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第55話:スタイルについて考える(2012/10/05)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆プロジェクトマネジメントとスキル

PMスタイルは、プロジェクトマネジメントのスタイルという意味です。プロジェクトマネジメントと一般的なマネジメントの違いの一つは、プロジェクトマネジメントはかなり体系的に手法が確立されている点です。

現代のプロジェクトマネジメント(モダンプロジェクトマネジメント)が拠り所にしているのは、オペレーションズリサーチです。オペレーションズリサーチは、数学的・統計的モデル、アルゴリズムの利用などによって、さまざまな計画に際して最も効率的になるよう決定する科学的技法です。たとえば、スケジュール作成で使われているPERT手法はオペレーションズリサーチの代表的な手法です。

PMBOK(R)のツールと技法を見てみると、このようなOR手法が多く取り入れられており、それらの手法を使ったマネジメントプロセスを体系化し、プロジェクトマネジメントの体系としています。

このような背景があり、プロジェクトマネジメントは、一連のプロセス、あるいは、スキルの集合体のようなイメージを持つ人が多いようです。まず、この点について考えてみましょう。


◆スキルとは何か

そもそも、スキルとは何かという話があります。PMBOK(R)では、プロセスを知識エリア(統合、スコープ、タイム、コスト、品質、人的資源、リスク、コミュニケーション、調達)、とフェーズ(立上げ、計画、監視コントロール、実行、終結)に分けて整理しています。たとえば、計画におけるスコープですと

・要求事項収集
・スコープ定義
・WBS作成

の3つがあります。そして、それぞれのプロセスはインプット、ツールと技法、アウトプットからなります。たとえば、WBSの作成ですと

<ツールと技法>
要素分解

<インプット>
プロジェクト・スコープ記述書
要求事項文書
組織のプロセス資産

<アウトプット>
WBS
WBS辞書
スコープ・ベースライン
プロジェクト文書更新版

となっています。このように分類していくと、それぞれのプロセスを実行できること、あるいは、もう少し細かく考えると、ツールと技法を実行できることがが「WBS作成」というスキルだといえます。

そして、PMBOK(R)では、このようなスキルを40個強集めて、プロジェクトマネジメントの知識体系だと言っているわけです。


◆スキルでプロジェクトをマネジメントできるか

さて、ではこのようなスキルをたくさん習得すればプロジェクトマネジメントができるようになるのかというのが次の問題です。PMBOK(R)に否定的な人たちは、そんなことを覚えても仕方ないと考えます。PMBOK(R)の場合は、40個強のプロセスが一応、繋がっていますので(アウトプットがどこかのプロセスのインプットになっている)、そのつながりに従って、プロセスを実行していくことはできます。言い換えると、それで本当にプロジェクトがマネジメントできるかという問題です。

ちょっと話が逸れますが、スキルを点だと考えると、複数のスキルをつなぎ合わせたものは線です。計画のスコープマネジメントですと

要求事項収集 → スコープ定義 → WBS作成

という線ができるわけですが、機械的に各プロセスを実行しても、おそらく満足なWBSはできません。つまり、見かけ上つながっているのですが、実は線ではないので、その線上にあるWBSは使えないのです。


◆スタイルが必要

ここにスタイルが必要になります。たとえば、

プロジェクト全体を4〜5人のチームに分けて、チームごとにタスクを明確にし、1週間単位で進捗を管理し、1ヶ月スパンでスケジュール遅れの是正を可能にする
というスタイルを持っているとします。このようなスタイルを持って初めて、上の線が意味を持ってきます。

今、スコープマネジメントの計画という、比較的スタイルが確立された場面を取り上げたわけですが、プロジェクトマネジメントにはこのようなスタイルを確立しなくてはできない場面がたくさんあるわけです。

説明の都合上、PMBOK(R)の話から入りましたのでスキルを習得して、スタイルを確立しようという話になりました。これは日本人の大好きな「守破離」という流れです。実際にこういう流れでプロジェクトマネジメントの習得をしている人も少なくありませんが、このやり方ではおそらくうまく行きません。スキルにどれだけ習熟すればいいのかという問題がついて回るからです。


◆スキル習得より、スタイルを確立しよう

プロジェクトリーダーが考えるべきことは、どういうスキルが必要かということではなく、どういうマネジメントをすればプロジェクトがうまく行くかです。つまり、スタイルなのです。スタイルを確立し、そのスタイルに必要なスキルを習得していくという目的指向のアプローチが必要です。

もちろん、全くスキルがないのに、スタイルを考えることは難しいですし、スタイルを考える意味があるのは程度のスキルがあってのことです。そのようなスキルはプロジェクトマネジャーを担当する以前に身につけておく必要がありますが、それは、メンバーとして参加しているプロジェクトでプロジェクトマネジャーのやっていることを観察するだけでかなりの部分がカバーできます。

ということで、プロジェクトリーダーになったらまず、スタイルを確立し、必要なスキルを身につけていくと同時に、それをブラッシュアップしていくとよいでしょう。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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