◆私のビジネスに顧客はいない?!
プロジェクトのビジョンを掲げることは重要だし、また、それを現場(一人ひとりのメンバー)に浸透していくことも重要であることはいうまでもない。しかし、どのようなビジョンを掲げようと、普遍的な価値観があることも忘れてはならない。それは、顧客志向である。
ある講演でこんな話をしたら、以下のような反応が返ってきた。3
「私は基礎研究をやっているので、顧客を意識することはあまりないし、それでよいのではないかと思う」。
時間がなかったので、著者は一言だけコメントをして講演を終えた。
「研究者にとってもっとも重要な資質の一つは想像力でしょう。みなさんは優秀な研究者だと思うので、研究と同じくらい、この問題に対して想像力を働かしてみてください。」
研究開発マネジメントとして、できるだけビジネス的な発想を遮断して自由に発想させるということを心がけている組織もあるので、少し乱暴なコメントだとは認識しているのだ。しかし、研究者が意識するかどうかは別にして、基礎研究であっても顧客は必ずいる。
◆顧客はバリューチェーンにいる
顧客=商品の購入者、使用者
だと考えるので業務によっては顧客がいないと錯覚してしまうだけだ。もし、本当に顧客がいないような活動であれば、少なくともビジネス活動としてはすべきではない
。
顧客とは、自分が仕事で生み出している価値を利用して、新たな価値を生み出している人、つまり、バリューチェーンの中の人たち全部である。
多少ややこしいのは、顧客が(プロジェクト)スポンサーである場合だ。この場合には、エンドユーザ(最終顧客)を考えるべきである。
たとえば、多くの研究開発活動は、企業として何らかの狙いがあって実施している。その意味で、スポンサーが顧客であるというのは正しい。海のものとも、山のものともつかない研究開発をする際に、エンドユーザをどのように考えるか?たとえば、社会である。多くの画期的な発明は社会への貢献意欲から生まれている。
◆3番目の現場力としての顧客力とは
ということで、現場力の3番目のイネーブラは顧客力である。ただ、きまった顧客がいて、その顧客に対する応対がうまくできるという能力ではない。顧客を探し出す能力だ。たとえば、SIのプロジェクトのように受託型のプロジェクトでもこれが意外と難しい。お客さんはA社ですというのは簡単だが、それは契約相手にすぎない。情報システム部門でもないかもしれない。そこで真の顧客は実はシステムのユーザだとなる。ところが、じゃあ、ユーザの要求はすべて一致しているのか?多くの場合一致していない。じゃあ、誰をお客様と考えればよいのか?という話になる。
まずは、顧客力としてはこれを見つけ出す能力が必要である。また、同時に、仮想的な顧客を設定する能力というのも重要である。
たとえば、トヨタでは下流工程をお客様だと考えるという話が有名だが、もちろん、本当の意味での顧客は車のユーザである。しかし、顧客だと思うことによって、下流工程が仕事をしやすいように作業を流すことによって最終製品の品質が上がる。そして、本当のお客様に高い品質の商品を提供することが可能になる。また、下流工程によい形で作業を流すという意識が、自身の作業の改善の動機になるのだ。
これと比べると、SI企業はまったくこの意識がない。確かに、技術的な視点については設計しやすい仕様にする、開発しやすい仕様にするということを考えるのだが、下流が作業をしやすいというのはそういうことではない。まずは、仕様がぶれないこと、それから、十分に時間が確保され、また、作業に必要な情報がうまく伝わっていることだ。
これでずいぶん現場が変わることを考えると、仮想的な顧客として想定する能力というもの重要な能力である。
このようにまずは真の顧客を見つけ、また、仮想的な顧客を想定する。その上で、真の顧客にも、仮想的な顧客にも同等に上質のサービスを提供すること。これが現場力を生み出す。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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