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第64話:概念化スキルについて考える(2013/02/20)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆概念とコンセプト

概念化スキルという言葉があります。日経BPの谷島宣之さんに言わせると、「概念」と「化」で引いてしまう人が多い言葉だそうです。

概念は日本語では「コンセプト」という言います。ところがコンセプトは少し違った意味で使われています。53話「プロジェクトのコンセプトとデザイン」でも述べましたが、

新製品開発プロセスやプロジェクトにおいて、創出されたアイデアをだれにどのようなベネフィットを与えるものかを明確かつ詳細な言葉に落とし込んだもの

という意味で使います。


◆概念とは何か

本来、概念という言葉は、物事の総括的・概括的な意味のことです。つまり、ある事柄に対して共通事項を包括し、抽象・普遍化してとらえた意味内容で、普通、思考活動の基盤となる基本的な形態として頭の中でとらえたものを言います。

このこと自体、なかなか、概念的で難しいものです。たとえば、犬は足が4本あり、尾っぽがある。そしてワンと鳴くといった共通事項があります。このような共通事項を持つものを犬という概念で示します。

概念を定義することによって何が可能になるのか。たとえば、マロンは雪が降ると外を駆け回るので、ココも同じように行動するだろうと考えることができるわけです。

ものごとを理解するためには、まず分けて、分けられたグループの特性を把握することが必要です。そのための基本になるのが概念です。


◆概念化スキルの必要性

さて、概念化スキルに話を戻します。概念化スキルがなぜ必要かということについて考えてみましょう。

一般論としていえば、ビジネスマンが望まれるスキルに「一を聞いて十を知る」というスキルがあります。もともと論語の言葉で、「物事の一端を聞いただけで全体を理解する」という意味で、非常に賢いことのたとえです。このような理解をするには、いくつかの具体的な出来事(ものごとの一端)から概念(全体)を見つけることが必要で、概念化スキルが必要になります。

同じような話で、同じ失敗を繰り返さないこともビジネスマンに望まれることの一つです。多くの人が考える同じ失敗を繰り返さないというのは文字通りの意味ではありません。「同じような失敗」を繰り返さないことです。このためには、してしまった失敗をある程度、概念化して考え、その範疇に含まれる失敗を繰り返さないことが求められます。ここでも概念化スキルは重要になります。


◆オブジェクト指向と概念

特殊な例を一つ挙げておきましょう。ソフトウエアに関わっている人であれば、概念というのはなじみの深い言葉だと思います。今主流になっているプログラミングパラダイムであるオブジェクト指向では概念を使ったモデリングを行います。これはiPhone/iPadの原型のアイデアである「ダイナブック」の発案者として有名なアラン・ケイが考えたもので、アラン・ケイはオブジェクト指向のアイデアをSmalltalkという言語として実現しました。

オブジェクト指向では、個々の対象をクラスと呼ばれる概念で表現し、概念間の相互作用を示すことによってシステム全体を表現します。

そして、そのモデルに従って、インスタンス(実体)を発行して、実際の動作を作りだします。このように概念の特性を使って、いろいろなケースに対応できるソフトウエアができるわけです。

つまり、概念化ができない人はユーザの要求を適切に開発することができず、結果としてよいソフトウエアを作れないわけです。


◆マネジメントにおける概念化の重要性

さて、ではマネジメントの分野ではどうでしょうか?ハーバード大学の教授であるロバート・カッツがマネジャーに必要なスキルは

・テクニカルスキル(業務遂行スキル)
・ヒューマンスキル(対人関係スキル)
・コンセプチュアルスキル(概念化スキル)

の3つであり、マネジャーとして上位になればなるほど、コンセプチュアルスキルが必要になってくるという指摘をしています。

いわゆる監督者層(係長)では、具体的な指示が必要になりますので業務遂行スキルが求められます。ところが、管理者層(部課長)になってくると、現場の管理はしなくてはなりませんが、管理範囲が広くなりますので自分自身ですることはできません。
そこで、監督者層を使って現場を動かす必要があり、そのためには対人関係スキルが重要になってきます。

そして、経営者層になってくると、上に述べたとおり、逐一具体的な指示をしていたのでは大変ですので、どこの部門にも通用するような概念的な指示(つまり、方針)を示して、管理者層を動かします。つまり、概念化スキルが重要になってくるわけです。

こう説明すると、なんだ、管理者では概念化スキルは要らないじゃないかという話になってくるわけですが、そんなことはありません。経営層の方針を自部門の方針やプロジェクトの方針に展開し、さらに、具体的な指示にするためには概念化スキルは不可欠です。概念化スキルがないと、経営方針をトンチンカンな解釈をして、好ましくない部門運営をしてしまいます。


◆イノベーションと改善

経営といえば、最近の経営者の関心事の一つにイノベーションがあります。この議論はイノベーションとも深く関係してきます。イノベーションが生まれるのは概念に対してです。冒頭に述べましたように、コンセプトというのが特別な意味で使われるのは、コンセプトこそがイノベーションであるという意識があるためだと思われます。

言い換えると、イノベーションを起こそうと思えば、概念レベルで新しいことを考える必要があります。

では、実体(現場)レベルで新しいことを考えても意味がないのか。もちろん、意味はあります。改善ができるわけです。この2つのアプローチが必要になります。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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