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第5回 第4の現場力〜仮説力(2008.03.31)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆トラブル時は仮説が勝負

第4の現場力は、仮説力である。現場にはわからないことが多い。現場をうまく動かすためには、自分なりの仮説を作り、その仮説に基づいて、前に進み、仮説が違って入れば潔く仮説を捨て、新しい仮説を作って進んでいくことが重要である。

仮説力がもっとも重視されるのは、トラブルの際でだろう。トラブルに対する教科書的な対処は、まず、原因を突き止め、その原因を除去して再発が起こらないようにすると同時に、実際に発生してしまった問題を解消するために必要な処置をすることである。この際、仮説力が求められるポイントが2つある。

ひとつは、原因に対する仮説である。プロジェクトにおけるトラブル対応は、限られた時間、限られたリソースで行わなくてはならない。したがって、しらみつぶし的に原因を追及していくことが難しい。そこで、何が原因かをある程度仮説として絞り込んで、それが原因であることを検証していく必要がある。

さらには、しばらく様子を見ないと原因が絞り込めないケースも少なくない。このような場合には、どの段階で対処するかを決める必要があるが、そのためにも、ある程度、原因に対する仮説が必要である。

これらの仮説がうまく作れる人はトラブルにうまく対応できている傾向があるし、そもそも、トラブルを未然に防ぐことが多い。

たとえば、こんな例を考えてみよう。スケジュールが遅れている。進捗レポートをみると、作業時間に対する成果が計画通りに出ていない。つまり、生産性が下がっている。ここまでは事実である。

メンバーにいろいろとヒヤリングしてみると、顧客が気まぐれで、仕様が決まらず、打ち合せでもいろいろと言っていることが変わるので、メンバーが嫌気がさして生産性が落ちているのだという。ところが、ここまでくると、メンバーの言い分を受け入れ、メンバーのやる気に原因があると考えるのは一つの仮説である。ひょっとすると、原因はやる気ではなく、言っていることが変わっていること自体かもしれない、もっといえば、メンバーの対人スキルに問題があって、顧客をまとめきれていないのかもしれない。

仮説を立てること自体は、それなりの経験があればできるようになる。たとえば、研修で上のような演習をやれば簡単に仮説を作ってしまえる人は多いだろう。


◆難しいのは仮説立案ではなく、仮説に基づく行動

難しいのはその点ではなく、自分の立てた仮説を信じて行動することである。たとえば、上の例でいえば、顧客が原因でメンバーのやる気がそがれているなら、顧客に変更の理由を都度きちんと説明してくれるように申し入れをする。この行動は勇気が必要である。ここが難しい。

仮説を設定するのは難しいと思っている人が多いが、それはここがネックになっていることが多い。つまり、自身で信頼にたる仮説がなかなかできない。ゆえに、仮説で行動できないのだが、それを仮説を作ることが難しいのだと思いこんでいるのだ。

もう一つのポイントは、対応に対する仮説である。トラブルが発生したときに、こうすれば解決するというソリューションは仮説にすぎない。やってみないとわからないものも少なくない。どの程度、有効な仮説であるかが、ソリューションの有効性である。


◆仮説が正しいかどうかは最後までわからない

たとえば、上の例でいえば、顧客に対して変更理由の説明をすることが解決策になるというのは仮説にすぎない。推定原因や対応の正しさというは最後までただしかったかどうかわからない。この状況で、効果的であると思ったことを実行していくことも勇気が必要だ。たとえば、顧客にそのような申し入れをし、実際にはメンバーの認識不足だとすれば、顧客が離反していくリスクもある。

ここで、ただしくないことは分かるが、ただしいことは結果としてしか検証できないことをよく理解しておく必要がある(当り前のことだが)。うまくいった本当の理由は、ひょっとするとこのプロジェクトマネジャーからの申し入れにより、顧客が変更を抑制しだしたことにあるのかもしれないし、また、顧客とのコミュニケーション機会ができ、それによりメンバーの顧客への理解が進み、結果として顧客とメンバーの間の認識ギャップがなくなったことが理由かもしれない。

つまり、何が真実であるかはどうでもいいのだ。仮説として想定した原因に対して、効果的であるという仮説を立てた対応策を実行し、それが何らかの形で問題を解決したという事実が必要なのだ。よくマネジメントにおける問題解決策はストッキングを引っ張るようなものだということをいう人がいる。少し、ポイントとずれたところを引っ張っても、問題が解決してしまうことはよくある。


◆仮説力のポイントは、マネジメントつぼを押さえること

逆にいえば、仮説力のポイントは、真実に近い仮説を作ることではなく、マネジメントのつぼを押さえていることだといえる。

ここで、もうひとつ、重要なポイントがある。上に述べたような認識をすると、仮説はある意味で間違っていて当たり前という判断である。したがって、仮説は常に間違っているかもしれないという眼で眺めていく必要があるし、また、間違っているという懸念が出てきた際には、潔く捨てて、新しい仮説を作って前に進んでいく潔さが必要である。

この潔さがないとだんだん状況を悪くし、仮説を作って進めていくことそのものに対してトラウマを持つようになる。ただし、組織によっては、仮説に対して責任を問うような組織がある。「君の方針でうまくいくって言ったじゃないか、君の責任で事態を収拾しろよ」というタイプの組織だ。

実際に、著者がコンサルティングをしたプロジェクトで、仮説を修正しながら進めていったにも関わらず、プロジェクトマネジャーが朝令暮改だと言われ、交代になったプロジェクトがある(当然、コンサルもクビになった)。25%の予算オーバーで済むようにいろいろとやっており、プロマネが首になった時点では、30%強まで収拾していた。あとで聞いた話では、結局このプロジェクトはプロマネをクビにした上位管理者の方針で進め、当初予算の300%の予算で終結したそうだ。この件が影響したのかどうかは知らないが、1年くらい経ってこの上位管理者はグループ企業に出向した。それを機に、手打ちの機会があり、いろいろと話をしている中で、その上位管理者は上司として一度決めたことが覆せないことの恐ろしさが身にしみてわかったと言っていた。仮説力とは朝令暮改を恐れない能力だと言ってもよいかもしれない。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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