◆エンパシー
エンパシーという言葉がある。
自他の区別を前提とした上で、意識的・能動的に他者の視点に立ち、他者の立場におかれた自分を想像することに基づいた他者理解
と定義される言葉である。最近、フィンランド教育への注目とともに、注目が集まっている概念である。プロジェクトマネジメントにおいても、プロアクティブなどと並んで、もっとも重要な概念の一つではないかと思う。
これに対して、平田オリザという演出家がたいへん、興味深い指摘をしている。これからは、協調性ではなく、社交性が重要であるという指摘だ。
協調性の重要性というのは、日本の戦後道徳教育の柱の一つになっているといってもよいと思う。これに対して、「社交性」というのは日本では「うわべだけの付き合い」といった一種の胡散臭さを以て見られてきた。協調性は、こころから分かり合える関係を求めるものである。
◆社交性に富むが、協調性に乏しいと評価された著者
僕は高校生のときに、仲が良かった政経・倫社の教師から、「社交性に富むが、協調性に乏しい」と言われたことがある。
今思えば、これを言ったこの高校教師は大したものだと思うが、そのころは、何を言いたいのがよくわからなかった。ただ、僕と同年代の方は分かると思うが、
協調性=プラス、社交性=マイナス
という70年代のことだから、これは結構、厳しい評価だった。
その後、会社という「村社会」に入って、この先生が何を言っていたのか、だんだん、わかってきた。正鵠を得ていると思った。しかし、僕はこれを悪いとは思わなかった。ゆえに変えようとも思わなかった。その先生にお会いする機会があれば、どういう意味でそのように言ったのかずっと聞いてみたいと思っていたが、残念ながら数年前になくなった。
今でも、協調しようと思うのは、家族や本当に親しい知人だけである(これはかなり危険な告白かもしれない:笑)。京都という場所を気にいっている。これもおそらくこの文脈にある。言いすぎかもしれないが、京都という街は社交性だけで成り立っているコミュニティではないかと思う。
たぶん、今でも僕がこの記事に書いていることを会社でいえば、袋叩きにあうという人は少なくないと思う。
◆社交性はわかりあえないことが前提
さて、社交性とは何か?平田氏の定義はこうだ。
分かりあえない人間同士で、どうかして共有できる部分を見つけて、それを広げていくことによってうまくやっていくこと
こう書かれてみると、本来的にはビジネスの基本でもある。
ここで少し、勘違いしないようにしておきたいのは、プライベートと会社を分け、会社活動の範囲でうまくやっていこうという話ではないことだ。もちろん、そういう社交関係を持ちたがる人もいると思うが、別に趣味で共有でき、それで仕事上の関係をうまくやっていこうというのでもまったくかまわないわけだ。事実、そんな関係を持つビジネスマンは多いだろう。
◆プロジェクトマネジメントにおける社交性
プロジェクトマネジメントにおいて、社交性に基づく行動力、社交力は極めて重要である。
40代より上のシニアのプロジェクトマネジャーからよく聴く愚痴の一つは、「最近の若いものは何を考えているのかわからない」という愚痴だ。どの世代でも若い人との関係はそんなものだとか、若い人たちだけでやってもらった方がいい仕事ができるとか、いろいろな正当化の理由をつけて、関係構築の努力をしない人が少なくない。観察していると、協調性が高い人ほどこの傾向が強いし、「分かりあえない状況」でのチームビルディングがヘタである。
メンバーさえそうだし、ましてや、顧客、経営陣、ベンダーなどと分かりあえるとは思えない人が多く関係してくるのが、プロジェクトである。にも関わらず、「気心知れているこの人がメンバーにほしい」とか、ベンダーを相性でえり好みするようでは、プロジェクトマネジャー失格である。プロジェクトマネジャーであれば、社交力を持って、チームやプロジェクト体制を作り上げていかなくてはならない。
心から分かり合えるという100か、まったく理解できない0のどっちかでは話にならない。社交力で、まったく理解できないとしても、0を50や60にする。これがチームビルディングであり、ステークホルダマネジメントである。
◆シンパシーからエンパシーへ
実は冒頭に述べたエンパシーの対義語はみなさん、よく知っているシンパシーである。今まではシンパシーを重視していたかもしれないが、これからはエンパシーを重視すべきである。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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