◆はじめに
この連載では、第1回でVUCA時代のプロジェクトマネジメントはどうあるべきかについて解説し、その中でポイントになるのはパーパス、つまり存在意義(存在目的)であることを述べました。そして、前回はパーパスは企業のビジョンやミッションを定義するための根幹となる概念として使われ、よいパーパスを定義するには組織から個人までを統一的に捉えることが不可欠だという指摘をしました。
実際の企業活動の中で、組織から個人まで統一的にパーパスを捉えるためには活動単位になるプロジェクトのパーパスが問題になってきます。極論すれば、組織と個人がパーパスを統合する場がプロジェクトだとも言えます。そこで、今回は、いよいよ、連載の本論であるパーパスドリブンなプロジェクトマネジメントとはどのようなものかについて解説していきたいと思います。
◆プロジェクトの目的の位置づけが変わってきた
第1回でも少し触れましたが、プロジェクトは目的を明確にし、進めていくマネジメントをします。ただ、従来のプロジェクトマネジメントは5W2Hでいえば、WHATありきで、目的(WHYはその背景にあるもの)はプロジェクトの前提として取り扱われてきました。このため、プロジェクトを仕切り直しするのは、WHATが変わったときだと考えられています。
しかし、VUCA時代のプロジェクトは、不確実性や曖昧性ゆえに、WHATを不動のものとして確定しプロジェクトを進めていくことが難しくなります。例えば、製品を従来のプロジェクトとして開発する場合には、まず、製品仕様を決めて、それを実現していくためにプロジェクトのスコープを計画するなどのマネジメントしていくのが一般的でした。
しかし、VUCAの中では、求められるものが曖昧で移り変わりも速いため、プロジェクトでは製品の仕様を仮決めし、開発を進めて行く中で仕様を変えていかなくては対応できなくなってきました。スコープも絶対的なものではなく、その仮決めに対するものになるわけです。
このため、プロジェクトの最後の砦は成果物(WHAT)ではなく、なぜそのプロジェクトを行うのか(WHY)、言い換えれば成果そのものに変わってきています。つまり、プロジェクトの仕切り直しはWHATを変えざると得なくなったときではなく、プロジェクトの目的を変えざるを得なくなったときになってきます。このあたりの議論はPMスタイル考の158話で議論していますので、お読みください。
【PMスタイル考】第158話:プロジェクトの成果と成果物
我々はこのようなプロジェクトマネジメントをコンセプチュアルプロジェクトマネジメントと呼んでいます。PMBOK(R)では、これはベネフィットマネジメントとして第6版から明示されるようになりました。PMI(R)の場合、プログラムマネジメントではベネフィットマネジメントというマネジメント領域を設定していますが、いずれはPMBOK(R)でもベネフィットマネジメントは知識エリアになっていくのではないかと予想されます。
◆コンセプチュアルプロジェクトマネジメントの目的の決め方
さて、では目的をプロジェクトマネジメントに使うというのはどういうイメージになるのかということを考えていきたいと思います。
プロジェクトには目的と目標があり、それぞれ以下のように定義されます。まず、目的はそのプロジェクトを実施することによって実現したいものです。5W2HではこれがWHYになります。そして目標は、その目的を実現するために達成しなくてはならないことです。言い換えるとプロジェクトの成功基準です。これがWHATや、そのほかのWやHになります。
例えば、ある製品開発のプロジェクトの目的が「顧客層を若者にも広げる」だったとします。これに対してプロジェクトの目標は、「若者というのは何歳から何歳くらいでどのくらいのシェアを取ればよいのか」、「どのくらいの予算と期間で行うと若者に広げる意味があるのか」、「どのような製品が若者に受け入れられるのか」といったポイントに対して数値目標を設定していきます。
ではプロジェクトの目的というのはどのように設定すればよいのでしょうか。
大きくわけるとMUST、WANT、CANの3つの視点があります。それぞれ、以下のようなものです。
(1)MUST(必要性)
・経営層や上位組織からの要望
・顧客からの要望
(2)WANT(願望)
・マネジャーの思い
・メンバーの思い
(3)CAN(可能性)
・ここまでならできる
・これ以上だとできない
このような視点で考えて設定したプロジェクトの目的を使ってプロジェクトを進めていくわけですが、プロジェクトの成否の決めるのは、プロジェクトが経営的な支援を受け、プロジェクトチームがやる気を持ってプロジェクトに取り組んでいくことのできるような目的になっているかがポイントになります。
これがパーパスと呼ばれる目的、つまり、プロジェクトの成功によって、企業や事業の存在意義を果たすことになるプロジェクトの目的になります。
◆パーパスを決めるためにコンセプトを決める
上で説明しましたように、目的の決め方にはMUSTとWANTがあり、一方でCANがあるわけですが、まず、MUSTとWANTを統合し、そこにCANという視点を加えるとパーパスになると考えてよいでしょう。言い換えると、パーパスと呼べるプロジェクト目的を決めるためには、メンバー個人の目的(加えてチームの目的)を統合していくことが求められます。
統合はプロジェクトのコンセプトを明確にするとスムーズにできます。経営的な目的は戦略への貢献になることで、今、目の前に置かれているプロジェクトテーマにおいてそれをどのような形で実現するかを、プロジェクトとして自分たちが実現したいことの包括的イメージを描いたものがコンセプトです。
プロジェクトコンセプトを考えるためには、
・プロジェクトの経営的な成果の本質は何か
が問題であり、そのためには
・プロジェクトの成功の要因を「一言でいえば」と考えてみる
・プロジェクトを成功するには「誰に、何を、どのようにして提供するか」を考えてみる
といったことを考えてみるとよいでしょう。
このようにして決定したコンセプトに基づいて、経営(戦略)目的とプロジェクトマネジャーやメンバーの個人の目的を統合してパーパスにし、それをプロジェクト目的としてプロジェクトマネジメントをしていくわけです。
◆目的が決まったら、目標を仮決めする
このようなプロジェクト目的に対して、目標を設定して、達成方法を計画に落とし込んでいくわけですが、まず、目標には本質的な目標(本質目標)と本質ではない、プロジェクトをうまく進めていくために設定する目標があることを認識しておく必要があります。
本質目標はその目標が達成できなければ、そのプロジェクトの目的は実現できない目標です。例えば、上の例でいえば、本質目標が「1年後までに15歳から20歳の消費者に売れる製品を販売すること」、本質ではない目標は「そのために使える予算は1億円」、「・・・」といった感じになるわけです。
プロジェクトマネジメントにおいて、本質目標を適切に設定することは大切ですが、本質目標を設定する視点としては以下の3つをよく使います。
(1)目的起点
現状ではなく、上位組織の目的から考えた目標を設定することにより、現状を打破する
(2)将来起点
将来に立ち、最適な目標を考えることにより、現状を打破する
(3)顧客起点
顧客の立場に立ち、抜本的な目標を設定することにより、現状を打破する
の3つです。ただし、コンセプチュアルプロジェクトマネジメントでは、これらの目標はあくまでも仮置きであることはよく認識しておく必要があります。
以上がパーパスでドリブンするコンセプチュアルプロジェクトマネジメントの概要になります。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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