◆パーパスは組織と個人を統合する
前回は、コンセプチュアルプロジェクトマネジメントの概要を説明し、ポイントになる目的や本質目標の設定の考え方を説明しました。その中で、プロジェクトの目的には経営からの視点としてのMUST(必要性)、プロジェクトメンバーの視点としてのWANT(願望)があり、これらを統合する必要があることを述べました。そして、そのためにはプロジェクトのコンセプト、すなわち
・プロジェクトの経営的な成果の本質は何か
を考えることが有効であるとしました。
前回はあまり明確にしていませんが、パーパスドリブンのプロジェクトマネジメントとは、文字通り、パーパスに従ってプロジェクトを進めていくことです。
第2回で述べましたように、パーパスという概念の前提は、会社組織のパーパスがあり、そこで働く個人にもパーパスがあり、それらが統一(一致)していることです。言い換えると、その会社で働く一人一人がなぜその組織にいるのかをきちんと説明できることだと言えます。
その中で、プロジェクトはテンポラリーな活動ですので、そのチームや活動は組織のパーパスや個人のパーパスと統一的なパーパスを持つ必要があります。そして、そのパーパスに基づいて前回説明しましたプロジェクトの目的を設定する必要があります。
そのようなプロジェクトにしていくことによって初めてプロジェクトがメンバー一人一人のコミットメントを引き出し、戦略を実行するという経営の要請に応えることのできます。
では、どうすれば組織と個人のパーパスを統一したプロジェクトのパーパスを決定することができるのでしょうか。これが今回のテーマです。
◆組織のパーパスと個人のパーパス
プロジェクトのパーパスについて議論する前に、企業組織と個人のパーパスの統一について考えておきたいと思います。
まず、個人のパーパスには二面性があることを認識しておく必要があります。個人のパーパスとは、
・個人の組織にとっての存在意義
であり、
・個人にとっての組織の存在意義
でもあります。この2つが満たされて初めて、組織のパーパスと統一性のある個人のパーパスになります。
パーパスは、個人においても組織においても
・価値観
・社会的意義
の2つの要素が中核になります。つまり、個人の価値観と組織の価値観が統一できるか、また、組織が考える自分たちの社会的意義と個人が考えている自分の社会的意義が統一できるかが問題になります。
◆個人が組織のパーパスに共感できるか
第2回でも述べましたように、組織と個人の関係を考えると、個人のパーパスと組織のパーパスを統合できるには、この2つの要素において個人が既にある組織のパーパスに共感できるかどうかにかかっているといってよいでしょう。
個人が所属組織を選ぶ時に、こういう活動をしたいという視点で選ぶことが多いですが、これを具体的に考えすぎるとVUCA時代にはその組織が行う活動はどんどん変わってくるため継続的にその活動をするのは難しくなることが予想されます。そこで、所属組織を選ぶに当たっては、自分自身がどういう活動をしたいかを少し抽象的な考えるとよいでしょう。これがパーパスです。
一つ例を挙げてみましょう。高級電気自動車で知られているテラスでは、
「持続可能なエネルギーへのシフトを世界中で加速させる」
というパーパスを決めています。かなり、抽象度が高いパーパスです。このパーパスは、「エネルギーはクリーンであるべきだ」という価値観と、「限りなく拡張可能な、クリーンエネルギーを発蓄電する製品をも製造する会社となり、世界の化石燃料への依存に終止符を打ち、ゼロエミッション社会への移行を加速することでより良い未来を実現する」という社会貢献を中核としています。
さて、テスラ社に「自動車は電気エネルギーだ」という価値観を持つAさんが、高級電気自動車を開発したいと考えて入社しようとしていました。ここでVUCAの時代に考えなくてはならいのは、高級な電気自動車をつくらなくなる日が来るかもしれないことです。
そこでAさんは高級電気自動車を開発するという目的を少し抽象化し、「エネルギーはクリーンであるべきだ」という価値観と「クリーンエネルギーに関連する開発をする」という社会貢献だと考えることにし、パーパスを「ゼロエミッションな自動車を実現する技術を開発する」と考えることにしました。すると、テスラのパーパスと統一できることに気がつきました。
◆プロジェクトのパーパスの見つけ方
組織と個人のパーパスの間にこのような関係があることを前提に、プロジェクトチームのパーパスは定めます。このためには、組織のパーパスや個人のパーパスとの統一を行う必要があります。簡単にいえば、組織のパーパスや個人のパーパスを実現することができるプロジェクトのパーパスを定めることになります。
この統一のポイントになるのは、パーパスの抽象度です。個人のパーパスより、組織のパーパスは抽象度が高くなりますが、プロジェクトのパーパスを決めるに当たっては、個人のパーパスを抽象化し、組織のパーパスを具体化することになります。
ここで念頭に置いておきたいのは、どこまでいってもパーパスは主観であるということです。こうあるべきだという正解はなく、組織は自分たちのパーパスを組織としての主観で決めます。個人は個人のパーパスを自分で決めます。同じようにプロジェクトのパーパスもチームの主観で決めればいいのです。
このような考え方でパーパスを決めていきますが、組織と個人とプロジェクトの関係を考えてみると、まず、組織があり、個人があります。これを前提としてプロジェクトのパーパスに統合していく必要があります。
そのアプローチとして明確な方法論があるわけではありませんが、方向性としては価値観と社会貢献を統合して
「社会においてプロジェクトに与えられた役割」
を考えてみるといいでしょう。これは、単に組織にとってプロジェクトがどういう役割を果たすべきかということだけではなく、そこに社会を介在させて、その組織が社会的に果たさなくてはならない役割に対して、プロジェクトはどういう役割を果たすべきかを決めることです。言い換えると、組織のパーパスの実現のために、プロジェクトはどういう役割を果たすべきかを考えることです。
同時に、個人の社会貢献にとってプロジェクトはどういう意味があるかについても考える必要があります。この両方の視点からプロジェクトの役割を決めていくと、適切なパーパスに行き着くことができます。
このように考える一つの方法として、価値に注目する方法があります。つまり、
・組織(戦略)に対してどのような価値を提供できるか
・個人にとってどのような価値を提供でき、どのような価値を受け止められるか
を考えてみます。
◆プロジェクトのパーパスの例
もう一度、上の例を考えてみましょう。
2019年の夏にテスラ社のCEOであるイーロン・マスク氏が「ニューラリンク」という会社を立ち上げ、人間の脳に電極を埋め込んで、コンピューターと接続しようと研究をしているというニュースが流れました。
詳細は分かりませんが、もし、これをテスラ社のプロジェクトとして上の例でテスラに入社したAさんがリーダーとしてやるとすれば、どういうパーパスを設定するかを考えてみましょう。
テスラ社のパーパスは
「持続可能なエネルギーへのシフトを世界中で加速させる」
で、Aさんのパーパスは
「ゼロエミッションな自動車を実現する技術を開発する」
です。新しいプロジェクトは組織のパーパスを具体化し、個人のパーパスを抽象化することによって、例えば、
「人間の思考で動く自動車の技術基盤を創る」
というパーパスを設定すればよいと考えられます。
このようにして、組織、個人のパーパスから、組織が投資でき、個人がコミットできるプロジェクトのパーパスを調整していくことになります。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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