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第93話:質的効率を追求するプロジェクトマネジメント(2014/11/10)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆量的効率と質的効率

効率というと一般的には量的な効率をイメージすると思います。高度成長期から、生産量とか、売上などをいかに効率よく大きくするかに注力をしてきたわけですが、この追求の中で、品質の高い製品を大量に少しでも安く提供するという価値観が定着してきました。これが効率化です。

これに対して、国際政治学者の中西輝政先生が「質的効率」という概念を提唱され、これからは質的効率の時代だと指摘されています。中西先生は質的効率を

売れる売れないというまえに、ともかく「他社が作っていない物を」と考えを切り換え、その「違い」や「差別化」を大切にする。それが質的効率です。

と説明されています。ちなみに、中西先生は、従来の効率化を量的効率と区別する意味で量的効率と呼ばれています。


◆サムスンとアップルのアプローチの違い

量的効率を追求しているのがサムスンで、質的効率を追求しているのがアップルであると考えると分かりやすいかもしれません。

サムスンはスマートフォンで大成功しました。サムスンはデザイン的な工夫はそれなりにしているものの、デザインや操作性で差別化しようとはせず、ほどほどの製品を、卓越した開発力を背景に、国ごとに適した価格や機能を最適化するように製品をカスタマイズしつつも、安定した品質で提供してシェアを獲得してきました。

これはグローバルに量的効率を追求する戦略の一つの例だといえます。

これに対して、アップルはMacBook Airで「ユニボディ」と呼ばれる技術で、本体のパーツをひとつのパーツで構成し、継ぎ目を設けない構成で、アルミ削り出しで実現しています。またスマートフォンでも筐体を電波障害の可能性のあるアルミ合金で覆い、独特の質感を出しています。

結果として、一見、同じようなデザイン、同じような操作性でも、他のPCやスマートフォンとは一線を画した製品に仕上がっており、このこだわりが圧倒な質感やクオリティを創り出し、他社を差別化しました。

これが質的効率を追求する戦略です。

結果として、サムスンはスマートフォン市場が頭打ちになったところで失速気味ですが、アップルは新しい需要を開発しています。これが量的効率と質的効率を追求することの違いだと思われます。


◆変わるプロジェクトマネジメント

さて、量的効率から質的効率へという話はプロジェクトマネジメントの在り方に符合するというのが今回の話の趣旨です。

プロジェクトマネジメントは「遂行上の成功」を目指して取り組まれてきました。つまり、目標として与えられた納期、コスト、品質を達成して成果物を生み出すことを目的に行われてきました。

この目的でのプロジェクトマネジメントの導入は一段落し、代わって、「インパクトにおける成功」に焦点が移りつつあります。インパクトとは、プロジェクトの成果です。


◆プロジェクトの成果と成果物

プロジェクトでは大抵の場合、成果物があり、成果物によって生み出されることが期待される成果があります。そして成果物と成果の関係は手段と目的の関係になります。

製品開発プロジェクトを例にとれば、決められた仕様の製品を求められるQCDで開発し、それがプロジェクトの成果物になります。

しかし、事業としてみれば、目的は製品を開発することではなく、その製品を市場に投入することによって売り上げや利益を上げることであったり、シェアをとることであったりします。あるいは、ブランド認知をされることが目的の製品というのもありますし、求める成果は多様です。

一般的にいえば、プロジェクトの成果物を手段として求める成果は戦略貢献ということになります。つまり、戦略実行に貢献することがプロジェクトの成果ということです。

これを効率という観点から考えると、遂行上の成功は量的効率を求めることによって実現されます。そして、インパクトにおける成功は質的効率を求めることによって実現されるのです。


◆質的効率を高めるプロジェクトマネジメントはデザイン思考で

では、プロジェクトにおける質的効率はどのようにして高まっていくのでしょうか?ここで欠かすことができないのは、広い意味での「デザイン思考」です。

アップルの製品では、ジョブズがデザインにこだわり、会社全体をそれにフォーカスした活動にしました。質的効率を高めるためには、いろいろなもののデザインが必要です。プロジェクトの場合には、

・プロジェクトのビジョン
・プロジェクトを行う目的や目標
・成果と成果物
・プロジェクトのアーキテクチャー(組み合せ)
・チーム

といったもののデザインが必要になります。


◆関節的な要素も不可欠

さらにいえば、プロジェクトに関節的な影響を与える要素、たとえば、

・新しいことを重視する価値観
・差別化を重視する組織文化
・卓越したマネジメント
・バランスのよい財務体質

といったものは不可欠だと言えるでしょう。つまり、マネジメントの領域の話も重要になってきます。


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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