◆感情労働とは
感情労働が注目を浴びるようになってきました。「感情労働シンドローム」を書いたエッセイストの岸本裕紀子さんは、感情労働を
人を相手にしたシチュエーションで、業務上適切な感情を演出することが求められる仕事
だと定義されています。このような仕事では、気持ちの管理・抑制にポイントを置いた精神的な労働が求められます。感情労働に関する研究は、1970年代に米国で始まり、その対象になったのは、キャビンアテンダントでした。その後、看護師などに対象が広がりました。また、サービス業も感情労働の対象だと考えられるようになってきました。
このような定義をすると、多くの仕事は感情労働とみなすことができます。実際に、この本では、教師とか、営業、NPOなどの仕事を感情労働として、その特性を分析しています。
◆マネジャーの仕事は感情労働?
同じような意味で、マネジャーの仕事も感情労働ではないかと思うことがあります。今は、マネジャーの90%以上が業務も執り行っていると言われますが、それでもマネジャーの業績の大半は、部下の仕事によってもたらされます。つまり、業績を上げるには、部下をうまく動かせることが不可欠です。
以前であれば、「課長」だとか「部長」という言葉に無条件に尊敬する文化があり、それだけでそれなりに動いてくれていました。いまは、そんなことはありません。たとえば、尊敬できる上司はときけば、
戦略を作れて、自らリーダーシップのもとに、実行ができる。部下のパフォーマンスを高めることに秀でており、顧客や上位組織との交渉において部下にメリットがあるような結果を出す。
といったあり得ない答えが返ってきます。部下は自分が目指すものを理想の上司と考えるからです。方向性は現場で対応、部下にはついてこい、顧客や上位組織には、形を捨てて実を取るといった行動は尊敬の対象にはならないのです。
こんな人材は一握りで、そんな上司に当たるのは、宝くじに当たるようなものです。部下を育てるときには、欠点を指摘するより、長所を延ばせと言いますが、以前は、できの上司に対してもいいところを見つけて、それなりに折り合って、上位者として尊敬していたものです。
◆尊敬されない中で、いかに動かすか
そのような考え方が通用しなくなってきたわけで、部下から尊敬されないという前提で、どのように部下を動かすかがマネジャーの現代的課題だといえます。
話は変わりますが、僕が会社に勤めていたときに、「さんづけ」する上司がいました。当時はこれだけでも、結構、違和感があったものです。仕事を頼むときにも、命令(指示)ではなく、依頼です。まず、いつまでにできるかという条件を聞く。その上で、基本的にその条件を受け入れるという方法で仕事の指示をしていました。どちらかというと、上司の指示は絶対という時代でしたので、結構、違和感があったものです。
「さんづけ」は関係性の表現だったのだと思いますが、仕事を頼むときにお願いするというのは、実は、日常的に部下の仕事を見ていないということです。彼は研究者としての実務志向だった(マネジャーになりたくなかった)ので、そういう態度をとっていたのだと思いますが、彼にとってマネジャーとしての仕事はまさに感情労働だったのではないかと思います。
◆依頼をすることを演出する
今では、彼のようなやり方は、一般化しているのではないでしょうか?上司が部下に対して、命令できるのは、日常的に部下の仕事の状態を見て、把握しているからです。しかし、今は多くのマネジャーは自分の「実務」を抱えており、部下の仕事ぶりに目配りしている余裕はありません。せいぜい、人事評価のときに振り返る程度です。
すると、部下に対して「依頼する」ことを演出し、仕事を進めていく必要があります。まさに、マネジャーとしての仕事が感情労働になっているわけです。実際に、部下に対して、「いついつまでにこれやっといて」的な仕事の出し方をすると、部下は聞いてくれないという話をよく聞きます。まず、仕事の意義から説明し、必要な期日を示し、相手の都合をきいて、必要によっては負荷調整をし、初めて、仕事を頼めるといった話です。ほとんど、上司に動いて欲しいときの流れと同じですね。
まあ、部下もこれが上司にとって心地よいことだとは思っていないようです。マネジャーになりたくないシンドロームというのは自分の今のスタンスが相手のとって厳しいものだと認識している証拠だと言えるのではないでしょうか。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
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