◆はじめに
この連載は経営における現場力という視点からプロジェクトやプロジェクトマネジメントはどのような役割を負うべきかを明確にすることにある。
前回はプロジェクトにおけるプロジェクトマネジャーの現場力とは何かということについて述べた。今回からもう少し、具体的に考えてみたい。
◆第1の現場力〜改善力
現場力のイメージはひとそれぞれだと思うが、著者が真っ先に思い浮かべる現場力は「改善力」である。今のプロジェクトマネジメントにもっとも欠けている視点は「改善」ではないかと思う。
これはプロジェクトに対して持っているイメージと関係が深いと思うのだが、どうも、完璧にやるにはどうすればよいかという思いが強く、失敗せずにやるにはどうすればよいかというところからスコープを定義しているケースが多い。
さらには、そのようなスコープを達成するするにあたってリスクはないかと組織みんなで考え、蟻の穴もふさいでいくようなマネジメントがよいとされつつある。
◆ピンチでどういう行動をとるか?
たとえば、こういう状況を考えてみてほしい。新商品開発プロジェクトを立ち上げようとしている。技術的な問題が残っており、設計目標がクリアできる可能性は80%くらいだと思われる。また、現状の技術では設計目標の80%の性能しかでない。80%の性能では当社としては現行製品の上位製品になりうるが、すでに半年前に競合が同等機能の商品を上市している。
この状況で、代表的なアプローチは4つ考えられる。
(1)設計目標を達成する技術開発が完了するまで商品開発に着手しない
(2)設計目標を現行の技術で対応できるものに下方修正する
(3)リスクを取って当初の設計目標に挑戦する
(4)80%の仕様を計画目標とし、やりながら100%に近づけていく
この4つを比較すると、最も成功が期待できるのは(4)である。
しかし、(4)を選ぶことは意外と少ない。(1)〜(3)はおもに組織側の意向を汲む形になることが多い。組織としては、プロジェクトに権限委譲しやすいし、また、管理しやすいからだ。ある程度手を放すことができるので、マネジメントも楽だ。ただし、事業としては、問題を先送りしている以外の何物でもない。
◆現場力のあるプロジェクトマネジャーの行動
ところが、現場力のあるといわれるプロジェクトやプロジェクトマネジャーは(4)を選ぶことが多い。言い換えると(4)を実行できるかどうかが現場力であるといってもよい。重要なことは、(4)は問題を先送りするのではなく、状況に応じて調整しようとしていることである。これが(1)〜(3)の選択との決定的な違いであるといってもよい。
では、(4)は何をしようとしているのか?改善である。ひとつは技術的な改善であり、もう一つはプロジェクトメンバーの実行能力の改善である。この改善が現場力の源泉のひとつになっているのだ。そして、事業としての問題の先送りを防ぎ、戦略の微調整をしながらも、現段階で最大のコミットメントをすることになる。
◆おわりに
以上の議論は、わかりやすいので、問題要因を技術ということで話をしてきたが、この構図は目標スコープに対して、厳しい納期、厳しいコストなどでもまったく同じことが言えることを最後に指摘しておきたい。
つまり、今まで述べてきたことを別の視点から言えば、ストレッチされたゴールに対して、走りながら考えていくというのが現場力であるといっているわけだ。
最後に少し、別の話になるが、上の議論を読んで、たとえば(3)と(4)がどう違うのかと思われた方も少なくないと思う。成果物は同じである可能性も高い。しかし、この商品が家電であろうと、ソフトウエアであろうと、産業機械であろうと開発プロセスが異なる。それは成功確率の違いを意味している。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
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