◆4人に3人は感じた教訓を活かさない
プロジェクトで仕事をしている企業では、プロジェクトから得られるナレッジの質を
いかに高め、いかに活用するかが生命線だと言えます。
欧州のPMコミュニティであるIPMA Conference 2000の発表論文「Managing Projects Management Knowledge」の中に以下のような調査があります。
・プロジェクトから教訓を感じる 75%
・プロジェクトの教訓を覚えている 62%
・教訓を誰かに伝える 55%
・教訓を別のプロジェクトに適用する 25%
これから分かるように、プロジェクトマネジャーの4人に3人はプロジェクトで何かの教訓を感じているのに、教訓を別のプロジェクトに適用する人は4人に1人にすぎません。つまり、半分のプロジェクトマネジャーは何か教訓を感じても、何もしていないということになります。
これはナレッジギャップの問題と呼ばれますが、なぜ、こんなことが起こるのでしょうか?いろいろな原因があると思われますが、根本的な問題として
ある状況の経験を別の状況でうまく活用できない
という問題があるように思えます。一つのプロジェクトの中でも言えますし、複数のプロジェクト間でも言えることです。一言でいえば、振返りが有効に機能していないいうことです。
◆振返りで何を振返るか
では、どのようにすれば、振返りを有効にすることができるのでしょうか?
まず、何を振り返る必要があるかを整理してみましょう。
プロジェクトのフェーズを企画、計画、実行の3つの分けるとそれぞれにおける決定事項は
(1)企画
・目的
・プロジェクト推進方針
(2)計画
・目標
・ベースライン計画
・マネジメント計画
(3)実行
・スペック
・作業計画
・チームマネジメント
などになります。振返りは基本的にこれらの決定事項や実施事項が適切に実施されているかどうかをチェックし、できていない場合にはその対策を考え、実施するものです。つまり、振返り内容は
(1)企画で決めたことに対する振返り
・目的の実現
・プロジェクト推進方針の遵守
(2)計画で決めたことに対する振返り
・目標達成
・ベースライン計画の達成
・マネジメント計画の有効性
(3)実行で決めたことに対する振返り
・品質と生産性
・作業の段取りと結果
・チームワーク
・プロジェクトマネジメントの結果
といったことになるわけです。
◆計画の振返りと事象の振返り
振返りは大きく分けると2つに分けることができます。
一つは広い意味での計画に基づくものです。たとえば、目的を決めたら目的がどの程度実現できたか、ベースライン計画を決めたらその達成度、品質基準を決めたらその基準の実現度などが相当します。計画どおりに進んでいない場合には、実施を是正する、あるいは計画を見直すといった行動をとります。
これに対して、計画ではなく、事象そのものに対する振返りをすることもあります。
たとえば、チームワークの振返りではチームワークがよいかどうかを振返り、問題があれば改善していきます。マネジメント計画の有効性などもこういう性格の振返りです。プロジェクトマネジャーやメンバーが自身の行動を内省するのも事象に対する振返りだと考えてよいでしょう。
また、生産性のように基本的に計画に基づきますが、加えて事象や局面に対する振返りも加味するようなものもあります。
振返りの方法としては、計画に基づく振返りはPDCAが基本です。事象に対する振返りはKPTのようなチームによる話し合いがよく行われます。グループでリフレクションを行う場合もあります。
◆プロジェクトレベルでの振返りの目的
さて、ではこのような整理をベースにして、なぜ、振返りが機能しないのかを考えてみたいと思います。ここで重要なポイントになるのは、プロジェクトを行うということはプロジェクトチームだけの問題ではなく、組織には組織の目的があるということです(これに個人の目的もありますが、この議論はここでは割愛します)。
プロジェクトチームには、上でも述べたように
・プロジェクトの成功
・プロジェクトマネジメントの是正
・プロジェクト進捗の是正
・チームワークの改善
といった目的を持って振返りを行います。このレベルの振返りの大きな目的は計画の振返りでも、事象の振返りでも問題解決です。スケジュールが遅れていれば改善する、コミュニケーションが悪ければ改善するといったことが目的で、具体的な問題に対して解決策を考え、実行する活動ですので、そんなに問題が起こることはありません。
ただ、問題が起こったときの再発防止となるとうまくいかないことがあります。たとえば、特定のチームの作業が遅れており、原因を調べたらスキルが低くボトルネックになっているメンバーがいることが分かりました。そこで上司に交渉してそのメンバーの技術サポートをつけてもらうようにしました。それでその場の遅れは解消しましたが、しばらくするとまた、遅れてきました。
このように問題解決をしたときに問題の本質(真の原因)を捉えられていないと、問題が再発することがあります。ちなみにこのケースの問題の本質はスキルが低い人の作業が遅いことではなく、スキルが低いことによってコミュニケーションがうまくとれず、チーム作業がうまく行っていなかったことでした。
◆組織にとっての振返り
さて、では組織にとって振返りの目的はなんでしょうか?考えられるのは、そのプロジェクトの経験を通じて、
・戦略実行力の強化
・プロジェクトマネジメント力の強化
・ベストプラクティスの確立
・知識や教訓を残す
といったことです。重要なことは、経験そのものが役に立つわけではないことです。
たとえば、上の例を考えてみてください。スキルの低いメンバーがいて、プロジェクトが遅れたときにどうするかは組織にとってはどうでもいいことで、プロジェクトが何とかしてもらわなくてはこまります。そのプロジェクトにおける再発防止もそのプロジェクトの問題です。
組織にとっての問題は上のような目的を果たすことです。そのためには、組織の視点から見たときにどういう問題かを考え、どうすればほかのプロジェクトで再発しないようにするか、どうやってプロジェクトマネジャー全員で共有するかといったことを考える必要があります。たとえば、キャリアの浅いメンバーをプロジェクトへアサインするときの方法を変える必要があるかもしれませんし、組織全体のコミュニケーションのスキルを上げる必要があるかもしれません。
◆振返りの質を上げるにはコンセプチュアルスキルが重要
ここでも問題になるのは、組織にとっての問題の本質は何かということです。ここを見極めることができて初めて振返りを組織として有効なものにできるわけです。
このように振返りの質を高めるには、問題の本質を考えた対処や組織的な取り組みが不可欠で、そのためにはコンセプチュアルなスキルを高める必要があります。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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