよりは、複数の事実から推測する方がより妥当な結論が導き出せるはずです。
たとえば、数学的帰納法において、1は奇数、2は偶数で素数、3は奇数で素数ですので、7(奇数で素数)であればどうなのか、9(奇数で二乗数)であればどうなのか、などを考えることで、その確証の度合いが増えるはずです。(あまり高等な数学ではなくてすみません)
演繹法では、
1.「アイドルを好きな女性が多い」「鈴木は女性である」
→「鈴木はアイドルが好きである」
2.「女性はアイドルが好きだ」「鈴木は女性である」
→「鈴木はアイドルが好きである」
など、一般的なルールや論理、前提、事実から結論を出しています。ですので、ルールや論理、前提、事実が正しいかどうかで結論が妥当かどうかが決まります。
1.では、「アイドルを好きな女性が多い」が前提ですので、鈴木がアイドルが好きかどうかは、少ない方の女性かもしれませんので、結論が妥当かどうかわかりません。2.では、「アイドルが好きだ」と断言していますので、結論は論理的には正しいのですが、その前提が正しいかどうかで、結論の妥当性が決まります。
数学など、結論が一意に決まるものであれば、帰納法でも演繹法でもどちらの思考法でもいいのかもしれませんが、何が妥当なのかが不明なマネジメントなどでは、どちらでもない思考、アブダクション(直観的仮説推論)が有効であると言われています。
アブダクションは、元々、日本語では「誘拐」という意味ですが、仮説的推論のことであり、米国の哲学者C・S・パースが提唱しました。
パースは、前提があれば、結論は自明の理であり、演繹法からは何も生まれないと考えました。そこからは、新しい情報や知識は出て来ず、出すためには推論が必要と考えています。
アブダクションでは、推論を、普通に考えたのでは思いつかない、見落としてしまいがちな事柄から意外な論理を展開するのです。現場の些細な兆候や証拠の観察から始める推理と同等ですので、相棒の杉下警部、オリエント急行殺人事件のエルキュール・ポアロなどを見習いたいものです。
遺留捜査の上川隆也演じる糸村刑事も現場の誰もが見落とす遺留品から、事件の本質を見抜き、犯人にたどり着いています。事件が発生し犯人とおぼしき参考人の住居を捜索したところ、立派な装丁のニーチェの本があり、中には大きなシミがあったのです。あまりにも、そのへんにおいてあるという雰囲気でしたので、最近手に入れたものと思われました。誰も注目はしなかったのですが、糸村刑事は、そのシミや本が気にかかり、シミについて科捜研に分析を依頼し、印刷所で使う油ということがわかりました。
なぜそこに犯人部屋には似つかわしくない立派な哲学書があるのか、このシミは何なのかと疑問を持つことによって、犯人逮捕にたどり着いています。
「ビジネスマンのためのデザイン思考」では、アブダクションを下記の三段論法で説明しています。
1.驚くべき事実Cの発見(結論:山頂から貝の化石を発見)
2.もしA(大昔、海だった)が真であれば、Cが起きるのは自明の理である
3.ゆえに、Aが真実と考える理由がある
ここに貝の化石があるのは、なぜだろう、と考え、昔は海だったと結論づけています。そこには大胆な発想が必要で、通常の論理思考ではなかなか、そこにたどりつくことができません。アブダクションには、観察力が必要ですが、洞察力はもっと必要ですね。
◆参考文献:ビジネスマンのためのデザイン思考 著:今野登
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鈴木道代、PMP、PMS
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス、PMstyleプランナー
神戸大学工学部卒業後、アパレル企業の情報システム部に所属し、データベース管理者、システムエンジニア、リーダーとして社内システムの開発・マネジメントに携わる。
その後、独立し、小規模のシステム開発プロジェクトを受託し、プロジェクトマネジメントや開発マネジメントを担当する。
2004年、PMPを取得し、株式会社プロジェクトマネジメントオフィスにて、プロジェクトマネジメントのコンサルティング、研修講師、セミナー講師を担当する。2010年、PMS取得。
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