◆業務遂行・価値創造・人材育成
プロジェクト・イニチアチブということでプロジェクト活動を活用し、高業績の組織を創っていくことを提唱しているが、プロジェクト・イニシアチブには大きく分けると3つの役割がある。
一つは業務遂行であり、二つ目は価値創造である。そして、3つ目は人材育成である。プロジェクト・イニシアチブはこの三つの役割がバランスよく実現できたときに、経営の強力なツールとなり得る。
今回のPMスタイル考はこのような視点から、プロジェクト・イニシアチブについて考えてみたい。
◆カスタマイズ
プロジェクトは本来、オペレーションである。オペレーションには定型的なオペレーションと非定型のオペレーションの2種類がある。一般的にいえば、業務には定型的なオペレーション、つまり、繰り返し行う業務の方が多い。したがって、そのようなオペレーションに適した組織を作り、組織的に業務を行うことが基本になっている。
その中で、従来とは異なるオペレーションで業務を行わなくてはならない場合がある。たとえば、ITサービスのように、顧客要求に応じて製品やサービスにカスタマイズが必要な場合である。カスタマイズの内容によってオペレーションが変わってくる。つまり非定型なオペレーションになる。
この場合には、定型的なオペレーションのために作られた組織では対応するのが難しいので、その業務に適したプロジェクトを組成し、非定型的なオペレーションに対応していく。プロジェクトは業務が終われば解散する。
カスタマイズを戦略とする事業や製品・サービスは今後増えていくと思われるのでこのような業務遂行のニーズは確実に増えてくる。
◆戦略実行
2つ目は戦略実行の役割である。戦略の基本は競争であり、競争するためには新しい価値を持つ製品やサービスが必要になる。言い換えると、価値創出が必要になる。プロジェクト・イニシアチブは戦略が機能するために必要とする価値を創出する役割(インパクト)が期待される。
特に近年では、戦略とは新しい価値を創出することと同義語になってきており、この役割の比率はどんどん大きくなってきている。
◆人材育成は誰が行うのか
ここまではおおよそ認識されていることだと思うが、問題は三番目の人材育成の役割である。プロジェクトという活動は、上に述べたように機能組織では処理できない業務に対応するために行われるという位置づけであるため、スキルのある人を集めて行う活動という位置づけで行われてきた。言い換えると、プロジェクトは人材を使う場所であり、育成する場所ではないという考えが支配的である。
しかし上に述べたようにプロジェクトの位置づけが変わってきており、特にITサービスのようにカスタマイズサービスを中心に行うビジネスでは、サービスベンダーにおいてはほとんどの業務をプロジェクトで行うため、成員は次から次へとプロジェクトに参加し、組織としての育成の機会がないケースが多くなってきている。
また、戦略実行のプロジェクトのように、そもそも、そのプロジェクトで必要とするスキルが新しいものであり、既存のスキルでは対応できないケースが増えている。
このような状況を考えると、プロジェクト・イニシアチブとしてある程度の人材育成を行う必要がある。
◆3つの役割の関連性
ここまで説明してきたように、この3つの役割には明確な関連性がある。エクセレントなプロジェクトにするには関連性を考えながら、3つのバランスを取る必要がある。
まず業務遂行としては、業務成果物の品質がもっとも重要であることはいうまでもない。システム開発のプロジェクトであればシステムの品質、製品開発のプロジェクトであれば製品機能と原価である。ここが原点である。
その上で、成果物によってもたらされるインパクトが価値創造のポイントになる。ここで注意しなくてはならないのは、成果物の品質は価値創造の必要条件になるが十分条件になるわけではないことだ。たとえば、いくら斬新な機能を持ち、高品質・低価格な製品を開発しても売れなくてはインパクトはない。
したがって、プロジェクト・イニシアチブとしては、成果物をいかにインパクトにするかをしっかりと計画し、進めていく必要がある。
さて、ここに人材育成をどのように絡めていくかである。一つの考え方は、プロジェクトに必要なスキルを身に着け、粛々とプロジェクト業務を行うことにより、結果としてスキルを身につけるという考え方がある。いわゆるOJTであり、プロジェクトとしてはもっとも現実的な方法である。
ただし、組織でOJTを行うことに比べると、計画的な育成が難しいという難点がある。オペレーションが明確に決まっているわけではないので、下手をすると「経験しただけ」に終わってしまう可能性があり、長期的にみたときに便利使いになり、育たないという問題がある。
◆振返りの重要性
何らかの経験を育成に結び付けていくための触媒が必要であるが、それが振返りである。特に、リフレクションが重要である。OJT自体は計画的ではないにしろ、リフレクションは計画的に行うことにより、個々のメンバーがそのプロジェクトでの体験から、できるだけ多くのスキルや気づきを得られるように働きかけていく必要がある。
その中で特に重要な軸が成果物品質に対する貢献意識と、インパクトに対する貢献意識である。この2つを持たせ、スキルの自発的な獲得を動機づけすることにより、業務遂行と価値創造と人材育成の好循環を作っていく。これによって、組織に高い業績を与えるプロジェクト・イニチアチブが可能になる。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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