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プロジェクトはなんのために存在するのか、存在意義は何か、という問いでプロジェクトのパーパスを考える

第5回 プロジェクトのパーパスを定義する(2019.12.24)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆はじめに

今回は、前回説明しましたプロジェクトのパーパスの見つけ方に従って、パーパスを定義する方法を具体化していきたいと思います。また、最後にプロジェクトのパーパスの定義の事例により、プロジェクトのパーパスのイメージを明確にしたいと思います。

今回は、組織のパーパスがあるという前提で話を進めていきますが、パーパスがない企業も多いと思います。その場合、ビジョンやミッションに置き換えて読み進んでください。概ね、話は合うと思います。

あるいはビジョンやミッションも明確に定義されていない場合には、感じている企業文化から、あなたの企業が社会に対してどのような存在意義を想定しているのかを想像してみるとよいでしょう。

なお、組織のパーパスの定義の方法はこの連載の番外編としてどこかでまとめようと思っていますので、少々お待ちください。


◆組織のパーパスと個人のパーパスの関係

パーパスといえば「組織のパーパス」と「個人のパーパス」を頭に思い浮かべる人が多いと思いますが、ここで考えようとしている「プロジェクトのパーパス」はどのような位置づけになるのでしょうか。前回、あまり明確にしていなかったので、まず、この点を明確にしたいと思います。

プロジェクトにおいて、なぜパーパスが必要かは今まで述べてきたとおりですが、ここでは少し違った視点から議論したいと思います。それはプロジェクトのパーパスというのは結局、誰にとってのパーパスなのかという問題です。これはプロジェクトの構成メンバーをどう捉えるかという問題でもあります。

この問題を考えるに当たって参考にしたいのは、個人のパーパスと組織のパーパスの関係です。結論から述べますと、個人のパーパスも組織のパーパスも社会に対するそれぞれの存在意義を定義するものであり、両者は独立に定められるべきものです。

パーパスの議論をすると、個人のパーパスは組織のパーパスに従属すべきだと考える人は少なくありませんが、これはおそらく終身雇用という制度を前提として考えているためでしょう。

終身雇用を前提としなければ、個人は組織に所属することによってどういう存在意義を持ちたいかではなく、社会に対して個人として存在意義を持ち、その存在意義と組織のパーパスの重なり具合を見て共感できるかどうかで働く組織を決めればよいわけです。逆に組織は個人のパーパスを採用基準の一つにすればよいことになります。


◆プロジェクトのパーパスの位置づけ

では、プロジェクトのパーパスと組織のパーパスや、個人のパーパスはどういう関係にすればよいのでしょうか。これを考えるには、プロジェクトのパーパスはどのような役割を果たすのかを考えてみるとよいでしょう。

組織や個人のパーパスは

組織のパーパス:組織(企業全体/部門)行動の根源
個人のパーパス:個人の行動の源泉

であることは比較的わかりやすいですが、プロジェクトのパーパスの場合、プロジェクトチームのパーパスなのか、ステークホルダーを含むプロジェクトのパーパスなのかという議論が出てきます。

これは難しい問題です。プロジェクトにはパーパスが必要ですし、VUCA時代のプロジェクトにおいては不可欠だとも言えますが、上位組織というステークホルダーを含めて考えると組織に従属的だと考えるのが自然です。

この問題は見方を変えれば、プロジェクトがその存在意義を意識するのは、社会なのか、組織なのか、平たくいえば、社会のためにやっているのか、組織のためにやっているのかという問題です。

また、期間をどう考えるかという問題もあります。プロジェクトは有期的で、比較的短期的なものなのでパーパスが組織に従属してもよいのですが、プログラムになってくるとかなり長期にわたり、その場合に意識するのは社会なのか、組織なのかという問題もあります。

さらに、もう一つの大きな問題は、個人のパーパスとプロジェクトのパーパスはどういう関係にすべきかという問題です。一般的にプロジェクトチームを編成する際にはキーマンがいるケースが圧倒的に多いものです。そのようなプロジェクトのパーパスの定義をする際に、キーマンのパーパスをどう配慮するかということは悩みの種になります。

これらの問題が意味するところは、プロジェクトのパーパスをどのように位置付ければプロジェクトの成果を大きくできるかということであり、その判断は組織が行うものです。つまり、組織としてはプロジェクトのパーパスに共感できなければそのプロジェクトを認可しなければよいわけで、プロジェクトのパーパスはプロジェクトチームにとってのパーパスと認識するのが適切だと考えられます。

また、個人に対しては、社会に対するプロジェクトの存在意義に共感できるパーパスを持つ人材で構成する方が、キーマンを中心にしたメンバー構成より大きな成果が期待できます。

このように、組織や個人のパーパスとは独立なパーパスとして、あくまでも組織や個人のパーパスに影響を受けることなく、社会的な存在意義をプロジェクトのパーパスを位置付けることが適切だといえます。


◆チームにとってのパーパスの役割

以上のようにプロジェクトのパーパスの位置づけを考えた場合に、改めてプロジェクトのパーパスの役割は何かを考えてみます。それは、プロジェクトチームのメンバーが自分たちのプロジェクトに意義を見出し、やり抜く力を得て、創造性や生産性を上げることができるようにすることです。

プロジェクトのパーパスがこのように役割を果たすためには、プロジェクトのパーパスをチームや個々のメンバーに植えつけ、共有していく必要があります。この方法については、チームビルディングの一環として次回説明したいと思います。


◆プロジェクトのパーパスの見つけ方

では、どうすればプロジェクトのパーパスを探せばよいのでしょうか?そのために考えていきたい問いは以下の3つです。

(1)プロジェクトはどのような課題を解決し、どのような価値を提供しているか
(2)プロジェクトは社会にどのような影響を与えたいのか
(3)プロジェクトが失敗したら、社会にどのような影響を及ぼすか

これらを考えた上で、

(4)プロジェクトはなんのために存在するのか、存在意義は何か

という問いでプロジェクトのパーパスを考えるとよいでしょう。


◆プロジェクトパーパスの例

次に、具体的な例を通じて、プロジェクトのパーパスのイメージを説明します。

あるメーカで、10年後に女性管理職の割合を40%にするというプログラム(プロジェクト)に取り組むことになりました。このメーカは

「社員の力を社会に還元する」

を組織のパーパスにしていました。

このメーカがパーパスを決めるために行った議論を上に示したフレームワークに従って整理してみると以下のようなものでした。

まず、プロジェクトが解決する課題ですが、これはプロジェクトに先立つ事前検討で分かった課題は、マネジメント方法が属人的で、女性が行うことが難しいという問題があることが分かりました。また、これは女性だけではなく、男性にとっても負担になっていることも分かりました。

そこで、プロジェクト課題を誰もが取り組めるマネジメント方法の構築と定着としました。このプロジェクトが提供できる価値は、新しいマネジメント方法の浸透によって女性管理職を増やすだけではなく、新しい方法でマネジメントを行うことができるマネジャーを増やし、結果として企業を成長させることができると考えました。

次に、社会に与えたい影響ですが、女性が活躍している企業というイメージをつくると同時に、女性のために役立つ商品をどんどん開発していくような企業をつくりたいと考えていました。

その意味で、プロジェクトが失敗したら、やはり女性はマネジメントに適さないという誤った認識をつくってしまうことになるという問題意識を持っていました。また、女性マネジャーの増加なしに女性のためにつくる商品を輩出していくこともできないと考えていました

以上のような検討をもとにプロジェクトはなんのために存在するのか、存在意義は何かを、組織のパーパスを念頭に置きながら考え、

「女性の力を社会に役立てることができるマネジメントの定着」

というプロジェクトのパーパスを定義しました。

如何でしょうか。組織のパーパスをベースにして、プロジェクトのパーパスを定義するイメージはこんな感じになります。

実際にこのパーパスを機能するためには、プロジェクトチームのメンバー一人一人に、個人のパーパスと関係づけながらプロジェクトのパーパスを植え付ける必要があります。これについては次回、説明します。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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