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第65話:概念化で体験を経験に変える(2013/03/21)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆注目される「エクスペリエンス」

最近、注目されている言葉に「エクスペリエンス」という言葉があります。たとえば、アップルはジョブズの時代から「エクスペリエンス」という言葉を使っていました。最近では、マイクロソフトが、Windows8とか、Office2013で「エクスペリエンス」という言葉を使っており、これで認知度が高まりました。

辞書を引くと「エクスペリエンス(experience)」とは、体験とあります。アップルやマイクロソフトがいう「エクスペリエンス」はどこでもできる単なる体験ではなくて、「特別な体験」、「これまでになかった体験」といった意味でなのでしょう。たとえば、アップルストアにいくと、特別な体験ができる。

さて、「experience」という単語には体験以外に、経験という言葉が当てられることもあります。体験と経験はどう違うのでしょうか?これも辞書で引いてみると

体験とは自分で実際に経験すること

となります(これ英語でどう表現するのでしょうか)。


◆経験は自分でするものとは限らない

この説明はなかなか、良くできていて、経験というのは自分でするとは限らないと書いてあるわけです。これは何を意味しているのでしょうか?

ドナルド・ショーンなどの学習論でいえば、経験は、体験が積み重なり、経験になっていきます。いろいろと体験をしていくうちに、法則(経験則)が見つかり、それが経験となるわけです。

ここで注意してほしいのは、体験を積み重ねるのは誰かということです。たとえば、チームなどで特定の人の経験を共有することがあります。これはその人の積み重ねた体験をみんなで経験として共有するということです。

たとえば、プロジェクトで特定のプロジェクトの経験を共有することがあります。これは一人一人ではなく、プロジェクトの誰かが体験したことを積み重ね、別のプロジェクトでも共有するということです。

このように、自分で体験していないことでも、経験化されていると、経験(による知識)として使うことができます。これが経験の特徴ですし、また、我々が経験を重視する理由でもあります。


◆体験を概念化して、経験にする

では、体験を積み重ねて経験化するというのは具体的には何をやっているのでしょう?そこにあるのが、概念化です。つまり、我々は体験を概念化して、経験にしているのです。

少し、具体的に考えてみましょう。リーダーがよく持つ経験則に、ステークホルダーがプロジェクトに対して協力的ではないという問題があります。なぜ、このように認識するのか考えてみてください。

たとえば、顧客はプロジェクトの進捗状況をまったく考慮せず、契約にない要求の検討をしてくれと頼んできた。

そこで上司に相談したところ、上司は断れるのかと言いながら、いま、人は出せないからプロジェクト側でなんとかしてくれという返事。

こういう体験を概念化されと、ステークホルダーはプロジェクトの都合など考えないという経験則が生まれるわけです。


◆体験は自慢話、経験はアドバイス

体験と経験の違いは、いろいろな意味を持ちます。

たとえば、あなたがマネジャーで、相談してきた部下へのアドバイスのために自分の成功体験を話そうとします。成功体験を話しても、部下にはあなたが自慢話をしているようにしか聞こえないでしょう。だいいち、あなたが10年前に体験したことがそのまま使えるなら、部下はそんなに困っていないでしょう。

この話にはもう一つ問題があります。それは、体験を経験にするという概念化を部下に任せていることです。本来はものごとを概念化してマネジメントをしていくのは上位者に役割ですが、こういう上司は意外と多いものです。このような態度だと、本人はどう思っていようと自慢話をしたいだけだと勘ぐられても仕方ないでしょう。

部下を指導する際には、まず、自分の体験を振り返り、概念化をして経験にします。その上で、経験を話したり、経験から導かれることを一緒に考えたりすることで、部下の立場になった指導をすべきです。

たとえば、上の例のように顧客が契約外の要求を受けた部下が相談にきました。自分もプロジェクトマネジャーを任されていたころにそんな経験があり、そのとき自分は、いろいろ人脈を調べ、出身大学の先輩が顧客担当者の上司と同級生だということを発見し、彼に頼んで宴席を作って貰い、本音で語り、一部については費用を持つように担当者に指示する話をとりつけました。これをそのまま、部下に伝えたら成功体験の自慢にしか聞こえないでしょう。


◆体験を経験に変えるとは

そこで、経験に変えて話します。「担当者の上に影響を与えられる人はいないか?そんな人を探して、自分が考えている線で説得して、落としたらどうだ」と指導するわけです。

もし、部下がこのような指示では動けないとすれば、具体的なところまで一緒に考えてあげればよいわけです。

経験化すれば、経験化されたアドバイスは相談に来た部下だけではなく、あなたの部下の多くが活用できるかもしれないことです。たとえば、外注先が契約の最小解釈でしか動かなくて困っている部下がいたとすれば、彼も同じように、影響者を探して影響を与えるという対応を思いつくかもしれません。

この顧客が契約を無視した要求をするという問題と、ベンダーが最小限しか動かないというのは全く異なる問題ですが、問題を概念化し、解決方法を考えることによって、同じ対応ができるわけです。具体的なままでは、大学の先輩とか、宴席とかがついてまわり、今のご時世では難しいと言われて終わってしまうでしょう。


◆経験化はキャリアを助ける

三つ目のポイントは、あなた自身のことです。体験はプロジェクトマネジャーをやっていた時期の話なのですが、経験化すれば、今の立場でも応用が効くということです。

たとえば、あなたの上司が、あなたの部下のあるプロジェクトの責任者を別の部門のプロジェクトをやらせると言い出しました。その部下を外したら、このプロジェクトはうまく行かないだろうし、顧客からも非難されるでしょう。なんとかしなくてはなりません。そこで、たとえば、顧客に話をつけて、上司に徹底的にプレッシャーをかけてもらうことができるかもしれません。

このように、体験を概念化し、経験にすることによって、体験の価値は大幅に上がります。この点をよく認識しておくとよいでしょう。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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