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第52話:イノベーションを活性化する組織のリスクマネジメント(2012/08/27)

プロジェクトマネジメントオフィス 好川 哲人


◆リスクの構造

組織のリスクマネジメントに取り組んでいる企業の多くは、プロジェクトのリスクマネジメントの支援をすることを中心的な役割にしています。簡単にいえば、リスク計画のレビューや、リスクチェックリストの提供などです。これは適切なマネジメントなのでしょうか。今回はこの問題を考えてみます。

リスクの構造というのは

根本原因 → 脅威 → (リスク) → 損失

という構造になっています。よく使われる漏電による火事の例でいえば

根本原因:漏電
脅威:漏電部分の近くに引火物がある
リスク:引火物が火事を起こす(確率)
損失:火事

という構図でとらえます。

プロジェクトリスクマネジメントでは対応策は、回避、緩和、受容などを取ります。受容はなにもせずに火事が起こってから対応するための準備だけをしておくことです。たとえば、火事が発生したときに消火手順を決めておくといったことです。緩和は火事が起こってもそのダメージが小さくなるように対応することで、たとえば、消火器を準備しておくなどの対応策が考えられます。


◆回避策は組織の役割にすべきことが多い

問題は回避です。引火物を取り除くと回避できるように見えますが、また、新たな引火物が生じる可能性があります(たとえば、埃はしばらくするとたまる)。その意味で、回避策にはなりません。回避するためには、漏電そのものをなくす、あるいは、漏電ブレーカをつけて漏電の影響が引火物と結びつかないといった方法が必要になります。これが回避策です。

一般論としてプロジェクトのリスクに対して回避策を取ることは難しいケースが多く、そのような場合には緩和策を取ることになります。ところが、次のプロジェクトでもそれが原因になって同じリスクが発生するとすれば、その原因を取り除く必要があることは明らかです。

このようなリスクへの対応をするのは、プロジェクトではなく、組織のリスクマネジメントの役割です。たとえば、よくあるリスクで、メンバーのスキルが不十分だというリスクがあります。これに対して、メンターをつけるとか、ツールを準備するとかといった緩和策は取れますが、このリスクを回避しようとすると、組織が人材育成をするしか方法はありません。

このような例は、たくさんあります。オフショアなどのリスクもそうですし、新規技術の導入に伴うリスクなども、回避をしようと思えば組織としての対策が必要になります。

つまり、プロジェクトリスクマネジメントにおける組織のリスクマネジメントの役割は、多くのプロジェクトで起こるようなリスクの原因を解消し、プロジェクトリスクを減らすことに他なりません。


◆イノベーションのための組織のリスクマネジメント

このことは、イノベーションにおいて重要な意味を持ってきます。通常のプロジェクトのリスクというのは、回避(緩和)を基本とした受動的なリスクマネジメントですが、イノベーションの場合には、能動的なリスクに対するマネジメントが必要になります。つまり、回避してはならないリスクの対応をしなくてはならないわけです。

言い換えると、イノベーションでは、通常のプロジェクトと比べて、積極的にリスクをとる必要があります。そこで、組織に求められるのは、プロジェクトがリスクをとっても大丈夫なように、業務プロセスの組織的な改善・改革をしていくことです。たとえば、新しい技術の導入のステップを確立するとか、生産性を向上する、トラブルへの耐久性のある人材育成を行う、新商品開発の標準プロセスや支援組織を作る、リカバリーマネジメントの仕組みを強化するなど、すべきことはたくさんあります。

これらが、リスクマネジメントにおける組織の役割だといえます。

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著者紹介

好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。

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