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第72話:プロダクトマネジメント考(2013/10/07)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆3つのマーケティングスタイル

意外なことに、PMスタイル考にこれまでプロダクトマネジメントの話題を取り上げたことがありませんでした。今期はプロダクトマネジメントに取り組んでいきますので、また、いろいろな形で話題にできると思いますが、まずはPMスタイル的な視点から。

日本では、比較的古くから、製品開発マネジメントとか、製品開発論という概念があります。僕の技術士としての講義の中にもこの「製品開発マネジメント」というテーマがあります。これとプロダクトマネジメントの違いから話を進めていきたいと思います。

その前に、マーケティングの話をさせてください。マーケティングには時代の流れとともに変わってきた3つのスタイルがあります。

その昔、企業は自分たちの考えで製品を企画し、製品を作り、市場に投入するという活動をしていました。いわゆる、プロダクトアウトと言われる方法です。モノが足らない時代には必要なものは分かっていましたし、品質の良いものを作って市場投入すれば売れました。

しかし、必需品がいきわたるとモノが売れなくなりました。そこで、企業は市場ニーズを綿密に調査して、製品を企画するように変わっていきました。これはマーケットインと呼ばれる方法です。この方法が今でももっとも一般的な方法になっています。

プロダクトアウトの時代は、コストと品質(機能)で勝負していたため、価格競争になると同時に、過剰品質と言われるような問題が起こっていました。マーケットインでは、顧客の声に過剰適応するようなケースが増えてきました。簡単にいえば、顧客が必要だといえばそのような企業をつけてしまうわけです。

家電のように日本製品にはガラパゴスというありがたくない呼び名がついている分野がありますが、原因は企業の機能への拘りと、顧客の声への過剰適応があると思われます。

このような背景もあって、本当の意味でのプロダクトアウトをやろういう企業が出てきました。たとえば、アップルです。アップルは顧客の声を聞いて製品を開発しているわけではありません。

自分たちで考えて作っています。ただ、ただのプロダクトアウトと根本的に違うのは、視点をユーザにおいて、何が必要かを洞察していることです。

プロダクトアウトというのはもともと、何を作れば儲かるのかという視点から徹底的に考えていました。日本が品質の高い製品をどんどん世に出せたのは、この点において不良品を減らせば儲かると思ったからです。そのために、工程内の不良の削減に取り組み、結果として歩留まりが上がり、利益率が向上しました。そして、日本製品は品質がいいということでリピーターが増え、競争力につながっていったわけです。

新しい考え方のプロダクトアウトは、マーケットアウトと呼ばれます。アップルのこの10年の躍進を見ていれば分かるように、音楽鑑賞やコミュニケーションの新しいスタイルを提案し、それをユーザに売込んでいったわけです。つまり、製品を出すだけではなく、市場そのものを作り出しているわけです。


◆プロダクトアウトにおける製品マネジメント

さて、このような遷移の中で、製品マネジメントの役割も変わってきます。プロダクトアウトの時代は、製品マネジメントは

・どのような製品を開発するかを決める
・製品を納期通りに開発する
・開発した製品をいかにたくさん販売するか考える

の3つでした。簡単にいえば、製品アイデアを生み出し、計画通りに開発し、販売促進(マーケティング)をすることだったわけです。


◆マーケットインにおける製品マネジメント

ところが、マーケットインにおいては、役割が大きく変わります。どのような製品を開発するかを決めるところで、市場の声を聞くことが第一の役割になってきました。さまざまな方法で、既存の顧客や顧客の候補とコミュニケーションをし、そこで得られた要望を可能は限り、製品に反映していくという役割が主たるものになりました。

ここでいう可能な限りという意味は3つあります。一つは技術です。要望が実現できる技術がどの程度現実的かどうかで要望の取捨選択が決まります。二つ目は製品原価です。製品原価が許容できる範囲かどうかで要望が取捨選択されます。三つ目が納期です。だいたい、どんな製品でも新製品の発売サイクルが決まっていますので、次の新製品に間に合うかどうかで要望の取捨選択がきまります。

つまり、製品マネジメントは

・顧客の要望をくみ上げる
・製品を納期通りに開発できるように反映する要望を調整する
・開発した製品をいかにたくさん販売するか考える

の3つになったわけです。


◆マーケットアウトにおける製品マネジメント

マーケットアウトになるとさらに大きく役割が変わります。まず、どのような市場を創るかということから考える必要があります。つまり、市場や製品のコンセプトを考えるということです。そして、コンセプトを実現すべく製品を作っていきます。ここは従来とあまり変わりません。そして、できたものを売り込むわけですが、ここでは製品を売るというよりは、コンセプトを売込み、普及させていきます。これまでの製品の売込みは「こんなに高機能、高性能な商品です」とスペックを売り込んでいましたが、コンセプトを売り込むというのは、自分たちのあるべき姿を売り込むということです(もちろん、そのあるべき姿が製品になっているわけです)。

たとえば、iPhoneが初めて登場したときに、電話を再発明したというのは、アップルやジョブズとして電話はこうあるべきだということを売り込んでわけです。そして、それが見事にスマートフォンという「市場」ができ、多くのプレイヤーがそこに参入して市場は拡大し、その中でもっとも有利な立場にいるアップル自身の売り上げもどんどんと大きくなっていったわけです。

つまり、マーケットアウトにおける製品マネジメントは

・コンセプトを創る
・コンセプトを製品として実現していく
・コンセプトを売る

という役割を求められています。もはや、製品は主役ではなくなっているわけです。


◆製品マネジメントからプロダクトマネジメントへ

もう一つ重要なことは、製品からコンセプトに重心が移ったことにより、製品だけではなく、サービスも製品マネジメントの対象になってきたわけです。たとえば、アップルはiPhoneを創るときに、電話機だけではなく、そのアプリケーションを提供する仕組み(ビジネスモデル)も同時に作りました。

上の3つの役割に加えて、コンセプト実現に必要なサービスを開発し、提供していくことも加える必要があります。

製品を作って売るというシンプルな活動であれば製品マネジメントをわざわざ考えなくてもという意見もあるでしょうが、マーケットアウトのような複雑な活動をうまくやろうとすると、活動全体を統合するマネジメントは不可欠です。

むしろ、製品のマネジメントというよりは、ビジネスモデルのマネジメントと言った方が適切かもしれません。

これが今言われているプロダクトマネジメントです。日本に進出し、根を張っている米国企業を見ていると、このようなタイプのプロダクトマネジメントをやっており、それが競争力になっているように見えます。

また、米国では今年、プロダクトマネジメントのBOK(Body Of Knowledge)であるProdBOKが生まれ、底上げが始まりました。ここで後れを取ると、日本の企業の国際競争力がますますなくなると思われます。

The Guide to the Product Management and Marketing Body of Knowledge

なんとかしたいものです。

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  2.5 コンセプチュアルな組織文化の構築
 3.コンセプチュアルなマネジメントの目標
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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「プロジェクト&イノベーション(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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