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第56話:コントロールを手放す(2012/10/22)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆オープンリーダーシップとは

周囲にもfacebookを使う人が増えてきて、ソーシャルネットワーク花盛りという感じですが、ソーシャルネットワーク時代に注目されているリーダーシップに「オープンリーダーシップ」があります。

オープンリーダーシップという概念そのものは、そんなに新しいものではないと思われます。リーダーシップの原典の一つであるマクレガーのいうY理論「人間は本来進んで働きたがる生き物で、自己実現のために自ら行動し、進んで問題解決をする」にきわめて近いものです。

もう少し正確にいえば、現実の世界では、「人間は本来なまけたがる生き物で、責任をとりたがらず、放っておくと仕事をしなくなる」というX理論とY理論をケースバイケースで使い分けています。ところが、インターネットやソーシャルネットワークの発達でX理論による統制はだんだん難しくなってきており、Y理論が常に求められるような世界になっています。このような世界に求められるリーダーシップを、改めてシャーリーン・リーが「オープンリーダーシップ」と呼んだのが注目されるようになったようです。

その意味で、オープンリーダーシップはY理論に基づくリーダーシップの再定義であるといえます。

さて、シャーリーン・リーはオープンリーダーシップを以下のように定義しています。

「オープンリーダーシップとは、謙虚に、かつ自信を持ってコントロールを手放すと同時に、相手から献身と責任感を引き出す能力を持つリーダーのあり方」


◆オープンリーダーシップは理想主義か

Y理論はよく性善説に基づく理想主義だと言われますが、なぜでしょうか?

一つは人間の性善説にあるわけですが、仮に性善説だとしてもマクレガーの時代からつい最近、つまり、ソーシャルメディアが出てくるまではそのようなリーダーシップを実現方法がなかったことによる部分が大きいのではないかと思われます。

ところが、シャーリーン・リーの定義をみても現実離れしているとは思えません。コントロールを手放して、相手から献身と責任感を引き出すことは、ソーシャルネットワークを活用すれば、現実的に十分あり得るリーダーシップ像です。

もちろん考え方なので、コントロールを手放すことはありえないと思うリーダーもいるでしょう。しかし、それは不可能だということではなく、そうしたくないだけの話です。そうせざるを得ない事情があれば、そのようなリーダーシップに取り組まざるをえないでしょう。


◆情報によるコントロールができなくなった

では、なぜ、いまオープンリーダーシップなのでしょうか。大きな理由は2つあります。

一つは上で述べたように、ソーシャルメディアにより情報による統制が難しくなってきていることです。もちろん、社員やメンバーがあらゆる情報を手に入れることができるわけではありません。機密情報はあります。先日、ソフトバンクのかなり職位の高い人と話をしていたら、「スプリント・ネクステル」の買収は多くの従業員の仕事に影響が出てくると思うが、ほとんどの人が知らなかったといっていました。このような情報が出てこないからオープンではないという話ではありません。

X理論のリーダーシップのほとんどは日常的な情報統制です。たとえば、課長は課員より多くの経営方針に関する情報を持つことによって、課員の業務の妥当性を判断し、コントロールをすることができます。この情報の多くは、戦略がどうだとかいう難しい話ではなく、部長が何を考えているかといったレベルの話です。部長の方針に従うことが評価につながり、そこには恣意性が入り込む余地があり、それが統制を可能にしています。

ところが、ソーシャルネットは、このようなヒエラルキーを超えて、直結のパスを作ります。こんな話があります。入社4年目の社員が役員とfacebookで友達でした。ある日、部長から不条理を突き付けられた社員はfacebookで「一般論」としてつぶやきました。それが役員の目に留まり、不条理を突き付けた部長が怒られたそうです。ここにさらに、社内の情報をどこまで開示していいのか」といった情報統制のあり方論のようなものを持ち込もうとする人がいますが、ナンセンスでしょう。

このように情報により統制には、恣意性が入る余地がなくなり、統制のパワーの源が無くなりつつあります。

あるいは、顧客に関する情報をこれまでの付き合いから多く持っています。課員がうまく行かない交渉も、課長はまとめることができます。これが、統制のパワー源でした。ところが、ソーシャルネットによって、課長が持っている情報より多くの情報を手に入れることができるようになってきました。それによって、やはり、統制のパワー源をなくしています。


◆コントロールをすると競争に負ける

このように、情報による統制がしにくくなっています。もう一つの理由は、ビジネスの付加価値がサービスに移りつつあることです。サービスに移ると顧客接点の重要性が増します。すると、望む、望まないにかかわらず、統制はできなくなります。統制をしようとすると、現場の動きが遅くなり、ビジネス上の致命傷になりかねません。


◆プロジェクトにおけるオープンリーダーシップの必要性

さて、プロジェクトについて考えてみましょう。プロジェクト活動におけるリーダーシップもだんだん、オープンリーダーシップが必要になってきています。その理由は、プロジェクトの最初に計画した活動と、現実に行わなくてはならない活動がずれるようになってきたことです。

もともとプロジェクトは、計画段階に時間をかけ、不確実性に対して十分な検討をし、これでいけるという計画を組織として承認し、進めるようになっています。初期の計画では決まらない場合には、前に進みながら、計画を固めていきますが、いずれにしても組織の承認が必要になります。ビジネスの動きが速くなり、現場がそれに対応するためには、組織の承認を得ることが実情と合わなくなってきています。

プロジェクトには2人のリーダーがいます。一人は現場のリーダーで、プロジェクトマネジャーです。もう一人は、プロジェクト活動全体のリーダーで、一般にプロジェクトスポンサーと呼ばれます。

プロジェクトスポンサーにはオープンリーダーシップが求められます。にも関わらず、プロジェクトスポンサーの多くは組織からの要請もあり、統制型のリーダーシップに固執しようとします。

プロジェクトスポンサーのリーダーシップが統制型だと、プロジェクトマネジャーのリーダーシップも統制型になります。すると、プロジェクトチームは生産工程のように、決められたこと、言われたことしかやらなくなります。つまり、リーダーシップを放棄し、自律的な活動をやめてしまいます。

プロジェクトの成果物の品質が悪いときには、100%この問題が絡んでいるといってもよいでしょう。にもかかわらず、多くの組織はこの問題の解決策として、統制の強化、つまり、品質管理の強化を行おうとします。そして、だんだん、利益が痩せていきます。


◆コントロールを手放す

今、必要なことは、コントロールを手放すことです。そして、コミットメントを引き出すことです。そのために、シャーリーン・リーは

(1)顧客や社員が持つパワーを尊重する
(2)絶えず情報を共有して信頼関係を築く
(3)好奇心を持ち、謙虚になる
(4)オープンであることに責任を持たせる
(5)失敗を許す

のルールを提唱しています。

このルールを実践し、コントロールを手放してみませんか?


【参考資料】
シャーリーン・リー(村井章子訳)「フェイスブック時代のオープン企業戦略」
朝日新聞出版(2011)


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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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