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VUCAでは、ロジックが通用しない。そのような状況で頼りになるのは、自分がどう感じるか(直感)、自分がどう思うか(主観)である

第1回 VUCA時代のプロジェクトとプロジェクトマネジメントの方向性(2019.10.08)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆広まるVUCA

VUCAという概念が浸透してきました。VUCAは

「Volatility」(変動性:変化が激しく不安定)
「Uncertainty」(不確実性:問題や出来事の予測がつかない)
「Complexity」(複雑性:多数の原因や因子が絡み合っていること)
「Ambiguity」(曖昧性:出出来事の因果関係が不明瞭で前例もない)

の頭文字をとった言葉(概念)で、1990年代に米国陸軍で使われ始めた言葉ですが、一言でいえば、

「あらゆるものを取り巻く環境が複雑性を増し、将来の予測が困難な状態」

のことです。米国陸軍で使われるようになったのは、1990年代の冷戦終結後の複雑性が増し、将来の予測が困難な国際情勢を意味する概念としてでした。

21世紀になると軍事だけではなく、社会的に使われる概念になってきました。特に、米国の軍人であったスタンリー・マクリスタル将軍が2014年のASTD基調講演でVUCAについて述べたことが一般化の契機になっているようです。その後、2016年の世界経済フォーラム(ダボス会議)で「VUCAワールド」という言葉が使われたことにより、ビジネスの世界にも一挙に広まってきました。

日本でも2017年くらいから、VUCAについての有識者の発言が目立つようになっています。そして、主にビジネスの世界で、VUCA時代のリーダーシップやマネジメントの在り方が議論されるようになってきました。今年になってからだけでも、VUCAに何らかの形で触れている書籍は5冊では収まりません(関連書籍については、記事の最後にまとめて紹介します)。


◆VUCAへの対処としての直感や主観

概念の広まりの背景には、社会的なVUCA化、ビジネスのVUCA化があり、よく話題になるようになってきた感があります。

今はVUCAな時代であるとか、VUCAな世界でビジネスをしているということを疑う人は少ないと思いますし、身近なところで思い当たることも多いと思いますが、どういう風に対処すればよいかはこれからの議論が待たれるところでしょう。

その中で、いま、注目されているのが、主観や直感の活用です。VUCAで何がもっとも困惑するかというと、ロジックが通用しないことです。ロジカルにものごとを考えて方向性を決めて前に進んでも、少し時間がたてば方向を変えなくてはならないのがVUCAの世界なのです。

そのような状況で頼りになるのは、自分がどう感じるか(直感)、自分がどう思うか(主観)だと考えたくなるわけです。詳細は以下の記事をお読みください。

【PMスタイル考】第148話:直感や主観こそがイノベーションを生み出すl

【PMスタイル考】第149話:プロジェクトマネジメントにおける主観や直観の活かし方

刊行される書籍を見ても、直感や主観、あるいは右脳を使う方法を述べた本が今年だけでも10冊以上、出ています。

余談になりますが、このような流れのもう一つの源流は、この数年、盛んに取り組まれるようになっているデザイン思考です。デザイン思考においても、あまり芳しい成果が得られない理由の一つに、直感や主観の活用の不十分さが指摘されており、やはり、活用に真剣に取り組み始めています。


◆プロジェクトにおけるVUCA問題

話をVUCAに戻します。VUCAの世界では上に述べたようにロジックだけではものごとがうまく行かなくなっているわけですが、実際にVUCAプロジェクトで起こっている問題には、

・計画段階でプロジェクト目標が明確になっていない
・スコープ(成果物)変更が頻繁に起こる
・リスクとして想定していなかった問題が発生する
・一からやり直しのような大きな変化が起こる
・プロジェクトの規模が大きく、サブプロジェクト間の成果の関係が見えない
・組織や顧客のプロジェクトに対する要求や期待がどんどん変わる
・経験者がいない
・使える技術や手法が分からない

・・・

といったものがあります。このうちの3つが該当していれば、VUCAなプロジェクトだと認識した方がよいでしょう。


◆VUCAワールドのプロジェクトマネジメントでは役に立たなくなるもの

もう少し広い目で見ると、これまで頼りにしていたのに、VUCAワールドでは役に立たなくなっているものが3つあると考えています。その3つとは

1.経験自体の価値
2.最適化の意味
3.予測(計画)の価値

の3つです。この問題をプロジェクトマネジメントについて考えてみましょう。

例えば、最近よく聞くのは経験者がいないということですが、これは技術者の問題より、技術を適応する環境が異なり、従来のやり方ではその技術を活用できなくなっているというケースが多いようです。つまり、経験が役に立たなくなっているわけです。

VUCAでは、同じことをやろうとしても、環境が異なるため、そのまま繰り返すことはまずできません。

また、計画がうまくできないという悩みもよく聞くようになってきました。これもある意味で当たり前のことで、VUCAワールドではプロジェクト環境が連続的に変化し続けているわけですから、どこかのタイミングで最適化した計画を作っても意味がありません。むしろ、その計画を守ろうとすることが制約になり、邪魔になりかねません。

こういう状況で考えなくてはならないのは、あるタイミングで最適であることではなく、いかに環境変化に柔軟に対応できるかです。

さらには、スコープ変更が頻繁に起こるようになったという悩みもよく耳にします。特に深刻なのは、リスク管理をしようとしてもうまく行かないということです。平たくいえば、リスクとして想定していないような問題が起こってしまうわけです。

ここで考えなくてはならないのは、リスクとは計画との差異だという基本です。つまり、計画や予測ができなくなると、リスクマネジメントでは対処できません。これがVUCAワールドのプロジェクトなのです。


◆パーパスをマネジメントしてプロジェクトを動かす

実際にプロジェクトマネジメントの悩みを聞いていると、VUCAを背景にして、この3つに帰着するものが半分以上あるように感じます。従って、プロジェクトの不確実性や曖昧さためには、プロジェクトマネジメントにも工夫が必要です。

どのように工夫すればよいかを考えるのが本連載の目的です。

大きな枠組みとしては、コンセプチュアルプロジェクトマネジメント、つまり、大局、直観、主観、抽象、長期などの視座を取り入れたプロジェクトマネジメントをすることですが、特に重要なのは、このような視座で「パーパス(perpose)」のマネジメントをすることです。

パーパスというのはあまり聞かない言葉だと思いますが、英語の意味である目的をもう少し広くした概念です。日本語では、存在意義と呼ばれるものです。

もともとプロジェクトマネジメントには、プロジェクト目的を決めて実現していくという発想がありますが、パーパスはこれをプロジェクトだけではなく、組織から、プロジェクト、プロジェクトに参加するメンバーまですべての存在意義が一環して成り立つようにプロジェクトをデザインしようとするものです。

本連載で解説したいのは、パーパスを中核にしたプロジェクトマネジメントで、いわば、パーパス・ドリブンなプロジェクトとして進めていく方法です。

最後に、この記事で述べてきた内容に関連する本として、VUCAに触れている本、主観に関する本、直感に関する本、パーパスに関する本を紹介しておきます。この連載と一緒に何冊か読んでもらえると、このような世界を理解する助けになると思います。


◆関連書籍の紹介

まず、VUCAに触れている本として、ぜひ、読んでおくとよいものは、以下の2冊です。

山口周「ニュータイプの時代」(ダイヤモンド社)

岩下智「面白い! 」のつくり方(CCCメディアハウス)

次に主観についてですが、最近注目されるようになってきた美意識系の話などは主観を中心にしたものがあります。例えばこの本です。

山口 周「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」」、光文社(2017)

また、センスメイキング系も主観の話です。

クリスチャン・マスビアウ(斎藤栄一郎訳)「センスメイキング」、プレジデント社(2018)

哲学の分野では古くから、結構、多くありますが、お薦めはこの本です。

ドナルド・デイヴィドソン「主観的、間主観的、客観的」、春秋社(2007)

直感の本はビジネス書の分野でも増えてきています。お薦めは以下の5冊です。

内田和成「右脳思考」、東洋経済新報社(2018)

佐宗 邦威「直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN」、ダイヤモンド社(2019)

野中 郁次郎、山口 一郎「直観の経営 「共感の哲学」で読み解く動態経営論」、KADOKAWA(2019)

また、パーパスに関しては、本はあまりありませんが、以下の本があります。

丹羽 真理 「パーパス・マネジメント──社員の幸せを大切にする経営」、クロスメディア・パブリッシング(インプレス(2018)

さらに、ハーバードビジネスレビューなどの雑誌でパーパスの特集をしたものもあります。

「DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー 2019年 3 月号
(PURPOSE(パーパス)会社は何のために存在するのか/あなたはなぜそこで働くのか)」


「ブレーン2019年9月号  “パーパス”が共感を呼ぶ 時代の先を行く企業に学ぶ世界のクリエイティブ」

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   2.プロジェクトへの要求の本質を反映したコンセプトを創る
   3.コンセプトを実現する目的と目標の決定
   4.本質的な目標を優先する計画
   5.プロジェクトマネジメント計画を活用した柔軟なプロジェクト運営
   6.トラブルの本質を見極め、対応する
   7.経験を活かしてプロジェクトを成功させる
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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