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プロジェクト環境が変動的、プロジェクト環境が不確実、プロジェクト構造が複雑、プロジェクト成果物が曖昧であるVUCAなプロジェクトでは、パーパスを起点にマネジメントする

第9回 パーパスを起点にVUCA時代のプロジェクトのマネジメント(2020.03.18)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆VUCA時代のプロジェクトの性質
これまで、パーパスでプロジェクトを動かす方法を説明してきましたが、ここで改めてVUCA時代のプロジェクトのマネジメント方法を整理してみたいと思います。

まず最初に改めてVUCA時代のプロジェクトとはどのようなものか、プロジェクトがVUCAであるというのはどういうことなのかについて考えてみましょう。VUCAなプロジェクトは表現としては以下のようなものになります。

(1)プロジェクト環境が変動的である
(2)プロジェクト環境が不確実である
(3)プロジェクト構造が複雑である
(4)プロジェクト成果物が曖昧である

これでも大体イメージはできると思いますが、変動性、不確実性、複雑性、曖昧性という言葉の意味をはっきりさせるためにもう少し深堀してみたいと思います。

その前に、これらの要素の前提になるプロジェクトの成功と失敗の意味合いを明確にしておきます。


◆プロジェクトの成功と失敗とは何か

プロジェクトの成功と失敗とは何かについてはいろいろな考えがあります。

プロジェクトマネジメントでは、計画通りにプロジェクト成果物を生み出せば成功、差異が出てくれば失敗と考えるのが普通ですが、実はここには成果が入っていません。そこには、

目標を達成して成果物をつくるとプロジェクトに最大の成果が生み出されるように成果物が定義されている

という前提があるわけです。しかし、VUCAなプロジェクトではこの前提が成り立たないという現実はあります。目標は環境が変われば変わる可能性があるからです。ここをしっかりと理解しておくことが必要です。

計画は目標を達成するために策定しますが、その背景にはプロジェクトのパーパスがあり、さらにその背景には組織と個人のパーパスがあります。目標は定量的なものが中心で、達成できたかできないかを明確に評価できますが、パーパスは定性的なものですので、実現できたかどうかは非常に評価が難しくなります。さらに、そのようなプロジェクトパーパスがどのくらい組織や個人のパーパスに貢献しているかはさらに難しい問題です。

一般的に目標は目的を実現するために決めるものですが、経営的な観点からはまず組織や個人のパーパスがあり、さらにプロジェクトには予算と納期という制約がありますので、100%実現できるような目標を設定できることは難しいのが現実です。

そこで、制約とプロジェクトパーパスの実現度のバランスを考えて目標を決め、ステークホルダーの合意を取って進めていくことになります。PMBOK(R)でも新たな知識エリアになりましたが、ステークホルダーマネジメントが重視されるようになってきているのは、目的(パーパス)の実現できるレベルが小さいような目標設定しかできないプロジェクト、いわゆる難しいプロジェクトが増えてきていることの現れでもあります。

このように考えると、プロジェクトパーパスを当初に予定した実現度に対してどのくらい実現できたかという評価が必要になります。これがプロジェクト成果ということになります。このあたりの話は、PMスタイル考の第158話「プロジェクトの成果と成果物」を読んでみてください。

【PMスタイル考】第158話:プロジェクトの成果と成果物

プロジェクトが成功したというのは、パーパスに対して、当初予定した実現度以上の実現度を達成することで、予定以下であれば失敗だと言えます。VUCAなプロジェクトでは、目的実現度100%のプロジェクト目標を設定できることはまずないと思いますので、この関係をよく理解しておく必要があります。

以上を前提にして、VUCAのそれぞれの要素を深堀りしてみましょう。

VUCAなプロジェクト

◆プロジェクトの変動性、不確実性、複雑性、曖昧性
まず、「プロジェクトが変動的である」とは、プロジェクトの前提が変化し、不安定であることです。例えば、ある技術を使うことを前提としてプロジェクトを実施しているところに、新しい技術の登場というのはVUCA時代の変動性の代表的な例です。

次に「プロジェクトの不確実性が高い」とは、プロジェクトリーダーのコントロールし得ない問題事象の生起の仕方にさまざまな可能性があり、いずれの事象が確実に起こるか判明しないような状況です。例えば、プロジェクトリスクは計画との差異の発生ですが、計画に関係なく、プロジェクト実施企業の倒産のようにプロジェクトを失敗させるような要因だと考えることができます。

次に「プロジェクトが複雑である」とは、複数のプロジェクト要素が絡み合って、総合的に状況を見れないような状況です。たとえば、複数の要求の絡み合い、複数のリスクの絡み合いなどを上げることができます。大規模なプロジェクトにおいては、成果物や目標が絡み合って、総合的な状況が見えなくなることも珍しくありません。

最後に「プロジェクトが曖昧である」とは、プロジェクトの成果物や作業方法など、プロジェクトを実施するために決めなくてはならない事象が決まっていない状況です。プロジェクトは最初にすべてを決めて計画を作って進めるわけではなく、最初の段階では細かなことは決まっておらず、徐々に決めながら進めていくという前提になっています。これがプロジェクトの性質の一つになっている段階的詳細化です。

以上のように考えてみますと、VUCAなプロジェクトはそんなに珍しいものではありません。むしろ、プロジェクトの定義からすると、プロジェクトらしい活動はVUCAであると考える方が自然なのかもしれません。

では、VUCAなプロジェクトを如何にマネジメントするのか、ポイントを整理してみましょう。


◆VUCAなプロジェクトのマネジメント〜変動性への対応
まず、変動性に対応するには、前提に注目することが不可欠です。パーパスから目標を設定する際に背景にある前提を常に確認しながらプロジェクトを進めていく必要があります。ここで重要なことは、前提は何から決まるかということです。言い換えれば前提はなぜ変わっていくのかということです。

これはプロジェクトの環境やステークホルダーの考え方の変化なのがあるからですが、もっと重要なことは、そのような変化の中で、プロジェクトのパーパスを実現するには前提を変える必要があることです。

例えば、顧客対応の製品を開発するプロジェクトで、顧客と良好な関係を作ることがプロジェクトのパーパスだったとします。これを決めたときには競合に対して有利な状況にあるということで、プロジェクトの成果物や納期や予算や収益率を決めました。しかし、プロジェクトを進めているうちに競合が強烈にアピールし、顧客とのよい関係を作りそうになってきました。

そこで、パーパスを実現するために、収益率を下げ、これまでに顧客にあきらめてもらっていたスペックも取り入れた成果物をプロダクトスコープとし、また、納期を前倒しにしました。こういうマネジメントが必要になります。


◆VUCAなプロジェクトのマネジメント〜不確実性/複雑性/曖昧性への対応
二つ目は、不確実性ですが、これはリスクの洗い出しの徹底と、できるだけ前倒しにリスク対応を心がけることにより、目標に対するリスクがパーパス実現に対するリスクに影響を及ぼさないようにしていきます。

このためには、リスク対応策を概念的なレベルで考えて、具体化し、うまく行かなければすぐに概念に戻り、別の策を打つようなリスクマネジメントをすることが必要です。

三番目の複雑性に関しては、大局的な視点から、リスクの相関関係や対応のバランス、要求の相関関係やバランスなどを見極め、より本質的なものを重視して対応していくといったマネジメントが必要になります。

そして最後の曖昧性については、できるだけ細かな単位の段階的詳細化の計画を策定し、プロジェクトの変動に対応していくことが効果的です。

VUCAなプロジェクトに対しては、以上のような方針で対処すればよいでしょう。


◆VUCA時代におけるプロジェクトに対する認識
しかし、ここに一つ問題があります。日本のプロジェクトマネジメントは、IT業界から普及していきましたが、多くの企業では品質管理の強化という位置づけで導入されました。これは、工場パラダイムです。つまり、

「目標どおりに成果物をつくれるのがよいプロジェクトであり、目標との違いが生まれるのは悪いプロジェクトである」

というものです。これ自体が悪いわけではありませんが、目標達成が不可欠になり、徐々に達成できる目標を設定するようになってきました。これによって、プロジェクトの目的は目標設定にあまり影響を及ぼさないようになりました。端的にいえば、飾り物になっていきました。

しかし、上で述べましたように、VUCAの時代のプロジェクトマネジメントではプロジェクトの成果物や目標が変わってしまうことが前提になります。その場合、パーパスまで戻って、目標設定や成果物の設定をしなくてはパーパスの実現度が下がります。

このためには、プロジェクトにどのような成果を求めるかを明確にし、それに基づいて目標を設定し、成果物を決める。そして、前提が変動したり、要求やリスクが輻輳する中で、リスクをマネジメントしながら、段階的詳細化を進めていくというマネジメントが不可欠になります。これがVUCAなプロジェクトへの対応になっています。

プロジェクトの状況を共有◆VUCA時代のプロジェクトマネジメントに必要なスタンス
このようなマネジメントをしようとすれば、

・未来に起こることが予測できるという考えを捨てる
・共有化された意識と権限委譲による実行をする
・組織的なパーパス適応能力を高める

ということがポイントになります。

まず、すべてを予測して、プロジェクトをコントロールするために計画をしているという意識を改め、計画はプロジェクトの状況を共有し、権限移譲するための道具だと考える必要があります。

と、同時に、そのような計画を中心にして、プロジェクトは自在に作業を変更できる必要があります。

そのための具体的な方法として、アジャイルプロジェクトマネジメントやOODAプロジェクトマネジメントです。次回は、これらの具体的な手法について簡単に解説したいと思います。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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