◆日本では否定が嫌われる?
最近、否定ということにあまりよいイメージがない。
元来、日本人は人格と行為の区別をすることが下手であるとよく言われる。行動を怒られると、自分の人格や人生を否定されたように受け止めてしまうらしい。否定に対する「免疫力」が不足しているのだろう。
最近、この文化を引きずったままで、「否定はだめ」という世界に突入してしまったような気がして仕方ない。もともと、行為と人格が分かれており、自分の行動に対する否定をしっかりと受け止め、改善できることを前提にした世界で生まれたソフトマネジメント手法が分かれていない世界に持ち込まれた感がある。
そのためか、人を否定しないのはいいことだが、それと行動や方法の否定というのもしなくなってしまっている。明らかに改善の余地のあるやり方を、いろいろなやり方がある、いろいろな答えがあるということで、評価せずにお茶を濁してしまうことが多い。
◆否定なくして成長なし
人間はほめれば延びる。しかし、方法論や仕組みは否定を放棄してしまえば、成長はないというあまり前のことをもう一度、思い出すべきだろう。そもそも、行動を否定するので、人を褒めることによってバランスがとれるのだ。
だからといって、むやみやたらに否定すればよいというものではない。否定には順番があるし、また、対象があると考えた方がよい。
◆まずは自身の仕事の否定
まっさきに否定すべきなのは、自分自身の仕事である。自分がやっている仕事に無駄はないのか、やり方に無駄はないのか、付加価値のない仕事はないかといった否定的視点から、常に自分の仕事に対するレビューをしていく必要がある。
◆次はプロジェクトの仕事の否定
次に否定すべきなのは、プロジェクトの仕事である。仮に、プロジェクトで達成されている生産性や品質が計画をクリアしているものだとしても、現状を否定し、より高い生産性や品質を求め、「計画以上」の成果を得ることを常に求めていく必要がある。
◆最後はステークホルダとの協業方法の否定
三番目に否定すべきことは、ステークホルダとの共同で行う仕事である。ここはプロ
ジェクトとしては非常に手をつけにくい。
たとえば、商品開発プロジェクトを考えてみてほしい。マーケティング部門は市場性の観点から、プロジェクト側は実現の観点から共同で検討し、商品の仕様を決めていく。このときに、まずは、マーケティングが売れる商品仕様を決めて、プロジェクトがその実現法を考えるというパターンが多い。しかし、このやり方は非生産なことが少なくない。ひとつ典型的な例をあげるなら、市場の変化が激しく、プロジェクト側で何とか実現のめどがついた頃には、仕様を変えたくなっているというケースだ。
そこで、プロジェクト側としては、この流れを否定してかかる必要がある。そこから、初期段階でのマーケティングとのコラボレーションや市場の変化に対応できるリードタイムが可能になる。
ところが、ここで、「マーケティングにはマーケティングの事情がある。こちらで変化に対応する方法を考えよう」などと肯定的に考えてしまうと、問題の本質を見失い、そのプロジェクトはクリアできたとしても、市場の動きがだんだん早くなると、ついには対応できなくなる(こんな例は枚挙にいとまがない)。
蛇足だが、3番目のステークホルダとのコラボレーションの方法を否定しないというのは単に「箱の中」で仕事をしていたいだけなのだ。しかし、箱から出て、初めて、計画を上回る成果が得られる。
◆現行の仕組みを否定する
さて、ここまでの記事を読んで、「振り返りでやっている」と思われた方も少なくないと思う。ここに一つ、考えていただきたいポイントがある。それは、否定すべきことは起った問題の原因とは必ずしも一致しないということだ。
プロジェクトで発生する問題を、プロジェクト側からみれば、ほとんどコミュニケーションの問題に落ち着く。たとえば、上の商品開発の例でも、
問題:マーケティングからの仕様変更の情報が遅い
原因:コミュニケーションが悪い(コミュニケーションの方法を否定)
解決策:コミュニケーション計画を作って、コミュニケーションをよくする
となるわけだ。ここで否定すべきことは、コミュニケーションではなく、その背景にあるコミュニケーションの発生ニーズである。このケースに限って言えば、コミュニケーションのやり方を否定するのではなく、仕様が変わってしまうというコミュニケーションのニーズを否定すべきなのだ。
こういう風に考えていくと、多くの場合、現行の仕組みを否定することになる。これが、現場力としての否定力である。
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講師:鈴木道代(株式会社プロジェクトマネジメントオフィス,PMP,PMS)
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
本連載は終了していますが、PM養成マガジン購読にて、最新の関連記事を読むことができます。