◆囚人はどうやってトンネルを掘ったのか
構造化発明思考法という思考法をご存じでしょうか?
構造化発明思考法は問題を引き起こしている状況の中に、打開策を見出すという思考法です。この思考法の説明をするのによく使われる例があります。
2人の囚人が監房の床下に脱獄用の50メートルの穴を掘った。彼らは掘った土をいったいどこに隠したのか。
という単純な問題です。
答えを思いつかれた方は、創造性がある方です。
答えは、刑務所内の製パン所からナイロン製の袋を盗み出し、毎日、掘り進んだぶんの土を袋に入れていた。看守が見回る時間になると、袋詰めした土をすべて掘った穴に戻して監房はきれいにしていた。
というものです。ちなみに、脱獄した後の監房には、袋に詰まった土の山が残っていたというオチがつきます。
◆問題が内包するリソースを使って問題解決を行う
このように問題そのものが内包するリソース(この場合、トンネル)を使うと創造性が引き出されるというのが、構造化発明思考法の原理です。
プロジェクトと創造性というと、成果に関心が行きがちです。もちろん、プロジェクトの成果をクリエイティブなものにすることは重要なことはいうまでもありませんが、もう一つ、忘れてはならないのは、プロジェクトマネジメントの創造性です。
プロジェクトマネジメントは基本的には与えられたリソースを活用して問題を解決する技術です。確かに、全社を挙げての組織改革プロジェクトのようにリソースを気にしなくていいというプロジェクトもあります。あるいは、日常業務として行う商品開発や受託開発のプロジェクトでも、交渉やステークホルダマネジメントなどを通じてリソース自体を増やすというアプローチはありますが、それはあくまでも二次的な方法であって、まず、考えるべきことはプロジェクトが内包しているリソースを活用して問題解決を行うことです。まさに構造化発明思考法と同じ考え方です。
そして、リソースの使い方を考えるところに創造性が必要になります。
◆リソースを限定する意味
一つ、例を挙げてみましょう。日常業務のプロジェクトではついて回る人的資源の問題があります。平たくいえば、人が足らないという問題です。
まず、人が足らないというのは何を意味しているのでしょうか?計画に対して、それだけの人数が集められないケースとか、プロジェクトで必要なスキルに対して、そのスキルを持った人がいないという二つの意味があります。
ここでは、後者を想定してみましょう。プロジェクトに必要なある技術スキルを持っている人がプロジェクトにはいないとします。
内包したリソースに限定しなければ、そのスキルのある人をプロジェクトに配置してほしい、あるいは探してくると言う話になります。よく考えてみれば、そんなことができるのであれば、最初からしているわけで、こういう問題解決方法をとろうとすると、問題を複雑化するだけです。たとえば、Aさんというスキルを持つ人がプロジェクトYにアサインされているので、プロジェクトYのスケジュールを考慮してこのプロジェクトXの計画を見直そうといったことになります。計画上はそれもアリだと思いますが、どちらかのスケジュールが計画通りに行かないと大変な混乱が起こります。
◆内包したリソースを使うとは
内包したリソースでやろうとすると、どんな手があるのでしょうか?誰もが思いつくのは育成です。そのスキルを持つ人を育てる。ここまではいいと思いますが、問題は具体的な方法です。ここが創造性です。
よくある問題なので、いろいろな事例に遭遇したことがありますが、総合的にスキルレベルが高く、プロジェクトXのキーマンになっているBさんをプロジェクトYのメンバーと一時的にトレードし、プロジェクトYで担当業務を持ちながら、Aさんの仕事も手伝うという手を取ったプロジェクトマネジャーがいます。この方法は、構造化発明思考法の考え方だと言ってよいでしょう。
◆成果とマネジメントの両方を考える
さて、ここでもう一つ考えてみたいことは、この問題を何を作るかという問題と併せて考えることです。つまり、スコープ変更です。問題の立て方としては、
問題になっているスキルが不要な、より顧客満足の高い成果はないか
という問題です。当該スキルが新しい技術の場合によくあるのですが、その技術を使うこと自体が付加価値になっていると勘違いし、本来の要求とか、目的に立ち返らないで突き進んでしまう場合があります。人が足らないことは、顧客満足を高めたり、イノベーションを起こすチャンスだととらえ、もう一度、何がしたいのか、何のためにしているかを考え直し、本質を突き止め、同時に人の問題を解決することはチャレンジする価値があります。
ある意味で、ここにマネジメントの創造性にこだわる価値があります。問題が出てきたときに、自由にリソースを使うというのは、裏返しをすると、リソースに見合ったことをするということです。
商品やシステムの構想をするときに、理想を追求することが難しい理由の一つは、外部のリソースを当てにして、そこで他のプロジェクトとのコンフリクトが生じるためです。内容するリソースで実現する分には、この問題は発生しません。本当にできるかという上位組織からのチェックはついて回りますが、実はこの方法は落としどころも見えているので、比較的通り易い企画になります。
このようにクリエイティブを追う場合には、成果の創造性とマネジメントの創造性を同時に追いかけた方が成功の確率が高くなります。
そのような発想が必要な時代になってきました。
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好川哲人、MBA、技術士
株式会社プロジェクトマネジメントオフィス代表、PMstyleプロデューサー
15年以上に渡り、技術経営のコンサルタントとして活躍。プロジェクトマネジメントを中心にした幅広いコンサルティングを得意とし、多くの、新規事業開発、研究開発、商品開発、システムインテグレーションなどのプロジェクトを成功に導く。
1万人以上が購読するプロジェクトマネジャー向けのメールマガジン「PM養成マガジン(無料版)」、「PM養成マガジンプロフェッショナル(有料版)」や「コンセプチュアル・マネジメント(無料」、書籍出版、雑誌記事などで積極的に情報発信をし、プロジェクトマネジメント業界にも強い影響を与え続けている。
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