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第88話:問題の存在に気づいても解決しないのはなぜか?(2014/08/20)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆問題解決の範囲と時間

プロジェクトなり、現場なりで、問題の存在に気づいてもなかなか解決しないことがよくあります。これはプロジェクトと組織の問題解決の役割分担に原因があります。今回のPMスタイル考は問題解決における組織とプロジェクトの連携について考えてみたいと思います。

組織における問題の取り扱いには2つの視点が必要です。一つは範囲の視点、もう一つは時間の視点です。この2つの視点からこの問題を考えてみたいと思います。


◆範囲からみた役割分担

まず範囲の視点から考えてみましょう。

たとえば、プロジェクトの古くて新しい問題に「納期遅れを防ぐ」という問題テーマがあります。どんなプロジェクトでもこの問題意識は持っていますが、実際には特別なことはしておらず、納期遅れが見えてきたら慌てて何か手を打つも、手遅れということが多いのではないかと思います。

このようなことが起こる理由は、問題が抽象的すぎて、いろいろな問題が含まれていることにあります。

たとえば、「納期が遅れる」という問題を具体化してみると、「メンバーのスキルが低い」という問題もあるかもしれませんし、「プロジェクトに関する決裁が遅い」という問題があるのかもしれません。

さらに、「メンバーのスキルが低い」という問題だったとしても、それは「組織がスキルアップを怠っていた」という問題かもしれませんし、「プロジェクトにおけるメンバーの分担がまずく持っているスキルが活用できていない」のかもしれません。


◆問題だと思うかどうかは人によって違う

これからわかるように、問題解決において問題の抽象度(粒度)を決めることは非常に難しいことです。

ちょっと話が脱線しますが、そもそも問題だと思うかどうかには個人差があります。

日本企業の組織は一様な感覚を持っているのでこの点はぴんとこないかもしれませんが、そもそも、同じ事実を見て問題だと思うかどうかは、主観的な問題です。

問題解決においてはできるだけデータに基づいて問題の特定をしろとよく言われます。しかし、いくらデータに基づいていても、発生したギャップをみてどう感じるかは個人差があります。

たとえば、10%のスケジュール遅れがあるとします。これはデータですし、事実です。しかし、それを遅れていると感じるか、感じないかは個人差があります。プロジェクトマネジャーのメンタリングをやっている中で、こんなことを言ったプロジェクトマネジャーがいます。

メンバーの習熟度は一定でもないし、徐々に同じような感じで習熟していくものでもない。あるところで突然パフォーマンスが上がる。チーム全体で考えても同じで、あとどのくらいかかるなとか、そろそろだなと感じるのはプロジェクトマネジャーの資質の一つ

確かにその通りで、傍からみていれば問題だと思っていても、当事者は問題だと思っていないケースもあるわけです(もちろん、逆もあるので大変なのですが)。

そこで、組織がたとえば、10%以上だったら問題にしようといった基準を設定するわけですが、言ってみれば組織の誰かの主観です。


◆問題にはオーナーシップがある

同じように、その問題が自分の対応できる範囲の問題かどうかにも個人差があります。

同じプロジェクト中でも立場によって違います。そこに上に述べた現状とのギャップが問題と思うかどうかという問題が絡んでくると、どのような問題として立てればよいかは結構、複雑です。

ここで一つ重要なことがあります。問題にはオーナーシップという概念があって、問題と思った人(オーナー)が問題のオーナーシップを持つという原則です。

問題の抽象度が高くなればなるほど、いろいろな問題が含まれてきて、その中にはプロジェクトでは手に負えないものが含まれてきます。したがって、問題はオーナーが解決できると思う抽象度(範囲)であることが原則です。

もちろん、抽象度の高い問題としてエスカレーションするといった姿勢は必要ですが、自分たちで解決する問題はあくまでも解決できる範囲の抽象度のものであることが必要です。

ここでもう一つ注意しなくてはならないのは、抽象度の高い問題を分解せずに、プロジェクトでは手に負えない問題があるからといって組織に丸投げしないことです。あくまでも自分たちでできることをきちんと切り取り、その上で自分の権限や立場では手におえない問題を整理して、エスカレーションするようにします。そうしないと、もう一度、ボールが返ってきて堂々巡りになるのがオチです。


◆時間からみた役割分担

さて、以上が範囲の問題ですが、もう一つの問題が時間の問題です。

時間の問題というのは何かといいますと、「あるべき姿」がどの時点の話かということです。

問題というのは必ずしもトラブルであるとは限りません。最近、「トヨタの問題解決」(中経出版、2014)という本が出て売れているらしいですが、トヨタの例を挙げると問題解決は

・発生した問題(トラブル)の解決
・目標を上げたときに起こる可能性のある問題の解決
・ビジョンの実現のために解決しなくてはならない問題の解決

の3つに分かれています。つまり、あるべき姿を現在、近未来、未来に分けて体系を作っているわけです。


◆PMstyleのアプローチ

PMstyleが提案している問題解決方法もこれに似ています。PMstyleでは問題解決を

・現状維持に必要な問題解決
・現状改善に必要な問題解決
・未来の実現に必要な問題解決

に分けていて、未来の実現はゴールとビジョンに分けています。

現状維持はトラブルの解消です。現状改善は生産性の向上やメンバーのスキルの強化といったものです。未来の実現はビジョンやより高い目標です。

プロジェクト(現場)と組織の関係でいえば、現状維持や現状改善のための問題改善はプロジェクトの責任です。これに対して、未来の実現のための問題解決は組織の責任です。

このように問題はプロジェクトと組織に体系的に整理し、その上で適切なスケジュールで解決していくことが誰かが気づいた問題を解決し、プロジェクトを成功させ、さらにはビジネス(事業)も成功させるには不可欠だと言えます。

(株)OJTソリューションズ「トヨタの問題解決」、KADOKAWA/中経出版(2014)


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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