◆はじめに
前回は現場力の第1のイネーブラ(促進要因)として、改善力があることを述べた。
今回は第2のイネーブラとして、コミュニケーション力について考えてみたい。コミュニケーション力は改善力を発揮するにあたってのイネーブラの役割も果たすものでもある。
◆コミュニケーションと情報は別物
まず、最初にコミュニケーションとは何かということを説明しておきたい。多くの人はコミュニケーションの機能を単なる情報のやりとりだととらえる。これはあまりにも狭すぎる。仮に、情報のやりとりであれば、プロジェクトでこんなにコミュニケーションが大切だとは言われないだろう。また、人によっては情報共有であると捉える。情報のやり取りよりは多少、広い見方だが、これでも全然、足らない。
ここでドラッカーがコミュニケーションの原理を示した際に一つの原理として挙げたことを紹介しておく。それは、
コミュニケーションと情報は別物だ
という原理である。情報のやり取りがコミュニケーションなのではない。情報のやりとりはコミュニケーションのための手段である。では、コミュニケーションとは何かということになる。ドラッカーは相互理解を通じて相手に影響を与えることだと定義した。ちなみにこのように考えると情報のやりとりは、相互理解のための手段だと位置づけることができるだろう。
◆チームを活性化し、メンバーの創意工夫を引き出すコミュニケーション力
さて、コミュニケーションの説明が長くなってしまったが、現場力の第2のイネーブラとして考えるコミュニケーション力というのは、プロジェクトチーム(現場)に対してドラッカーがいうような意味でのコミュニケーションを行い、プロジェクトチームを活性化し、メンバーの創意工夫を引き出す力である。
ここで注意しておきたいことは、プロジェクトマネジャー(リーダー)の現場力と、メンバーの現場力は本質的に異なることだ。前回の改善の議論からも分かるように、現場力のあるプロジェクトは目標達成のために適切な問題解決を行っている。この問題解決が現場力の正体だと言ってもよいだろう。
しかし、問題解決行動そのものはメンバーの仕事であり、プロジェクトマネジャーの仕事はメンバーが自分の頭で問題解決方法を考え、自らの意思で行動するように促していくことである。それゆえに、上に述べたようにメンバーの創意工夫を引き出して、プロジェクトとして問題解決を行うのがプロジェクトマネジャーの現場力に他ならない。
◆コミュニケーションを情報ととらえる人の落とし穴
ところが、コミュニケーションを情報のやりとりだと考える人は、問題解決自体を本人が行う傾向がある。問題解決をプロジェクトマネジャー自らが行うのであれば、問題解決に必要な情報をメンバーから吸い上げて、問題解決の結果として出てきた問題解決策をメンバーに知らせていくのだから、情報のやり取りだけで十分だという発想をするのだ。
現場力を上のようにとらえているのだが、組織によっては(おもに成員の年齢構成などの問題で)プロジェクトマネジャー自身に問題解決を要する現場力を求めるケースがある。その場合にも、同じ議論ができる。コミュニケーションを情報のやり取りという表面的なものではなく、ドラッカーのいうような対人影響行動としてとらえている人は、必要な情報を吸い上げる際にメンバーを情報収集や整理をするように動かすとか、あるいは、決定した解決策をメンバーが実行していくように動かすといった活動をする。これも現場力のイネーブラとしての現場力の一つの形だといえるだろう。
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