◆はじめに
前回はVUCAなプロジェクトに対する振返りは、必ずパーパス(目的)の実現度を評価し、パーパスの実現度の向上のためのマネジメントの改善方法を検討する必要があることを述べました。
振返りはもちろんですが、VUCAなプロジェクトを成功させるためには、パーパスドリブンなプロジェクトマネジメントが不可欠で、その成功のポイントの一つはプロジェクトマネジャーが如何にパーパスに向き合えるかによると考えられます。今回を含めてあと2回でこの連載も終わる予定ですので、全体のまとめも含めて、プロジェクトマネジャーはどのようにパーパスに向き合えばよいかという話をしてみたいと思います。
◆目標とパーパスの位置づけ
まず、最初に整理したいのは、プロジェクトやプロジェクトマネジメントの基本的な話である目標と目的(パーパス)の話です。コンセプチュアルプロジェクトマネジメントを簡単にいえば、
計画から実行に渡り、常になぜそのプロジェクトを実施しているのかに立ち戻り、プロジェクトを進めていくこと
です。
コンセプチュアルであることが求められないプロジェクトの代表として、ビルや発電プラント建設のようなプロジェクトを考えてみます。これらは計画に集約されるプロジェクトです。つまり、要求や情報を集め、いつまでに、いくらで、どのようなプラントを作ればよいかを分析・企画し、設計し、その設計を実現するために工事の計画を作り、計画通りに工事を進めていくようにするのがプロジェクトマネジメントです。
このようなプロジェクトにおいてもっとも重要なのは目標です。もちろん、施設の、社会、地域、時代に果たす役割はあるわけで、明確なパーパスはあります。しかし、それが特に工事において意識されることはあまりありません。前提としてパーパスがあり、そのパーパスに応じて、仕様、予算、スケジュールなどの目標が設定されており、プロジェクトマネジメントとしては目標を達成することにすべてが注がれます。
◆VUCAなプロジェクトの性格
このような関係がプロジェクトの目的と目標の関係であり、マネジメントの考え方だったわけです。もちろん、今でも上の挙げたプラント建設のプロジェクトは同じようなやり方をしています。しかし、このようなプロジェクトの捉え方、あるいはプロジェクトマネジメントでは対応できなくなってきたプロジェクトが増えてきています。それが、この連載でVUCAなプロジェクトだと称しているプロジェクトです。
連載でいくつか例に挙げていますが、VUCAな時代のプロジェクトは
・何をすればいいかあいまいである
・すべきことがプロジェクトの途中で変わってしまう
といった性格のものが増えてきます。第10回、第11回でアジャイルプロジェクトマネジメントやOODAプロジェクトマネジメントの紹介をしましたが、このようなプロジェクトマネジメントは、まさにこのような性格のプロジェクトに対して考案され、実践されているものです。
◆モノを作るプロジェクトと、モノの影響を生み出すプロジェクト
このようなプロジェクトマネジメントを実践していく際にうまく行っていないケースの多くは、目的を意識していないからです。これらのプロジェクトでは目標を柔軟に修正していくことによってプロジェクトをマネジメントしていきます。ここで問題になるのは、モノを作るプロジェクトと、モノによる影響を生み出すプロジェクトでは目的の位置づけが違うということです。
例えば、「市場が要求している商品を作る」というプロジェクトを考えてみてください。市場の声を集めながら試行錯誤してプロジェクトの成果物を作ることになりますが、市場の要求に合致する成果物を作ること自体が成果になります。言い換えれば、それがプロジェクトの目的になります。これは、プロジェクトマネジメントとしてみれば、プラント建設のプロジェクトにおいて、ゴールが不明確だったり、制約が変化しているにすぎません。ある意味でプロジェクトマネジメントが想定しているプロジェクトはそういうものだとも言えます。
ところが、「シェアを高める商品を作る」というプロジェクトではそうはなりません。何らかの活動をしてプロジェクトの成果物として商品を作る必要があるわけですが、これは一つの目標であり、目的ではありません。目的はその成果物を市場投入し、シェアを向上させることです。そのような活動は商品を作るプロジェクトと多く販売するというプロジェクトからなるプログラムだと思う人もいると思いますが、気になるようならプロジェクトをプログラムと置き換えて読んでもらっても結構です。
いずれにしてもこのプロジェクトを成功させるには、作る商品や展開する販売方法などを目標にして目標通りにプロジェクトをマネジメントしていったのではできません。常に、目標を追いかけながらも、常に目的に立ち返り、目標を修正していく必要があります。
実はアジャイルプロジェクトマネジメントやOODAプロジェクトマネジメントを適用しているプロジェクトでもこのようなプロジェクトは少なくありません。例えば、「市場が要求している商品を作る」プロジェクトにしても、プロジェクトの実施期間中に市場の要求が変わる可能性が高いのが、VUCA時代です。これに対応するには、プロジェクトの最初に調査・分析して決めた商品を作るプロジェクトではだめで、市場の要求に即するという目的に常に立ち返り、それによってプロジェクト目標を変更していくしかないのです。
◆プロジェクトマネジャーはパーパスのマネジメントをする
ずっと述べてきていますように、パーパスというのはプロジェクト目的より広い範囲、つまり、プロジェクトスポンサー以下の関係者だけではなく、プロジェクトスポンサーや経営層、あるいはもっと広い範囲で共有されているプロジェクトの実施目的ですので、ここまでの目標と目的の議論はそのまま当てはまります。従って、プロジェクトマネジャーはパーパスに対するきちんとしたマネジメントを行うということが不可欠になります。
パーパスを適切にマネジメントするためには、プロジェクトマネジャーはパーパスに対して適切に向き合う必要があります。しかし、多くのプロジェクトマネジャーは、プラント型のプロジェクトマネジメントを想定しているため、プロジェクトマネジメントがすべきことはプロジェクトの立ち上げの際にプロジェクト目的を踏まえて決めた目標を達成することであると考えています。
さらにいえば、目的はプロジェクトにとってはあまり意味のないもので、経営層はともかく、プロジェクトにとっては目標を達成することがプロジェクトの目的だと考えている人も少なくないのが現状です。VUCAプロジェクトにプラント型のプロジェクトの構図を持ち込もうとしていることに他なりません。
このような状況ではVUCAプロジェクトは成功させるマネジメントができないわけですが、成功させるにはプロジェクトマネジャーがパーパスに対してきちんと向き合う必要があります。パーパスにすべてのプロジェクト関係者の意図や期待、要求が含まれていると考えて向き合うべきです。
◆パーパスと向き合う基本
では、どういう風にパーパスに向き合えばよいかという話になりますが、
・ステークホルダーがプロジェクトで実現したいことととパーパスの関係を考え、実現する
に尽きると思われます。
もちろん、表面的にプロジェクトで実現したいことを訊けば、経営層は収益を上げることでしょうし、営業は成果物が売れることです。また、商品の製造部門やサービス提供部門は成果物のクオリティが高いことかもしれません。さらに、顧客は役に立つ(あるいは意味のある)商品が提供されることです。
このような状況の中で、すべてのステークホルダーが満足するプロジェクトパーパスを見つけていくことがプロジェクトマネジャーの役割です。言い換えれば、表面的に実現したいと思っていることの本質的な意味合いは何かということで、その本質をどのようにプロジェクトで充足していくかを考えることです。
◆成果物と成果
以上の議論をプロジェクトマネジメントの具体的な問題として捉えると、成果と成果物の関係付けの議論に他なりません。プロジェクトでは成果物を追求しますが、これとは別にベネフィットという概念があります。例えば、PMI(R)はPMBOK(R)やプログラムマネジメント標準の中にベネフィットを取り入れていますが、これは
「スポンサー組織のほか、プロジェクト受益対象者に価値を提供する行動、行為、プロダクト、サービス、所産の成果」
と定義されます。つまり、成果なのです。詳しくは、
【PMスタイル考】第158話:プロジェクトの成果と成果物
をお読みください。
これはパーパスとプロジェクト成果物の関係に反映されます。つまり、プロジェクトという活動は成果物を生み出すことによって、パーパスを実現する活動にしていくことがプロジェクトマネジメントであり、プロジェクトマネジャーは常にパーパスを実現することを考えて、プロジェクトの成果物を定義し、成果物を生み出す計画をしていかなくてはなりません。
これがプロジェクトマネジャーに求められるパーパスとの向き合い方なのです。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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