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第73話:多様性について考える(2013/11/05)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆形だけの多様性は邪魔になる?

今回はイノベーションのニーズの高まりとともに関心の高まっている多様性について考えてみたいと思います。

組織が創造性を持つには多様性が必要だと言われるようになってきました。ところが、一方で、よい仕事をするには決まったメンバーで行うことが望ましいと言う意見も根強くあります。この矛盾は仕事の性格の問題によって引き起こされる場合もあります。
つまり、高い成果品質を求められる仕事では多様性は必要なく、新規性の高い成果を求められる仕事では多様性は重要であるということなのかもしれません。

ただ、一概にそれだけとは言えない部分もあります。それは「多様性」という言葉のイメージの問題です。仕事がら、多様性のあるプロジェクトに関わることがありますが、そこで実現されているのは、いろいろな専門家を集めてくるとか、外国人や女性を入れるといった多様性です。

こういった多様性を山口 周さんは「属性」の多様性と呼んでいますが、日本人は属性の多様性を実現すれば、多様な考えが生まれ、多様な行動に結びつくと考えている節があります。これは第71話で取り上げた問題の一つでしょう。

これが正しくないことは転職した人を見ているとすぐにわかります。転職して1年もすれば、おそらく外部者には分からないくらい組織に同化してしまいます。実に興味深いのは、外国人でもある程度この傾向がみられることです。

このような現実を見ると、属性を多様化してもそれから創造は生まれないことは明らかですし、このような多様性はどのような性格の仕事においても邪魔になるのではないかと思います。


◆形の多様性を活かすには

創造を生み出していくには、属性の多様化を活かすことが必要になります。つまり、折角属性の違う人が集まってきたのだから、考え方の多様化に結び付けていかなくてはなりません。

研修やプロジェクトの支援をやって痛感するのは思考の多様性がないということです。課題の発見も同じなら、課題の解決の方向性も同じなのです。もちろん、優秀な企業や人が多く、その方法は非常に洗練されていますので、非常に効率的なものですが、逆に効率的過ぎて、違った考えを受け入れられないのではないかとすら思えるくらいです。

ここにもう一つ厄介な問題だなあと思うのが、感性というか、ものごとのとらえ方まで同じになっていることです。たとえば、製品の品質の問題がいろいろな製品で起こっているとします。すると、みんなが生産か設計の問題だと思うのです。

以前トヨタが米国でプリウスのブレーキの問題が指摘されたときに、記者会見で品質責任者がユーザーの問題ではないかと発言し、徹底的にパッシングされたことがありました。記者会見の席で発言したことはともかくとして、最終的にはトヨタの主張が認められる結論になりました。みんなが同じ感性を持ち、自分たちの問題だと考えていたら持っていたらこういう帰結はなかったわけです。


◆思考の多様化の壁を取り除く

この問題については、思考の多様化を作っている壁を取り除く必要があり、古くからいろいろなアイデアが考えられています。たとえば、ジェイムズ・アダムスというスタンフォードの名物教授が30年以上前に出版した「Conceptual Blockbusting」という本があります。

この本では、創造的な思考(多様性のある思考)を妨げる障壁として

知覚
感情
文化
環境
知性
表現

の6つがあり、その具体的な例と、乗り越え方につて指南しています。属性の多様性を思考や感性の多様性に結びつけていくにはこのような障壁を壊すことが必要です。

日本では大前研一さんの訳で、

メンタル・ブロックバスター―知覚、感情、文化、環境、知性、表現…、あなたの発想を邪魔する6つの壁

というタイトルで出版されています。ぜひ、読んでみてください。

また、クリティカルシンキングも有効な方法である。


◆言えるか?

思考が変わっても属性の多様性が創造性に結び付くには別の問題があります。それは、実際に考えたことを「言えるか」どうかです。これを意見の多様性と言います。ある意味で、一番難しいのはこの問題かもしれません。

ガリガリ君というアイスキャンディーで有名な赤城乳業という会社がありますが、この会社には見える化ならぬ「言える化」という考え方があるそうです。文字通り、思ったことを言えるようにする組織的な活動です。この活動の成果として、失敗ができる会社になり、どんどん新しい商品や取り組みができるようになったそうです。

自由に意見を言うというのは難しいものです。自分の感性でいろいろ考えても、意見としていうのははばかられるのが普通だと思います。もちろん、上司は自由に意見を言ってくれといいますし、場合によっては経営層とそのような場が設定されることもあります。でも、難しい。その本質的な理由は権力の格差です。権力というのはいろいろな側面があります。権力を持つものの意に沿わないことをいうと倍返しされることもあるかもしれませんし、人事考課にどんな影響が出てくるかもわかりません。


◆権力と自由のバランスのとれた言える化が必要

こういう状況を「権力格差指標」として指標化したオランダの心理学者がいます。ヘーフル・ホスフテードという学者です。「権力格差指標」で見ると、日本はG7の中でフランスについて2番目(54)だそうです。

ちなみに、第71話で書いた米国から持ち込んだマネジメント手法がうまく機能しない一つの理由も日米の権力格差の違いだと思われます。米国は40なのです。

つまり、意見の多様性を実現するには、言える化をすること。つまり、権力の要素になっているものを取り除いていくことが必要です。ただし、権力は組織の統治の根源的な要素ですので、バランスが必要になります。

赤城乳業の例を見てもバランスが優れているように見えます。このバランスが取れている組織が多様性のある組織だと言えるでしょう。

【参考資料】
遠藤功「言える化 ー「ガリガリ君」の赤城乳業が躍進する秘密」、潮出版社(2013)l

山口 周「世界で最もイノベーティブな組織の作り方」、光文社(2013)


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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