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ティール組織には、セルフマネジメント、ホールネス、進化する目的の3つの要素がある。進化する目的がパーパスである

第14回(最終回) ティールなプロジェクトマネジメントをする(2020.06.03)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆ティール組織とは
一昨年に大きな話題になった組織形態にティール組織があります。一言でいえば、ティール組織とは、自律型・自己組織化組織ですが、これだけではあまりニュアンスが伝わりません。そこで、まず、ティール組織について説明したいと思います。

ティール組織は2014年にフレデリック・ラルーが書籍「Reinventing Organizations」において提唱した概念です。4年後の2018年に「ティール組織」(英治出版)として翻訳が出版され、分厚い本であるにも関わらず、多くの人が読み、一挙に知られるようになりました。

ラルーがこの本を書いた動機は、

「旧来のマネジメント手法は成果が上がっており正解だと思われているが、実は組織に悪影響を与える可能性を孕んでいる」

という認識があったことでした。そして、過去に見られる組織を進化の順に5つのスタイルに分けて、そのスタイルの進化によってこの要因を説明しています。

ラルーは、ケン・ウィルバーが提唱したインテグラル理論における”意識のスペクトラム”を用いて、この進化を

衝動型(レッド)→ 順応型(アンバー)→ 達成型(オレンジ) → 多元型(グリーン) →進化型(ティール)

と説明しています(()の中が意識のスペクトラム)。この進化の5番目、ティール組織です。それぞれに、どのような組織か、説明していきます。注意しておいてほしいのは、組織としては後に行くほど進化していますが、それがよいかどうかはどういう目的の組織かによって変わってくることです。


◆衝動型、順応型、達成型
まず、衝動型(レッド)ですが、「特定の個人の力で支配的にマネジメントする」ことにより、強力な上下関係が形成されることを特徴とする組織スタイルです。この組織は短期的な視点で動いており、どのようにして組織として生存していくかだけに焦点が当てられています。このスタイルの例として、ギャングやマフィアがあげられます。

次に順応型ですが、「明確に役割が決められており、厳格にその役割を果たすことを求められる」ことを特徴とする組織スタイルです。この組織では、中長期で計画を立てられるようになり、さらに、規模を拡大できる安定した組織構造を作れるようになっています。このスタイルの組織の例として、カトリック教会、軍隊、公立学校などがあげられます。

三番目は達成型ですが、アンバー型の善悪を、成果があるかないかという基準に置き換えたもので、これは環境の変化に適応するために発展しました。つまり、「階層構造によるヒエラルキーが存在しながらも、成果を出せば昇進出来る」ことを特徴とする組織スタイルです。このために、イノベーション、説明責任、実力主義が求められます。このスタイルの組織が今のビジネス組織としては最も一般的だといえます。


◆多元型
四番目は多元型です。多元型では達成型の問題である、物質主義、社会的不平等、コミュニティーの喪失といった問題を解消しようとした組織で、「その人らしさを表現可能であり、主体性を発揮しやすく個人の多様性が尊重されやすいことが求められる」ことを特徴とする組織スタイルです。

このため、公平、平等、調和、コミュニティー、協力、コンセンサスを創ろうとし、このため、権限移譲、価値観を重視する文化、心を揺さぶるパーパス、多数のステークホルダーの視点を生かすことなどが求められます。

この組織も一種の自律、自己組織型の組織です。まだまだ、一般的とは言えませんが、このスタイルで成功している企業には、サウスウエスト航空、ベン&ジェリーズといった経営学のケースによく登場してくる企業があります。


◆ティール組織
そして最後が進化型(ティール型)であり、「組織を一つの生命体」であることを特徴とする組織です。この組織は、組織に関わる全員のものであり「組織の目的」を実現すべく、メンバー同士で共鳴しながら行動をとることを特徴とします。例えば「ホラクラシー経営」が一つの形態です。

ティール組織には、必要な要素が3つあります。それは

(1)セルフマネジメント
  指示に従うのではなく、1人ひとりが自分の判断で行動し、成果をあげていく
(2)ホールネス
  個人のありのまま(全体)を尊重し、受け入れることを重視する
(3)進化する目的
  会社のビジョンや事業、サービスは、社員の意思でどんどん進化する

の3つですが、三番目がこの連載でずっと議論してきたパーパスです。詳しくは後述します。


◆衝動型プロジェクトスタイル
さて、フレデリック・ラルーが示したように組織スタイルが進化するとすれば、プロジェクトはどのスタイルであることが望ましいのかが気になりますが、プロジェクトの性格によって望ましいスタイルが変わってきます。

プロジェクトはプロジェクトマネジャー次第だという人もいますが、その人のイメージは、衝動型プロジェクトスタイルをイメージしているのでしょう。このスタイルのプロジェクトは少なくなってきていると思われがちですが、衝動型でなくては成果が生まれないプロジェクトというのもあります。

例えば、会社のスタートアップでは衝動型のプロジェクトスタイルであることが望ましいことも多いですし、商品の開発プロジェクトにおいても例えば、ジョブズのような衝動的なプロジェクト運営をすることが大きな成果を生み出すことも決して珍しいことではありません。


◆順応型プロジェクトスタイルと達成型プロジェクトスタイル
プロジェクトで一番、多いのは順応型のスタイルだと思われます。

プロジェクトマネジメントは今では多様性がありますが、PMBOK(R)として初めて方法論がまとめられた時代には、役割を分担し、その役割を完全に果せるようにすることがプロジェクトマネジメントの役割でした。つまり、順応型だったわけです。

さらにいえば、プロジェクト制を導入して、事業部門においてはプロジェクトを評価の起点にしている企業も増えてきました。IT企業などはそうですが、これはプロジェクトを達成型のスタイルにしているとみることができます。


◆多元型のプロジェクトスタイル
一般組織でもそうですが、プロジェクトにおいても、大きな隔たりがあるのは、達成型と多元型の間です。その原因になっているのは、権限移譲の難しさだと考えられます。

プロジェクト自体が組織からの権限移譲ですが、ここでプロジェクトマネジャーが計画を作り、すべてをコントロールしようとすれば順応型になります。ここで、さらにメンバーに権限移譲するかどうかどうかが問題になります。

メンバーに権限移譲するとは、例えば、WBSとOBSを決めて後はメンバーに任せるというスタイルでやっているプロジェクトは、多元型スタイルだといえます。これより一歩進んだのが、WBSが作れないようなVUCAなプロジェクトにおいてアジャイルを適用してプロジェクトを進めていくと、多元型になります(これを順応型や達成型でやろうとするとうまく行きません)。

これをさらに権限移譲していくと、OODAプロジェクトマネジメントになります。このあたりのプロジェクトマネジメントの方法は第10回、第11回をお読みください。現在のところ、こういったスタイルのプロジェクトマネジメントが多元型プロジェクトのマネジメントの代表的な手法だといえます。

第10回 VUCA時代のプロジェクトマネジメントの手法(1)〜アジャイルプロジェクトマネジメント

第11回 VUCA時代のプロジェクトマネジメントの手法(2)〜OODAプロジェクトマネジメント


◆ティール型プロジェクトスタイル
それでは、ティール型プロジェクトのマネジメントはどのようなものかということになるわけですが、著者はパーパスドリブンのプロジェクトマネジメントはティール型のだと考えています。進化型(ティール型)の組織の要件として

(1)セルフマネジメント
(2)ホールネス
(3)進化する目的

という3つがあると紹介しましたが、パーパスドリブンなプロジェクトマネジメントは、

「組織のパーパスを実現するためにプロジェクトのパーパスを決める」

という形で(3)を実現します。そして

「パーパスを実現する方法を自分(たち)で決め、実行していく」

という形で(2)の「個人のありのまま(全体)を尊重し、受け入れる」を実現します。さらに、

「実行する中で発生する様々な問題を自身で解決していく」

ことによって、(1)を実現します。


◆VUCA時代のプロジェクトスタイルとプロジェクトマネジャーの役割
このような方法でプロジェクトを進めて行く場合、プロジェクトマネジャーは要らなくなると思われるかもしれませんが、それは誤解です。前回、お話ししたようにパーパスに向き合い、パーパスの実現のためにさまざまな調整をしていくことがプロジェクトマネジャーの仕事になります。

VUCA時代のプロジェクトはティールなスタイルが必要になるプロジェクトが圧倒的に増えていきます。そこで、

「ティールなプロジェクトに、パーパスドリブンなコンセプチュアルなプロジェクトマネジメントを行う」

これこそが、VUCA時代のプロジェクトマネジメントの在り方だといえます。


◆最後に

ということで、VUCA時代のパーパスドリブンなプロジェクトマネジメントの連載は終わりです。実は、この連載はこの最終回の結論を書くために始めたものです。

ティールについて何か書こうと思ったときに、思い当たったのがパーパスでした。そして、VUCA時代にはこのようなプロジェクト編成を含む、プロジェクトマネジメントが不可欠だと思います。

この連載を始めたころは単にVUCAでしたが、今はそこにコロナの後、どうするかが絡んできて、一段と複雑になっています。

そして、アフターコロナを切り開いていくには、プロジェクトしかないだろうと思います。その意味で、日本もプロジェクト主体に変えるチャンスです。その際に、この連載が何かの役に立てば幸いです。

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   2.プロジェクトへの要求の本質を反映したコンセプトを創る
   3.コンセプトを実現する目的と目標の決定
   4.本質的な目標を優先する計画
   5.プロジェクトマネジメント計画を活用した柔軟なプロジェクト運営
   6.トラブルの本質を見極め、対応する
   7.経験を活かしてプロジェクトを成功させる
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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